ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
上 下
245 / 322

第54話 文化祭2 5(2)

しおりを挟む
 去年同様、バタバタと準備していたら、いよいよ文化祭まで残り1週間になった。
 その間に私も絢音も16歳に別れを告げ、涼夏が企画した誕生日会を大いに楽しんだ。どんどん歳を取ることに涙していたら、とっくに17歳になっている奈都から白い目で見られた。冷たい女だ。
「私も大人の女性にならないと」
 二人の時にそう決意を表明すると、奈都が「えー」と不満げな顔をした。
「子供っぽいチサが好き」
「奈都はもう少し大人になって」
「卒業したら考えるよ」
 強い女だ。実際、高校生の内くらいは子供っぽくはしゃいでいたい。涼夏と絢音は年々大人びていくが、私は奈都とお子様同盟を組むことにしよう。
 絢音というと、誕生日会の少し前に、バンドで少々問題が発生したと言っていた。中学時代からの仲間である豊山さんが、ベースの男の子を連れてきたらしい。
 一岡高校に行ったLemonPoundの子かと思ったら、ユナ高の後輩だそうだ。竹中君といって、元々同じ中学校で、絢音も顔と名前くらいは知っているとのこと。
「男子禁制じゃなかったの?」
 不思議に思ってそう聞くと、絢音は複雑なため息をついて肩を落とした。
「私の認識ではそうだったんだけど、LemonPoundはそうじゃなかったし、練習中にベースが欲しいねって話し始めたのは私だし、断りづらい」
「豊山さんとその子は、いわゆる恋愛関係なの?」
「違うと思うけど、恋愛のことは私にはわかんない。長井さんと江塚君の予想も外れたし」
 GW明け、長井さんが江塚君と付き合い始める少し前に、絢音は二人は付き合わないだろうと予想していた。私も同じ意見だったが、二人があっさりくっついたことで、恋愛は難しいと絢音と二人で喋っていた。
「いきなり連れてきたの? 牧島さんと戸和さんはOKだったの?」
 豊山さんとも知らない仲ではないので悪く言いたくはないが、少々暴走気味の行動に感じる。実際、絢音は困惑しているし、他のメンバーはどう思っているのだろう。
 私の質問に、絢音はもどかしそうに答えた。
「ベースを連れてきていいかは事前に聞かれて、男子だなんて考えもしなかったからOKした。さぎりんは気にしてないみたい。ナミはさぎりんにベッタリだから、どうでもよさそう」
「戸和さん、ブレないね。つまり、豊山さんも男子が入ることに対してなんとも思ってないし、絢音もそうだって考えてるってことだね?」
 もし男子禁制という認識が豊山さんにもあれば、事前に確認したはずだ。LemonPoundは男女混合のバンドだったし、豊山さんは男子が加わることに抵抗がない上、絢音もそうだと考えている。
 実際、絢音も入学した頃は、綺麗であれば男女を問わず好きという発言をしていた。しかし、最近では周囲で恋愛沙汰が増えたからか、男子面倒くさいという考えに変わってきている。今回の件も、Prime Yellowsの存続に関わる問題に発展するかもしれない。
「とりあえず、音に厚みが出たのは確かだし、文化祭はこのまま行くよ。どうせ来年は勉強と帰宅部とバンドを全部やるのは無理だし、状況次第では早めに抜けるかも」
 さっぱりとそう言った絢音の表情に、未練は感じられなかった。1年半続けてきたバンドを抜けることに寂しさはないのか聞くと、絢音はおどけるように微笑んだ。
「帰宅部が解散するなら泣くけど」
「それは私も泣く」
「莉絵もさぎりんも上手だし、ドラムは貴重だけど、固執はしてないね。人生の通過点の一つってくらい。ずっと同じところにいると、音楽の可能性を狭めそうだし」
 なかなかカッコイイ台詞だ。私もさらっとそんなことを言ってみたいが、生憎そこまでこだわっているものがない。
「帰宅部は通過点にしないでね。絢音に捨てられたら絶叫する」
 嘆願するようにそう言うと、絢音はうっとりと目を細めた。
「絶叫する千紗都、可愛い」
 軽く私の体を引き寄せてキスをする。ひとまず、帰宅部については大丈夫そうだが、時々絢音のそういう淡白なところが怖く感じる。
 その怖さは涼夏にもある。後日そんな話を涼夏にすると、涼夏は「千紗都も同じだけど」とからかうように言った。
「千紗都も大概、色んなものをさっくり切り捨てるぞ?」
「涼夏と絢音にはしない」
「絢音も同じなんでしょ。バンドは切り捨てても、私と千紗都にはそうじゃない。私もだ」
 なるほど、それはそうかもしれない。理屈ではわかるが、常に不安がつきまとうのは、結局自分に好かれる自信がないからだろう。この性格はずっと変わらない気がするし、二人もそこは問題視していない。
「それにしても、2学期になってから男子関係の話題が多いな。うんざりだ」
 放課後、ブラックジャックをして遊びながら、いや、ブラックジャックの研究をしながら、涼夏がやれやれと首を振った。夏休み明け、奈都も部活でそんな話ばかりだったと言っていたし、文化祭の準備が始まってから男子と絡むことも多い。
 それは去年も同じだったのである程度諦めているが、今年はなんだか積極的に話しかけられている。思えば、実行委員を決める時からおかしな空気が流れていて、絢音に何が起きているか確認したほどだった。涼夏も始業式の私が可愛すぎたと言っていたが、そこまでいつもの私は可愛くないのかと落胆する。
 とりあえず私たちは他人の恋愛沙汰に巻き込まれないようにしようと話していた矢先、糸織が私たちのもとにやってきて、予想だにしない質問を投下してきた。
「なんていうか、非常に聞きづらい質問なんだけど、千紗都は川波君のこと、どう思ってる?」
 どことなくそわそわした様子で、じっと見つめても目が合わない。涼夏の方を見ると、いかにも作ったような微笑みを浮かべて私と糸織を眺めていた。
「どうっていうのは、どういう意味で? 今のところ、聞きづらい理由がわからない」
 薄々気付きつつも、頓珍漢な回答をするといけないので、念のため確認する。糸織は「恋愛的な意味で」と、ポツリと呟いた。まあそうだろう。
「1ミクロンも好きじゃないし、私の中で川波君も笹部君も岡山君も、限りなく同列なんだけど」
 それはもう、糸織にも何度もそう言っていて、今更改まって確認する意味がわからない。かなり近しい糸織をもってしても、私と川波君の間に何かあるように見えるのだろうか。
 私が何も聞かなかったからか、糸織がチラッと私を見て、言い淀むように口を開いた。
「例えば川波君に彼女が出来ても、千紗都はなんとも思わないの?」
「まあ、便利な盾がなくなるなってくらいかな。糸織、川波君と付き合うことになったの?」
 最近一緒にいる時間が多いし、そういう展開になっても不思議ではない。糸織が恋愛に興味があるのは少々意外だが、年頃の女子だし、相手が川波君ならいいのではないかと思う。
 おめでとうと拍手すると、糸織は慌てた様子で手を振った。
「いや、川波君、千紗都のことすごい好きだし、そういうことになったわけじゃない」
「なんだ。残念」
「川波君が千紗都のことを好きなの、千紗都的にはどうなの?」
「迷惑だけど」
 秒で答えると、糸織が驚いたように眉を上げ、涼夏が口元を押さえて肩を震わせた。なんだかよくわからない展開だ。私は糸織にも何度もそう言ってきたはずである。
「この話、何回かしたと思うけど」
 困惑気味に聞くと、糸織は「そうなんだけど」と呟いてから、思案げに眉をゆがめた。
「冗談だと思ってた。っていうか、誰かに好かれるのって、嬉しくない?」
「全然。少なくとも男子からは要らない」
 きっぱりそう言うと、糸織は少し考えるように沈黙してから、俯きがちに口を開いた。
「ちょっと意外」
 これは嫌われた流れだろうか。もしそうなら残念だが、私ではない私を好きになられても仕方ない。
 どうしたものかと考えていたら、涼夏が机の上で手を組んで言った。
「キミは千紗都を、天使か何かのように考えているのかね」
 突然芝居調だ。面白い。
 顔を上げた糸織に、涼夏はカッと目を見開いた。
「千紗都はかつて恐るべき可愛さで結波にあり、全男子を支配した恐怖の女王だったのだ!」
「いや、そんなものになった覚えはないし、今もユナ高生だから」
 冷静に手を振ると、糸織が少しだけ笑って息を吐いた。
「まあつまり、もし私がとち狂って川波君に告白するようなことになっても、千紗都は平気ってことでいい?」
「そうだね。でも、私を理由に断られても私を恨まないでね。っていうか、先に私に告白するように言っておいて。秒で断るから」
 そもそも私はとっくにそうする準備が出来ているのに、向こうが私と友達のままで満足しているから決定的な破局に至らないのだ。私の方でも、川波君の好意を利用していたところがあるので、それもいけなかったのだろう。
 いずれにしても、糸織が告白したら何かしら状況が動く。もしかしたら、中学の時に友達が離れていったように、糸織とはここで終わりになるかもしれないが、涼夏と絢音さえ残ればそれでいい。
「キミには期待している」
 何故か芝居調のままの涼夏が可愛い。手元には、まだ勝負が決していないカードが置かれている。
 私には川波君と糸織の恋愛よりも、もう1枚カードを引くかどうかの方が大切なのだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†
青春
私‭――田所が同級生の遠野と一緒に毎日ご飯を食べる話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...