234 / 309
番外編 世界旅行2(5)
しおりを挟む
小西さんが自分もアカウントを作ってみると言って、自分の端末に戻ったので、再び二人でオンライン世界旅行を続けることにした。
4ゲーム目は、いきなり大都会に放り込まれた。片側3車線の右側通行。すぐ隣の超高層ビルには「FEDERAL RESERVE BANK OF BOSTON」と書かれており、遠くにはアメリカの国旗がなびいていた。
「私の予想だと、ボストン。しかもかなり都心」
「実は私もそう思ってた。気が合うね」
自信たっぷりの絢音に深く頷いて返す。検索なしでもいいくらいだが、せっかくなのでいつも通り旅行をしようと少し進むと、すぐに市街地に突っ込んだ。
建ち並ぶビルと無数の看板、信号機とショップ、歩行者と乗用車。セブンイレブンを通り過ぎると中華街に入り、アメリカと中国の国旗が並んで立っていた。珍しい光景だ。
スタート地点から反対側に行くと、大きな河を渡った。橋の端に「WELCOME TO SOUTH BOSTON」と書かれており、反対側には「WELCOME TO FORT POINT」と書かれていた。ひとまず安心する。心のどこかでボストンではない可能性も考えていたが、その心配もなくなった。
SOUTH BOSTONの方はオフィス街で、ビル群を抜けると港らしき建物で行き止まりになった。ズームすると、「Boston Convention and Exhibition Center」とあった。港ではなく、展示場のようだ。
「銀行より、こっちの方が安心だね。ちょっとスタート地点から距離はあるけど、辿れる自信がある」
「一本道だったしね」
私の意見に、絢音が賛同するように頷いた。銀行名だと、最悪支店が他にもあるかもしれないが、この展示場なら確実に一ヶ所に決まるだろう。
Google Mapでアメリカを表示して、「Boston Convention and Exhibition Center」で検索する。もちろん表示されたのは一ヶ所で、橋を渡ったすぐのところに銀行もあった。
誤差4メートル、5000ポイント。もちろん、過去最少誤差だが、これは問題が簡単だった。
「これくらいだと検索は要らないって思うけど、ルールは1ゲーム内で統一したいし、難しいところだね」
一応、日本だった場合は検索はしないというルールを作ってはあるが、まだお目にかかったことがない。
日本も見てみたい気もするが、文字がまったくわからない国の方が盛り上がる。
ワクワクしながら、最後の「PLAY NEXT ROUND」を押した。
最後のゲームは、高速道路っぽい、大きな道路上だった。遠くにはビルが見えるが、周囲には椰子のような南国の樹が生い茂っている。
ガソリンスタンドがあり、「PETRONAS」と書かれていた。50キロの看板には、「AWAS ZON HAD LAJU」と書かれており、まったく読めない。
反対車線にはよく高速道路で見るタイプの行き先板があり、左の看板には「Jln. Yahya Awal」と「Pusat Bandaraya」、右の看板には「Woodlands」、「Kota Tinggi」、「Kuala Lumpur」と書かれていた。
「マレーシアだね」
絢音が何でもないように言って、私は驚いて眉を上げた。
「なんでわかったの?」
「なんでって、クアラ・ルンプールって書いてあるじゃん」
言われてみたらそうだった。ただのアルファベットの塊としか認識していなかった。
今日の内容だったら、検索なしでもよかったかもしれないが、1ゲーム目のポーランドは無理だっただろう。今回も、クアラ・ルンプールからどれくらい離れているかはわからない。
高速道路を逸れて、「Surau Sulaiman」という地名の場所に入ってみる。一気にごみごみした東南アジアの景色になる。葉っぱの大きい緑の植物が無数に自生し、それに埋もれるように薄汚れた家々が建ち並んでいる。倒れそうな電柱と壊れそうな車は、いかにもマレーシアの田舎の景色だ。
私がそう言うと、絢音が「見てきたみたいに話すね」と笑った。
高速道路を挟んで反対の方に行くと、こちらは多少ましな家々が建ち並び、その内の1軒、カラフルにペイントされた建物に「SEKOL.AH AGAMA SALIMON」と書かれていた。サロンっぽい響きだが、一体何だろうか。反省会用にメモしておく。
高いビルのある場所まで行くと、マーケットや、中国語の書かれたホテルっぽい建物があった。ただ、高いビルだけ明らかに綺麗で、周りの景色から浮いている。「TENAGA NASIONAL BERHAD」と読める。高速道路からどう辿ったかは覚えていないが、検索するならこのビルが良さそうだ。
ちなみに、中国語の書かれた建物は「HOKKIEN HUAY KUAN」というらしかった。
「このテナガビルとホッキエンホテルと、どっちが確実に一ヶ所に決まるかなぁ」
意見を求めると、絢音が「ホテルは不安」と言った。確かに、テナガ自体は各地にありそうだが、このビルはここにしかない気がする。
Google Mapでマレーシアを表示して、検索窓に「TENAGA NASIONAL BERHAD」と打ち込む。そして、赤いマークが20個くらい表示されて、思わず絢音と声を出して笑った。最後に罠が潜んでいた。
クアラ・ルンプール内に10個ほど、他にはだいぶ北に1つ、だいぶ南に1つ、だいぶ北東に1つ、だいぶ東に1つ、シンガポールに数個。
「さっきの高速道路の表示から考えると、クアラ・ルンプールじゃない気がする」
絢音の意見はもっともだ。クアラ・ルンプールの近郊という可能性は十分にあり得るが、ひとまず除外する。
4ヶ所を見てみた結果、東のクアンタンにある表示が、一番高速道路との距離感が一致するということでポイントしたら、結果は265キロも離れており、4187ポイントだった。
ちなみに、調べた4ヶ所はいずれも違い、見向きもしなかったシンガポールに近い場所が正解だった。
「最後に舐めプしちゃったね」
「油断大敵」
最後に素晴らしい教訓を得て、23946ポイントでゲームを終えた。
4ゲーム目は、いきなり大都会に放り込まれた。片側3車線の右側通行。すぐ隣の超高層ビルには「FEDERAL RESERVE BANK OF BOSTON」と書かれており、遠くにはアメリカの国旗がなびいていた。
「私の予想だと、ボストン。しかもかなり都心」
「実は私もそう思ってた。気が合うね」
自信たっぷりの絢音に深く頷いて返す。検索なしでもいいくらいだが、せっかくなのでいつも通り旅行をしようと少し進むと、すぐに市街地に突っ込んだ。
建ち並ぶビルと無数の看板、信号機とショップ、歩行者と乗用車。セブンイレブンを通り過ぎると中華街に入り、アメリカと中国の国旗が並んで立っていた。珍しい光景だ。
スタート地点から反対側に行くと、大きな河を渡った。橋の端に「WELCOME TO SOUTH BOSTON」と書かれており、反対側には「WELCOME TO FORT POINT」と書かれていた。ひとまず安心する。心のどこかでボストンではない可能性も考えていたが、その心配もなくなった。
SOUTH BOSTONの方はオフィス街で、ビル群を抜けると港らしき建物で行き止まりになった。ズームすると、「Boston Convention and Exhibition Center」とあった。港ではなく、展示場のようだ。
「銀行より、こっちの方が安心だね。ちょっとスタート地点から距離はあるけど、辿れる自信がある」
「一本道だったしね」
私の意見に、絢音が賛同するように頷いた。銀行名だと、最悪支店が他にもあるかもしれないが、この展示場なら確実に一ヶ所に決まるだろう。
Google Mapでアメリカを表示して、「Boston Convention and Exhibition Center」で検索する。もちろん表示されたのは一ヶ所で、橋を渡ったすぐのところに銀行もあった。
誤差4メートル、5000ポイント。もちろん、過去最少誤差だが、これは問題が簡単だった。
「これくらいだと検索は要らないって思うけど、ルールは1ゲーム内で統一したいし、難しいところだね」
一応、日本だった場合は検索はしないというルールを作ってはあるが、まだお目にかかったことがない。
日本も見てみたい気もするが、文字がまったくわからない国の方が盛り上がる。
ワクワクしながら、最後の「PLAY NEXT ROUND」を押した。
最後のゲームは、高速道路っぽい、大きな道路上だった。遠くにはビルが見えるが、周囲には椰子のような南国の樹が生い茂っている。
ガソリンスタンドがあり、「PETRONAS」と書かれていた。50キロの看板には、「AWAS ZON HAD LAJU」と書かれており、まったく読めない。
反対車線にはよく高速道路で見るタイプの行き先板があり、左の看板には「Jln. Yahya Awal」と「Pusat Bandaraya」、右の看板には「Woodlands」、「Kota Tinggi」、「Kuala Lumpur」と書かれていた。
「マレーシアだね」
絢音が何でもないように言って、私は驚いて眉を上げた。
「なんでわかったの?」
「なんでって、クアラ・ルンプールって書いてあるじゃん」
言われてみたらそうだった。ただのアルファベットの塊としか認識していなかった。
今日の内容だったら、検索なしでもよかったかもしれないが、1ゲーム目のポーランドは無理だっただろう。今回も、クアラ・ルンプールからどれくらい離れているかはわからない。
高速道路を逸れて、「Surau Sulaiman」という地名の場所に入ってみる。一気にごみごみした東南アジアの景色になる。葉っぱの大きい緑の植物が無数に自生し、それに埋もれるように薄汚れた家々が建ち並んでいる。倒れそうな電柱と壊れそうな車は、いかにもマレーシアの田舎の景色だ。
私がそう言うと、絢音が「見てきたみたいに話すね」と笑った。
高速道路を挟んで反対の方に行くと、こちらは多少ましな家々が建ち並び、その内の1軒、カラフルにペイントされた建物に「SEKOL.AH AGAMA SALIMON」と書かれていた。サロンっぽい響きだが、一体何だろうか。反省会用にメモしておく。
高いビルのある場所まで行くと、マーケットや、中国語の書かれたホテルっぽい建物があった。ただ、高いビルだけ明らかに綺麗で、周りの景色から浮いている。「TENAGA NASIONAL BERHAD」と読める。高速道路からどう辿ったかは覚えていないが、検索するならこのビルが良さそうだ。
ちなみに、中国語の書かれた建物は「HOKKIEN HUAY KUAN」というらしかった。
「このテナガビルとホッキエンホテルと、どっちが確実に一ヶ所に決まるかなぁ」
意見を求めると、絢音が「ホテルは不安」と言った。確かに、テナガ自体は各地にありそうだが、このビルはここにしかない気がする。
Google Mapでマレーシアを表示して、検索窓に「TENAGA NASIONAL BERHAD」と打ち込む。そして、赤いマークが20個くらい表示されて、思わず絢音と声を出して笑った。最後に罠が潜んでいた。
クアラ・ルンプール内に10個ほど、他にはだいぶ北に1つ、だいぶ南に1つ、だいぶ北東に1つ、だいぶ東に1つ、シンガポールに数個。
「さっきの高速道路の表示から考えると、クアラ・ルンプールじゃない気がする」
絢音の意見はもっともだ。クアラ・ルンプールの近郊という可能性は十分にあり得るが、ひとまず除外する。
4ヶ所を見てみた結果、東のクアンタンにある表示が、一番高速道路との距離感が一致するということでポイントしたら、結果は265キロも離れており、4187ポイントだった。
ちなみに、調べた4ヶ所はいずれも違い、見向きもしなかったシンガポールに近い場所が正解だった。
「最後に舐めプしちゃったね」
「油断大敵」
最後に素晴らしい教訓を得て、23946ポイントでゲームを終えた。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる