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番外編 七夕(3)
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放課後、もう16時近いがまだ日は高く、しかも暑い。まだ梅雨は明けていないが、すっかり夏だ。そして、七夕なのに天気が良い。7月7日は統計的に天気が悪いので珍しい。
教室の窓から空を眺めていたら、後ろから絢音に息を吹きかけられた。
「ふー、ふー」
「何してるの?」
「携帯扇風機」
突飛な発想だ。顔が近い上、唇を突き出しているのでキスしたいが、クラスメイトがたくさんいるのでやめておこう。
9つの願いの内、その場で出来ないクッキーを除いて、最も難易度が高いのはパンツである。どうするのか言い出しっぺに聞いたら、絢音がさらに顔を近付けて小声で言った。
「千紗都が急ぐなら脱いできてもいいよ? でも、駅に着いてからの方が蒸れてるよ? 蒸しパン」
「蒸しパン!」
付け加えられた一言に思わず笑ってしまったが、内容的には本当にどうでもいい。むしろ蒸れていない方がいいと思うが、願った本人の意図としては蒸れていた方が良かったのだろう。
「考えてみたら、これ私が引いて良かった。パンツを脱いで渡すよりだいぶいい」
「そうだね。私も、渡す側になることはあんまり考えてなかった」
そう笑って、絢音は脱いでくると言って出て行った。しばらくして涼夏と一緒に戻ってきて、二人から丸めた布を渡される。どことなくしっとりしている。
10秒握って返そうとしたら、駅まで持っていていいと言われた。いいも何も、別に持っていたくないのだが、涼夏にまでせっかく脱いだからと言われたので、丸めたままスカートのポケットに突っ込んだ。何となく太ももが生温かい。
「じゃあ、自己紹介でもしながら帰ろうか。あっ、千紗都は私の荷物持ってね」
絢音がそう言ってリュックを押し付けてくる。持つのは私じゃなくてもいいはずだが、涼夏に書いた本人だからと押し切られた。
外に出るとまだ随分と暑かった。前にも後ろにもリュックがあって実に不快だ。それこそバンズである。
「それじゃあ、自己紹介からしよう。千紗都が何を思ってこの願い事を書いたのかはよくわからんけど」
「仲良くなるには、まず自己紹介かなって思って」
そもそもが、朝話していた「涼夏と絢音ともっと仲良くなる」から来ていると伝えると、涼夏はわかったと頷いた。
とりあえず名前と年齢と誕生日、それから帰宅部であることを話すと、涼夏はそうじゃないと首を振った。
「それはもう知ってる」
「涼夏が知らない私のことなんて何もないよ」
「いっぱいあるでしょ。歯ブラシの色とか」
そういうレベルなら確かにたくさんある。隣で絢音もくすくすと笑った。
「私は黄色だね。基本的に黄色が好き」
「下着は水色だったよ?」
ポケットから絢音のパンツを取り出して広げると、絢音が悲鳴を上げて手を伸ばした。
「こんなところで広げないで!」
「慌ててる絢音可愛い」
仕方がないのでポケットに戻す。誰にも見られていないといいが、どうだろう。暑くてあまり考えていなかったのは確かだ。
今日も一つ先の古沼を目指しているので、周囲に人は少ない。もっとも、もう少し歩いたら仁町女子の通学コースに入るので人目も増えるだろう。
額から汗が流れてきたので、ポケットに入っていた布で汗を拭った。涼夏に「何をしている?」と白い目で見られたが、見た以上の情報を提供できる気がしなかったので何も言わなかった。
そう言えば嗅がせて欲しいという願い事も引いていたので、涼夏のパンツを顔に押し当てて嗅ぐと、涼夏の匂いがした。少し酸っぱい。
涼夏が「ダメだこいつ」と諦めたように首を振り、絢音も「そういう意味じゃなかった」と半笑いを浮かべた。せめて願った本人くらい優しくしてほしいものだ。
それから、靴下を履く順番とか、目玉焼きの好みとか、爪ヤスリで爪を削るのが楽しいとか、どうでもいい自己紹介をして、絢音も同じように朝のルーチンなんかを話してから、絢音の引いた涼夏の願い事に移ることにした。
まず簡単そうなのは「笑って」だ。友達が笑っているのを見ると幸せな気持ちになるという、天使のような願い事である。
絢音に、せっかくだから動画を撮ると言われて、スマホの前で涼夏とひとしきり笑うと、絢音がそれを再生しながら微笑んだ。
「当たりの願い事を引いた。次、耳元で愛を囁くやつね。録音しよう」
こちらも嬉々として絢音がスマホを顔に近付けたので、とりあえず「絢音、好きー」と棒読みで囁いた。絢音が無念そうに首を振る。
「そうじゃない。涼夏、お手本」
ビシッと指を差されて、涼夏がたじろぎながら頷いた。こほんと咳払いして、うっとりと目を細める。
「気が付いたらすごい好きになってた。特に真ん中の柔らかい層が好き」
「何の話をしてるの?」
絢音に冷静に突っ込まれて、涼夏がさぁと肩をすくめる。なるほど。何か他のことを考えながらなら、恋愛感情に乏しい私にも出来そうだ。
いや、別に絢音のことを考えながらでもいいのだが、なんとなく恥ずかしい。
「私も、雄大な絢音が好き。天気がいい日にキラキラ輝く絢音をずっと見ていたい」
「湖みたいなのやめて」
的確なツッコミに涼夏が大笑いして、私もつられて笑った。さっきの「笑って」の願い事は、むしろ今果たされたと言っていい。
では次の願い事に行こうと言うと、絢音が残念そうに首を振った。
「愛は囁かれなかった。まあ、図らずも笑い声が録れたからいいけど」
結構四六時中笑っていると思うが、果たしてその音声を聴く日は来るのだろうか。絢音の思考はわからないが、私もよく家でみんなで撮った写真や動画を眺めているので、それと同じかもしれない。
いよいよ願い事も残り少なくなってきたので、古沼に着く前にバンズをやることにした。公園のベンチに荷物を置いて、絢音と二人で両側から涼夏を挟み込む。
書いた本人に正面を譲ろうと思ったが、絢音は後ろでいいと言って涼夏の背中に張り付いた。私は正面から絢音ごと涼夏の体を抱きしめる。おっぱい同士が触れ合うかと思ったら、絢音の手にガードされた。
「暑い。そして何者かに胸を揉まれてる」
涼夏が私の背中を引き寄せながら言った。確かに暑いし、せっかくの涼夏の指の感触も、ただ背中が汗だくである事実を突き付けられるだけだった。
涼夏の顔が近かったので何となくキスをしてから体を離すと、絢音はまだ張り付いたままで、十本の指が滑らかに涼夏の胸を揉んでいた。面白かったので、しばらく胸のアップを動画に収めると、完全にエッチな動画の様相だった。
「そう言えば、まだ嗅いでないから嗅いでおくね」
そう言って、二人のくっついているところに顔を押し付けて嗅ぐと、いい匂いがした。実際には汗臭かったかもしれないが、少なくとも私の脳は、それをいい匂いだと判断した。
絢音が体を離すと、涼夏が熱っぽい表情で息を吐いた。
「陵辱された。私の願い事のはずなのに、私以上に喜んでる女がいる」
「書いたの私だしね」
絢音が悪びれずに笑った。相変わらず胸を揉みたい欲求が私にはないのだが、とても楽しいらしい。
これでいよいよ残った願い事は、私のクッキーと、涼夏の「何かくれ」だけになった。クッキーは焼いてきてもらうか、その内休みの日にクッキーを焼く遊びでもすることにして、涼夏に渡せるものは今あるだろうか。
荷物が前後両側にあって探しにくいし、絢音も手ぶらで何も持っていない。どうしようかと相談すると、涼夏はまた家で探すか、百均で何か買ってきてくれと手を振った。その方が面白そうなものが探せて、こちらとしても有り難い。
古沼に到着したので、いつものように軽くハグして絢音と別れる。イエローラインのホームに向かおうとした私の手を涼夏が取った。
手を繋ぎたいのかと思ったらそうではなかった。
「すっかり忘れてたけど、絢音、ノーパンで帰らなかった?」
言われてみると、2つの布はまだ私のポケットに入ったままだ。走って追いかけるほどの緊急性は感じなかったので、連絡が来るかしばらく待ったが、スマホが震えることはなかった。私が考えるより、ノーパンであることに違和感を覚えないのだろう。
連絡は諦めてイエローラインに乗り込む。席が空いていたので、座りながら涼夏のお尻の下に手を忍ばせると、弾力のあるすべすべした感触がした。涼夏が小さく悲鳴を上げて私の手をどけた。
「何をするのか」
「いや、涼夏もずっとノーパンなんだよねって思って」
「今度千紗都もチャレンジするといい。解放感がある」
「色々不安になるから、時と場所は選びたい」
ポケットから涼夏のパンツを引っ張り出して、丸めたまま返した。絢音のパンツは洗って返そう。しばらくポケットの中で絢音の下着を弄び、その手の匂いを嗅ぐと、涼夏が呆れたように言った。
「千紗都って、匂いフェチなところあるよね」
「そうかなぁ」
少々心外だが、確かに汗臭い奈都を嗅ぐとか大好きだし、そういうところもあるかもしれない。
風も来ないのに手でパタパタ煽いでいると、涼夏がいたずらっぽい眼差しで言った。
「それで、仲良くなるっていう願い事は叶った?」
それがそもそもの発端である。一つ一つの願い事は、その大きな願い事を叶えるための手段に過ぎない。
「私はそう思ってるけど」
「そっか。じゃあ、織姫と彦星に感謝だな」
涼夏が拝むように両手を合わせたので、私は慌てて首を振った。
「いや、その二人、何もしてないから。企画を考えたの、私だから」
「それは、私の『楽しい企画を思い付きますように』っていう願い事が叶ったってことだな。織姫と彦星に感謝」
涼夏が満足げに笑って、合わせた手をこする。壮大な伏線を回収できたと言わんばかりのドヤ顔だ。だいぶ納得いかないが、可愛いからよしとしよう。
もっともっと親愛なる仲間たちと仲良くなりたい。時々こうして自分の願いを確認しながら、これからも努力していこう。
教室の窓から空を眺めていたら、後ろから絢音に息を吹きかけられた。
「ふー、ふー」
「何してるの?」
「携帯扇風機」
突飛な発想だ。顔が近い上、唇を突き出しているのでキスしたいが、クラスメイトがたくさんいるのでやめておこう。
9つの願いの内、その場で出来ないクッキーを除いて、最も難易度が高いのはパンツである。どうするのか言い出しっぺに聞いたら、絢音がさらに顔を近付けて小声で言った。
「千紗都が急ぐなら脱いできてもいいよ? でも、駅に着いてからの方が蒸れてるよ? 蒸しパン」
「蒸しパン!」
付け加えられた一言に思わず笑ってしまったが、内容的には本当にどうでもいい。むしろ蒸れていない方がいいと思うが、願った本人の意図としては蒸れていた方が良かったのだろう。
「考えてみたら、これ私が引いて良かった。パンツを脱いで渡すよりだいぶいい」
「そうだね。私も、渡す側になることはあんまり考えてなかった」
そう笑って、絢音は脱いでくると言って出て行った。しばらくして涼夏と一緒に戻ってきて、二人から丸めた布を渡される。どことなくしっとりしている。
10秒握って返そうとしたら、駅まで持っていていいと言われた。いいも何も、別に持っていたくないのだが、涼夏にまでせっかく脱いだからと言われたので、丸めたままスカートのポケットに突っ込んだ。何となく太ももが生温かい。
「じゃあ、自己紹介でもしながら帰ろうか。あっ、千紗都は私の荷物持ってね」
絢音がそう言ってリュックを押し付けてくる。持つのは私じゃなくてもいいはずだが、涼夏に書いた本人だからと押し切られた。
外に出るとまだ随分と暑かった。前にも後ろにもリュックがあって実に不快だ。それこそバンズである。
「それじゃあ、自己紹介からしよう。千紗都が何を思ってこの願い事を書いたのかはよくわからんけど」
「仲良くなるには、まず自己紹介かなって思って」
そもそもが、朝話していた「涼夏と絢音ともっと仲良くなる」から来ていると伝えると、涼夏はわかったと頷いた。
とりあえず名前と年齢と誕生日、それから帰宅部であることを話すと、涼夏はそうじゃないと首を振った。
「それはもう知ってる」
「涼夏が知らない私のことなんて何もないよ」
「いっぱいあるでしょ。歯ブラシの色とか」
そういうレベルなら確かにたくさんある。隣で絢音もくすくすと笑った。
「私は黄色だね。基本的に黄色が好き」
「下着は水色だったよ?」
ポケットから絢音のパンツを取り出して広げると、絢音が悲鳴を上げて手を伸ばした。
「こんなところで広げないで!」
「慌ててる絢音可愛い」
仕方がないのでポケットに戻す。誰にも見られていないといいが、どうだろう。暑くてあまり考えていなかったのは確かだ。
今日も一つ先の古沼を目指しているので、周囲に人は少ない。もっとも、もう少し歩いたら仁町女子の通学コースに入るので人目も増えるだろう。
額から汗が流れてきたので、ポケットに入っていた布で汗を拭った。涼夏に「何をしている?」と白い目で見られたが、見た以上の情報を提供できる気がしなかったので何も言わなかった。
そう言えば嗅がせて欲しいという願い事も引いていたので、涼夏のパンツを顔に押し当てて嗅ぐと、涼夏の匂いがした。少し酸っぱい。
涼夏が「ダメだこいつ」と諦めたように首を振り、絢音も「そういう意味じゃなかった」と半笑いを浮かべた。せめて願った本人くらい優しくしてほしいものだ。
それから、靴下を履く順番とか、目玉焼きの好みとか、爪ヤスリで爪を削るのが楽しいとか、どうでもいい自己紹介をして、絢音も同じように朝のルーチンなんかを話してから、絢音の引いた涼夏の願い事に移ることにした。
まず簡単そうなのは「笑って」だ。友達が笑っているのを見ると幸せな気持ちになるという、天使のような願い事である。
絢音に、せっかくだから動画を撮ると言われて、スマホの前で涼夏とひとしきり笑うと、絢音がそれを再生しながら微笑んだ。
「当たりの願い事を引いた。次、耳元で愛を囁くやつね。録音しよう」
こちらも嬉々として絢音がスマホを顔に近付けたので、とりあえず「絢音、好きー」と棒読みで囁いた。絢音が無念そうに首を振る。
「そうじゃない。涼夏、お手本」
ビシッと指を差されて、涼夏がたじろぎながら頷いた。こほんと咳払いして、うっとりと目を細める。
「気が付いたらすごい好きになってた。特に真ん中の柔らかい層が好き」
「何の話をしてるの?」
絢音に冷静に突っ込まれて、涼夏がさぁと肩をすくめる。なるほど。何か他のことを考えながらなら、恋愛感情に乏しい私にも出来そうだ。
いや、別に絢音のことを考えながらでもいいのだが、なんとなく恥ずかしい。
「私も、雄大な絢音が好き。天気がいい日にキラキラ輝く絢音をずっと見ていたい」
「湖みたいなのやめて」
的確なツッコミに涼夏が大笑いして、私もつられて笑った。さっきの「笑って」の願い事は、むしろ今果たされたと言っていい。
では次の願い事に行こうと言うと、絢音が残念そうに首を振った。
「愛は囁かれなかった。まあ、図らずも笑い声が録れたからいいけど」
結構四六時中笑っていると思うが、果たしてその音声を聴く日は来るのだろうか。絢音の思考はわからないが、私もよく家でみんなで撮った写真や動画を眺めているので、それと同じかもしれない。
いよいよ願い事も残り少なくなってきたので、古沼に着く前にバンズをやることにした。公園のベンチに荷物を置いて、絢音と二人で両側から涼夏を挟み込む。
書いた本人に正面を譲ろうと思ったが、絢音は後ろでいいと言って涼夏の背中に張り付いた。私は正面から絢音ごと涼夏の体を抱きしめる。おっぱい同士が触れ合うかと思ったら、絢音の手にガードされた。
「暑い。そして何者かに胸を揉まれてる」
涼夏が私の背中を引き寄せながら言った。確かに暑いし、せっかくの涼夏の指の感触も、ただ背中が汗だくである事実を突き付けられるだけだった。
涼夏の顔が近かったので何となくキスをしてから体を離すと、絢音はまだ張り付いたままで、十本の指が滑らかに涼夏の胸を揉んでいた。面白かったので、しばらく胸のアップを動画に収めると、完全にエッチな動画の様相だった。
「そう言えば、まだ嗅いでないから嗅いでおくね」
そう言って、二人のくっついているところに顔を押し付けて嗅ぐと、いい匂いがした。実際には汗臭かったかもしれないが、少なくとも私の脳は、それをいい匂いだと判断した。
絢音が体を離すと、涼夏が熱っぽい表情で息を吐いた。
「陵辱された。私の願い事のはずなのに、私以上に喜んでる女がいる」
「書いたの私だしね」
絢音が悪びれずに笑った。相変わらず胸を揉みたい欲求が私にはないのだが、とても楽しいらしい。
これでいよいよ残った願い事は、私のクッキーと、涼夏の「何かくれ」だけになった。クッキーは焼いてきてもらうか、その内休みの日にクッキーを焼く遊びでもすることにして、涼夏に渡せるものは今あるだろうか。
荷物が前後両側にあって探しにくいし、絢音も手ぶらで何も持っていない。どうしようかと相談すると、涼夏はまた家で探すか、百均で何か買ってきてくれと手を振った。その方が面白そうなものが探せて、こちらとしても有り難い。
古沼に到着したので、いつものように軽くハグして絢音と別れる。イエローラインのホームに向かおうとした私の手を涼夏が取った。
手を繋ぎたいのかと思ったらそうではなかった。
「すっかり忘れてたけど、絢音、ノーパンで帰らなかった?」
言われてみると、2つの布はまだ私のポケットに入ったままだ。走って追いかけるほどの緊急性は感じなかったので、連絡が来るかしばらく待ったが、スマホが震えることはなかった。私が考えるより、ノーパンであることに違和感を覚えないのだろう。
連絡は諦めてイエローラインに乗り込む。席が空いていたので、座りながら涼夏のお尻の下に手を忍ばせると、弾力のあるすべすべした感触がした。涼夏が小さく悲鳴を上げて私の手をどけた。
「何をするのか」
「いや、涼夏もずっとノーパンなんだよねって思って」
「今度千紗都もチャレンジするといい。解放感がある」
「色々不安になるから、時と場所は選びたい」
ポケットから涼夏のパンツを引っ張り出して、丸めたまま返した。絢音のパンツは洗って返そう。しばらくポケットの中で絢音の下着を弄び、その手の匂いを嗅ぐと、涼夏が呆れたように言った。
「千紗都って、匂いフェチなところあるよね」
「そうかなぁ」
少々心外だが、確かに汗臭い奈都を嗅ぐとか大好きだし、そういうところもあるかもしれない。
風も来ないのに手でパタパタ煽いでいると、涼夏がいたずらっぽい眼差しで言った。
「それで、仲良くなるっていう願い事は叶った?」
それがそもそもの発端である。一つ一つの願い事は、その大きな願い事を叶えるための手段に過ぎない。
「私はそう思ってるけど」
「そっか。じゃあ、織姫と彦星に感謝だな」
涼夏が拝むように両手を合わせたので、私は慌てて首を振った。
「いや、その二人、何もしてないから。企画を考えたの、私だから」
「それは、私の『楽しい企画を思い付きますように』っていう願い事が叶ったってことだな。織姫と彦星に感謝」
涼夏が満足げに笑って、合わせた手をこする。壮大な伏線を回収できたと言わんばかりのドヤ顔だ。だいぶ納得いかないが、可愛いからよしとしよう。
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