ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
上 下
206 / 322

番外編 七夕(2)

しおりを挟む
 せっかくの七夕なので、涼夏に努力で叶うと言われた、「涼夏と絢音ともっと仲良くなる」という願い事を掘り下げることにする。
 友達と仲良くなるには、やはりたくさん遊ぶのがいいだろう。一応AIにも友達と仲良くなる方法を聞いてみたが、共通の趣味や興味を見つけて積極的に関わるのがいいとのこと。方向性は間違っていないようだ。
 七夕にちなんだ遊びということで、願い事ゲームというのを考えてみた。「お好み焼きを」「豪快に」「食べる」みたいに、3人がそれぞれ1つずつフレーズを書いて、1つの願い事を作るゲームだ。
 早速休み時間にやってみると、「おっぱいを」「優しく」「放り投げる」という残念な結果になった。これは「放り投げる」を書いた私の戦犯だろう。
「せめて模範解答は用意して」
 絢音に言われて、それはそうだと頷いた。何を放り投げれば願い事になるのか、書いた私にもわからない。
 2回目は「お尻を」「激しく」「叩く」になって、涼夏がむず痒そうに言った。
「願い事に『叩く』はないでしょ」
「いや、普通に肩とか叩くでしょ」
 今度はちゃんと考えたと訴える。もっとも、涼夏がその手の単語を書いてくるのは容易に想像できたので、敢えて外したのは確かだ。
「人生で肩を叩いた記憶がない。まあいいや。とりあえずお尻を叩くから立って」
 涼夏にそう促されたが、謹んで辞退した。
 3回目は「絢音を」「素早く」「かき混ぜる」になり、かき混ぜて欲しそうな絢音を制しながら涼夏が言った。
「千紗都が動詞を担当してるのがダメだ。私と絢音のチームワークを見せる!」
 いかにもフラグっぽい発言である。それでは真ん中を担当すると、「大地を」「じっくりと」「舐め回す」になった。涼夏が頭を抱えて悲鳴を上げた。
「絢音に裏切られた! 突然の大地!」
「大地と戯れる涼夏が見たかったから」
 平然と絢音。もし「うなじ」とでも書かれていたら涼夏の求める願い事になっただろうが、そこは絢音が空気を読んでくれた。
 何にしろ、このゲームを楽しく出来るのは10分が限界だと、次の休み時間には新しい願い事ゲームを用意した。
「それぞれして欲しいことを書いて、シャッフルする」
「クリスマスパーティーのプレゼント交換みたいだな」
 私の提案に、涼夏がふむふむと頷いた。実に的確な喩えだ。生憎私自身はそんなことをした経験はないが。
 どうせ二人のことだから、「おっぱいを揉んでほしい」とか書いてくるだろうが、この3人ならどんな組み合わせになっても大事故は起こらない。好きなだけ二人でおっぱいを揉み合ってくれればいい。
 帰りまでに3つ用意することになったので、私は「自己紹介をして」「駅まで荷物を持って」「クッキーを焼いてきて」という願い事にした。2つ目はフラグ感があるが、挑戦は必要だ。本当はアイスとか食べたかったが、お金がかかるものは絢音が可哀想だし、私とてそんなに持っているわけではないのでやめておいた。
 二人も昼休みが終わるまでには書いたというので、最後の授業の前にランダムに交換すると、「嗅ぎたい」と「脱ぎたてのパンツを10秒握る」、そして私のクッキーの3つになった。想定はしていたが、ひどい願い事だ。
「絢音、このパンツのやつ、何?」
 私が半眼でそう聞くと、絢音は驚いたように目を丸くした。
「私が書いたなんて言ってない!」
「いや、絢音でしょ。涼夏っぽくない」
「千紗都は涼夏を理解してない。まあ、私だけど」
 あっさりと白状した上、「ちなみに嗅ぎたいのも私」と笑った。最後の一つは無事に涼夏が引いたようで、「両側からバンズになって」という、いかにも絢音らしい願い事だった。
 無事と言ったが、自分の願い事だから本来は自分が引いた方が良い。プレゼント交換とは種類が違うし、現に私には脱ぎたてのパンツを握りたい欲求がまったくない。
「あーあ、自分の一つも来なかった」
 絢音が楽しそうにそう言いながら、自分の引いた紙を広げた。私の荷物の願い事と、もう2つは「耳元で愛を囁いて」と「笑って」というものだった。どちらも涼夏ので、さっき「おっぱい」とか「お尻」とか「舐め回す」とか書いていた人とは思えない、まともな願い事である。
 絢音が「当たりだ」と手を叩くと、呆れたように涼夏が言った。
「この遊びの趣旨は、誰がどれを引いてもそれなりに当たりになるはずだぞ?」
 よほど突拍子もないものではない限り、人類の願い事など共通だ。そのはずだった。
「このパンツのやつ、ジョーカー?」
「私は別にバンズでもいい。ただし、外だと暑くて死ぬ」
 なお、涼夏が自分で引いた最後の1枚は、「何かくれ」だった。実にシンプルで潔い願い事だ。
 まだ最後の授業があるので、この休み時間は各自願い事を確認するだけにした。どう実現するか、帰りまでに考えよう。
「じゃあ、帰りに8個の願い事を叶え合って友情を深めよう」
 私が紙をまとめながらそう言うと、絢音が不思議そうに首をひねった。
「8個?」
「パンツの願い事は辞退することにした」
「ルールブックに、引いた願い事は願わなくてはならないって書いてあるよ?」
 そんなことはどこにも書いていない。涼夏が「願わなくてはいけない」と復唱しながら笑っているが、もう脱ぐ覚悟を決めたのだろうか。
 仕方がないので、せいぜいパンツを握って喜べる精神状態に整えよう。真っ当な状態とは思えないが。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...