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第44話 SNS(4)
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それからさらに数日、時々ツイートしたり、ついたリプに返事を書いたり、自分からもフォロワーのツイートにリプを打ったりしていたが、案の定飽きてきた。
元々インターネットに出会いは求めていないし、友達にも困っていない。何か帰宅部の活動に役立ちそうな新鮮なネタはないかと期待したが、話題の8割は男の話で、見ていて気が滅入ってくる。
さらに、なるべく女子しかフォローしないようにしていたが、性別がわからずにフォロバした人から変なDMも届いて、私のやる気は地に落ちた。
これに使う時間があったら、少しでも愛友と交流したり、帰宅部の活動内容を考えたり、勉強したり、YouTubeに投稿している方が良い。
私にはネッ友は必要ない。もしくは、リア友だけで十分満たされている。
その結論をもってアカウントを削除した後、まずは奈都に報告すると、奈都は残念そうにため息をついた。
「どうせなら、消す前に見せてくれたらよかったのに」
「黒歴史だから。ツイッターに時間を費やすのは、人生の無駄だと思う」
「それは私に喧嘩売ってる? チサはフォローが下手だっただけだよ」
比較的ツイッターに時間を費やしている奈都が、遺憾の意を表明する。ここで言うフォローが下手というのは、フォローした相手が悪いという意味だろう。
しかし、ツイートはまともなのに変なDMを送ってくる人もいるし、敢えて性別をボカしている人もいる。どう見分けるのか聞いたら、奈都は「難しいね」と肩をすくめた。
「私も来るよ? 変なDM。『俺とどう?』の5文字だけ送られてきたのが、今のところ優勝かな」
「どう答えたの?」
「サクッとブロックしたけど」
どこまでもドライだ。私はそういうのを見るだけで精神力が削られるし、ブロックするのに罪悪感を覚えるし、逆恨みとかされないか怖い。
そう言うと、奈都は自分もそうだと同意した上で、それでもなおツイッターをするメリットを強調した。
「自分の好きなことに共感してくれる子と喋るのは楽しいんだよ。まあ、チサには私がいるから、ツイッターは必要ないよ」
奈都が何故か勝ち誇ったように笑って、意味もなく私の頭を撫でた。少しイラッとしたが、あながち外れでもないので反論はしなかった。
この研究成果は、もちろん帰宅部メンバーにもしたが、二人ともまずは奈都と同じような反応をした。
「そんな面白そうなこと、こっそりやってたんだ。言ってよ」
「ちょっと見てみたかったね。知らない人とやりとりしてる千紗都」
それは要らない好奇心である。大して興味もない話に、いかにも女子っぽく「すごいね!」とか「楽しそう!」とか「大丈夫だよ!」とか書いていただけだ。
「それにしても、動機のわからん実験だ。私たちとの日常に物足りなさを感じてるのなら、緊急ミーティングを開くけど」
涼夏が少しだけ表情を曇らせて、顔色を窺うように私を見つめた。絢音まで心配そうに頷いたので、私は慌てて手を振った。
「何の不満もない。本当に、ネット上の交流がどんなものか知るための実験」
「他の友達と喋ってる私とかナッちゃんとか見て、自分もそうなりたいって思ったとか?」
「なりたいっていうか、体験してみたかっただけ」
安心させるようにそう言ったが、絢音が深刻そうに首を振った。
「もし楽しかったらどうするつもりだったの?」
「そうそう。タバコを吸ってみたとか、お酒を飲んでみたとか、彼氏を作ってみたとか、やっちゃダメな好奇心っていうのがあるの」
涼夏がたしなめるようにそう言って指を立てた。
それはわかるが、さすがにそういうものとは違うだろう。そもそも3人とも少なからずやっていることなのに、何故私だけダメなのかと、拗ねたように唇を尖らせると、涼夏が静かに首を振った。
「千紗都は危なっかしい」
「そうだね。好奇心はいいけど、私たちには相談して。私たちも、千紗都に内緒で何かを始めたりしてないでしょ?」
絢音がぐうの音も出ない正論を言って、涼夏がそうだそうだと頷いた。
それを言われると反論の言葉もない。二人の目があったら、知らない人と交流するという当初の目的が達成できなかったので、相談しなかったことにも理由はあるのだが、それは私の理屈だ。
二人の心配は束縛ではなく、愛情だ。それは疑いようもないので、私は「過保護だなぁ」と呟きながら、ぐったりと机に突っ伏した。
結局、私のSNSとの付き合い方は、何一つ変わらなかった。
しいて言えば、日常垢の女の子たちがこぞって恋愛トークをしていたことで、多くの女子にとって恋愛は日常であるということがわかった。
もっとも、奈都に言わせれば、私のフォロワーが特別だっただけかもしれない。
後日、改めて奈都にそう報告すると、奈都は不思議そうに首を傾げた。
「私も恋愛、好きだけど」
「いや、それはないでしょ」
軽く笑い飛ばしたら、奈都は釈然としない顔で私を見つめていた。
とりあえず、今日も何か変な動画を撮ろう。あやとりとかいいかもしれない。いつの間にか増えた顔も知らない25人にウケるかはわからないが、顔を知っている3人の反応が楽しみだ。
元々インターネットに出会いは求めていないし、友達にも困っていない。何か帰宅部の活動に役立ちそうな新鮮なネタはないかと期待したが、話題の8割は男の話で、見ていて気が滅入ってくる。
さらに、なるべく女子しかフォローしないようにしていたが、性別がわからずにフォロバした人から変なDMも届いて、私のやる気は地に落ちた。
これに使う時間があったら、少しでも愛友と交流したり、帰宅部の活動内容を考えたり、勉強したり、YouTubeに投稿している方が良い。
私にはネッ友は必要ない。もしくは、リア友だけで十分満たされている。
その結論をもってアカウントを削除した後、まずは奈都に報告すると、奈都は残念そうにため息をついた。
「どうせなら、消す前に見せてくれたらよかったのに」
「黒歴史だから。ツイッターに時間を費やすのは、人生の無駄だと思う」
「それは私に喧嘩売ってる? チサはフォローが下手だっただけだよ」
比較的ツイッターに時間を費やしている奈都が、遺憾の意を表明する。ここで言うフォローが下手というのは、フォローした相手が悪いという意味だろう。
しかし、ツイートはまともなのに変なDMを送ってくる人もいるし、敢えて性別をボカしている人もいる。どう見分けるのか聞いたら、奈都は「難しいね」と肩をすくめた。
「私も来るよ? 変なDM。『俺とどう?』の5文字だけ送られてきたのが、今のところ優勝かな」
「どう答えたの?」
「サクッとブロックしたけど」
どこまでもドライだ。私はそういうのを見るだけで精神力が削られるし、ブロックするのに罪悪感を覚えるし、逆恨みとかされないか怖い。
そう言うと、奈都は自分もそうだと同意した上で、それでもなおツイッターをするメリットを強調した。
「自分の好きなことに共感してくれる子と喋るのは楽しいんだよ。まあ、チサには私がいるから、ツイッターは必要ないよ」
奈都が何故か勝ち誇ったように笑って、意味もなく私の頭を撫でた。少しイラッとしたが、あながち外れでもないので反論はしなかった。
この研究成果は、もちろん帰宅部メンバーにもしたが、二人ともまずは奈都と同じような反応をした。
「そんな面白そうなこと、こっそりやってたんだ。言ってよ」
「ちょっと見てみたかったね。知らない人とやりとりしてる千紗都」
それは要らない好奇心である。大して興味もない話に、いかにも女子っぽく「すごいね!」とか「楽しそう!」とか「大丈夫だよ!」とか書いていただけだ。
「それにしても、動機のわからん実験だ。私たちとの日常に物足りなさを感じてるのなら、緊急ミーティングを開くけど」
涼夏が少しだけ表情を曇らせて、顔色を窺うように私を見つめた。絢音まで心配そうに頷いたので、私は慌てて手を振った。
「何の不満もない。本当に、ネット上の交流がどんなものか知るための実験」
「他の友達と喋ってる私とかナッちゃんとか見て、自分もそうなりたいって思ったとか?」
「なりたいっていうか、体験してみたかっただけ」
安心させるようにそう言ったが、絢音が深刻そうに首を振った。
「もし楽しかったらどうするつもりだったの?」
「そうそう。タバコを吸ってみたとか、お酒を飲んでみたとか、彼氏を作ってみたとか、やっちゃダメな好奇心っていうのがあるの」
涼夏がたしなめるようにそう言って指を立てた。
それはわかるが、さすがにそういうものとは違うだろう。そもそも3人とも少なからずやっていることなのに、何故私だけダメなのかと、拗ねたように唇を尖らせると、涼夏が静かに首を振った。
「千紗都は危なっかしい」
「そうだね。好奇心はいいけど、私たちには相談して。私たちも、千紗都に内緒で何かを始めたりしてないでしょ?」
絢音がぐうの音も出ない正論を言って、涼夏がそうだそうだと頷いた。
それを言われると反論の言葉もない。二人の目があったら、知らない人と交流するという当初の目的が達成できなかったので、相談しなかったことにも理由はあるのだが、それは私の理屈だ。
二人の心配は束縛ではなく、愛情だ。それは疑いようもないので、私は「過保護だなぁ」と呟きながら、ぐったりと机に突っ伏した。
結局、私のSNSとの付き合い方は、何一つ変わらなかった。
しいて言えば、日常垢の女の子たちがこぞって恋愛トークをしていたことで、多くの女子にとって恋愛は日常であるということがわかった。
もっとも、奈都に言わせれば、私のフォロワーが特別だっただけかもしれない。
後日、改めて奈都にそう報告すると、奈都は不思議そうに首を傾げた。
「私も恋愛、好きだけど」
「いや、それはないでしょ」
軽く笑い飛ばしたら、奈都は釈然としない顔で私を見つめていた。
とりあえず、今日も何か変な動画を撮ろう。あやとりとかいいかもしれない。いつの間にか増えた顔も知らない25人にウケるかはわからないが、顔を知っている3人の反応が楽しみだ。
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