120 / 306
第35話 デート(5)
しおりを挟む
食事の後はショッピングを楽しんだ。もっとも、お金があまりないのでほとんど眺めていただけだが、可愛いクマのストラップがあったのでペアで買った。
今日は私が奈都の誕生日にあげたペアのブレスレットをつけているが、どんどんペアアイテムが増えていく。
「ペアルックにも挑戦したい!」
奈都が私のブレスレットに指を這わせながら目を輝かせた。
相変わらずデニムのパンツルックに、一応トップスはデザイン性のあるものを着ているが、似合っているかと言われたらどうだろう。メイクをしてきただけでも、少しずつオシャレに興味を持ち始めているようだが、まだまだこれからといったところか。
いや、いつも一緒にいる子がオシャレすぎるだけかもしれない。涼夏はもちろん、絢音も可愛いけれど幼過ぎず、派手だけれどけばけばしくない、センスの良い服を着ている。
奈都の服装を上から下まで眺めてから、何も言わずに歩き出すと、奈都が慌てた様子で私の手を取った。
「何か言って!」
「求められてないアドバイスはお節介と同じだって、死んだ友達が言ってた」
「誰も死んでないでしょ! 求めてるから! チサがペアルックしたくなる服を着るから!」
奈都が必死にすがり付く。随分と謙虚な姿勢だ。私は奈都の襟元を直しながら言った。
「なんだろう。デザインが大人すぎるのかなぁ」
「デートだし、一番オシャレそうなのを着てきた」
「ズボンと合ってない感じがする」
少し別の服も試してみたかったが、ここにある服は独特のものが多い。イタリアのテーマパークなのだから仕方ない。
今から恵坂に戻っても良かったが、それはまた別の日にして、今日はベイエリアデートを楽しもうと提案すると、奈都は嬉しそうに頷いた。
しばらく写真を撮ったりジュースを飲んだりしてから、ヴェネツィア村を後にしてプロムナードに戻った。そろそろ夕方だ。奈都がデートと言えば観覧車だと言うので、遊園地の方に歩く。
「それにしても、チサって可愛いよね。ペアルックにしても、私の方に合わせてもらわないと」
不意に奈都が私の服の袖をつまんでそう言った。先程からファッションの話が多い。奈都とはずっとそういう話をして来なかったので違和感はあるが、もちろん大歓迎だ。
「今なら奈都もスカートとか似合うと思うけど」
中学時代、短かった髪もだいぶ伸びた。さらっとした髪に指を滑らせると、奈都は恥ずかしそうに俯いた。
「スカートは、なんだか落ち着かない」
「毎日穿いてるじゃん」
「制服はまた別」
「制服ってペアルックだね。制服デートする?」
「そういうのじゃない。いや、制服デート自体はいいけど」
奈都がころころ表情を変えてから、釈然としないように眉をゆがめた。
太陽が西の地平に沈もうとしている。風が冷たくなってきて、奈都が寒そうに身を震わせた。
元々今日は三寒の日だったので、私は暖かい格好をしてきたが、奈都は若干薄着だ。首が温かいとだいぶ違うだろうと思い、静かに両手で首を掴むと、奈都が目を丸くして私の手を取った。
「何? 殺される?」
「奈都の首を温めてあげようと思って」
「人を絞め殺す職人みたいな動きだったよ?」
どんな職人だ。せっかくなので両手で首を撫で回すと、奈都がなんとも言えない顔で私を見つめた。
遊園地はすでに電飾が灯り、キラキラと光るスインガーやメリーゴーランドがグルグル回っていた。もちろん、観覧車も回っている。
特に列もなかったので、チケットを買うとすぐに観覧車の中に入った。ドアが閉められ、ゆっくりと動き出す。
「元々動いてるけどね」
自分の思考に声を出して突っ込むと、奈都が怪訝そうに首を傾げた。そんな奈都の隣に移動して、体を寄せると、奈都が裏返った声を上げた。
「な、何?」
「何って、恋人ごっこみたいなのがしたかったんじゃないの?」
観覧車に乗りたいと言うから、てっきりそうなのだと思ったが、もしかしたら単に夜景が見たかっただけなのだろうか。
至近距離でじっと見つめていると、奈都は恥ずかしそうに俯いてから、そっと私の肩を抱き寄せた。
奈都の体にもたれかかって、ゴンドラの窓から外を眺める。街の方は光が海のように広がり、海の方は高速道路の巨大な橋が綺麗だった。
奈都の腰に手を回して、うっとりした眼差しで奈都を見上げる。奈都はしばらく私を見つめてから、わかりやすく息を呑んで、瞳を閉じて顔を近付けた。
唇が触れ合う。柔らかな唇の感触を楽しんでから、舌を絡め合う。奈都が私の体を両腕で抱きしめて、荒い息を吐きながら私の口の中を舐め回した。息が苦しい。
「せっかくの観覧車なのに、外見なくていいの?」
いたずらっぽくそう言うと、奈都はキスをしたまま目を開けた。
数センチの距離で見つめ合う。奈都の向こう側に、焦点の合わない街明かりがぼんやりと見える。
「もったいない」
奈都が熱っぽく呟いた。何のことを言っているのかわからないが、奈都のしたいようにさせよう。
頂上付近までキスを続けて、奈都は顔を離して、私を抱きしめたまま外の景色に目をやった。温もりが気持ちいい。奈都の背中に手を這わせながら、私も奈都の肩越しに夜景を見つめる。
同じ場所にいながら違う景色を見ているのが、いかにも私たちらしいが、それもまたいいだろう。なんとなく服の中に手を入れて胸を揉むと、奈都が変な悲鳴を上げた。
ゆっくりとゴンドラが地上に近付く。最後にもう一度キスをして、二人きりの心地良い15分が終わった。
今日は私が奈都の誕生日にあげたペアのブレスレットをつけているが、どんどんペアアイテムが増えていく。
「ペアルックにも挑戦したい!」
奈都が私のブレスレットに指を這わせながら目を輝かせた。
相変わらずデニムのパンツルックに、一応トップスはデザイン性のあるものを着ているが、似合っているかと言われたらどうだろう。メイクをしてきただけでも、少しずつオシャレに興味を持ち始めているようだが、まだまだこれからといったところか。
いや、いつも一緒にいる子がオシャレすぎるだけかもしれない。涼夏はもちろん、絢音も可愛いけれど幼過ぎず、派手だけれどけばけばしくない、センスの良い服を着ている。
奈都の服装を上から下まで眺めてから、何も言わずに歩き出すと、奈都が慌てた様子で私の手を取った。
「何か言って!」
「求められてないアドバイスはお節介と同じだって、死んだ友達が言ってた」
「誰も死んでないでしょ! 求めてるから! チサがペアルックしたくなる服を着るから!」
奈都が必死にすがり付く。随分と謙虚な姿勢だ。私は奈都の襟元を直しながら言った。
「なんだろう。デザインが大人すぎるのかなぁ」
「デートだし、一番オシャレそうなのを着てきた」
「ズボンと合ってない感じがする」
少し別の服も試してみたかったが、ここにある服は独特のものが多い。イタリアのテーマパークなのだから仕方ない。
今から恵坂に戻っても良かったが、それはまた別の日にして、今日はベイエリアデートを楽しもうと提案すると、奈都は嬉しそうに頷いた。
しばらく写真を撮ったりジュースを飲んだりしてから、ヴェネツィア村を後にしてプロムナードに戻った。そろそろ夕方だ。奈都がデートと言えば観覧車だと言うので、遊園地の方に歩く。
「それにしても、チサって可愛いよね。ペアルックにしても、私の方に合わせてもらわないと」
不意に奈都が私の服の袖をつまんでそう言った。先程からファッションの話が多い。奈都とはずっとそういう話をして来なかったので違和感はあるが、もちろん大歓迎だ。
「今なら奈都もスカートとか似合うと思うけど」
中学時代、短かった髪もだいぶ伸びた。さらっとした髪に指を滑らせると、奈都は恥ずかしそうに俯いた。
「スカートは、なんだか落ち着かない」
「毎日穿いてるじゃん」
「制服はまた別」
「制服ってペアルックだね。制服デートする?」
「そういうのじゃない。いや、制服デート自体はいいけど」
奈都がころころ表情を変えてから、釈然としないように眉をゆがめた。
太陽が西の地平に沈もうとしている。風が冷たくなってきて、奈都が寒そうに身を震わせた。
元々今日は三寒の日だったので、私は暖かい格好をしてきたが、奈都は若干薄着だ。首が温かいとだいぶ違うだろうと思い、静かに両手で首を掴むと、奈都が目を丸くして私の手を取った。
「何? 殺される?」
「奈都の首を温めてあげようと思って」
「人を絞め殺す職人みたいな動きだったよ?」
どんな職人だ。せっかくなので両手で首を撫で回すと、奈都がなんとも言えない顔で私を見つめた。
遊園地はすでに電飾が灯り、キラキラと光るスインガーやメリーゴーランドがグルグル回っていた。もちろん、観覧車も回っている。
特に列もなかったので、チケットを買うとすぐに観覧車の中に入った。ドアが閉められ、ゆっくりと動き出す。
「元々動いてるけどね」
自分の思考に声を出して突っ込むと、奈都が怪訝そうに首を傾げた。そんな奈都の隣に移動して、体を寄せると、奈都が裏返った声を上げた。
「な、何?」
「何って、恋人ごっこみたいなのがしたかったんじゃないの?」
観覧車に乗りたいと言うから、てっきりそうなのだと思ったが、もしかしたら単に夜景が見たかっただけなのだろうか。
至近距離でじっと見つめていると、奈都は恥ずかしそうに俯いてから、そっと私の肩を抱き寄せた。
奈都の体にもたれかかって、ゴンドラの窓から外を眺める。街の方は光が海のように広がり、海の方は高速道路の巨大な橋が綺麗だった。
奈都の腰に手を回して、うっとりした眼差しで奈都を見上げる。奈都はしばらく私を見つめてから、わかりやすく息を呑んで、瞳を閉じて顔を近付けた。
唇が触れ合う。柔らかな唇の感触を楽しんでから、舌を絡め合う。奈都が私の体を両腕で抱きしめて、荒い息を吐きながら私の口の中を舐め回した。息が苦しい。
「せっかくの観覧車なのに、外見なくていいの?」
いたずらっぽくそう言うと、奈都はキスをしたまま目を開けた。
数センチの距離で見つめ合う。奈都の向こう側に、焦点の合わない街明かりがぼんやりと見える。
「もったいない」
奈都が熱っぽく呟いた。何のことを言っているのかわからないが、奈都のしたいようにさせよう。
頂上付近までキスを続けて、奈都は顔を離して、私を抱きしめたまま外の景色に目をやった。温もりが気持ちいい。奈都の背中に手を這わせながら、私も奈都の肩越しに夜景を見つめる。
同じ場所にいながら違う景色を見ているのが、いかにも私たちらしいが、それもまたいいだろう。なんとなく服の中に手を入れて胸を揉むと、奈都が変な悲鳴を上げた。
ゆっくりとゴンドラが地上に近付く。最後にもう一度キスをして、二人きりの心地良い15分が終わった。
1
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
漫才部っ!!
育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。
正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。
部員数は二名。
部長
超絶美少女系ぼっち、南郷楓
副部長
超絶美少年系ぼっち、北城多々良
これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる