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第33話 チョコ(1)

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 ユナ高の2月は、1年生は合唱コンクールがあるくらいで、他には何の行事もない。2年生は修学旅行というビッグイベントがあるが、私たちには来年の話だし、帰宅部は先輩との交流もない。
 修学旅行というと、各クラスでグループを作るので、来年涼夏と絢音、出来れば奈都と一緒のクラスになれるかは死活問題である。
 クラス替えはまさに人生を左右する一大イベントだが、多くの場合、深い悲しみに包まれる。何故なら、一緒になりたい子が他のクラスにいることよりも、同じクラスにいることの方が多いからだ。
 必然的に、いつメンと離れ離れになるケースが多くなり、クラス替えは多くの生徒にとって「ハズレ」の結果になる。そしてその大事なイベントに対して、私たちはなす術もなく、ただ天運に任せるしかない。
 そんな不条理なクラス替えに対して、ユナ高では「クラス替え希望制度」が設けられている。
 数年前、進級とともに数人の生徒が不登校になり、当時の生徒会が少しでもそういう悲劇を減らすべく、先生と議論を重ねた末に作られた制度らしい。
 同じクラス内でどうしても一緒になりたい生徒を記入し、相手も一致した場合に限り、担任の判断で80%ほどそれが通るというものだ。
 もちろん、担任に負荷がかかるとか、全員の希望を聞くのは無理だとか、相手が書いていなかった時に余計に深刻なダメージを負うとか、色々な理由で反対されたらしい。ただ、交流の大半がクラスの中で行われる学生生活において、1年間で親交を深めた友達と引き離されることに、デメリットはあれどメリットは何一つないという生徒会の意見が通り、最終的に全校生徒の投票の上、賛成多数で可決されたそうだ。
 当時のことを知っている生徒はすでに全員卒業しているが、制度はしっかりと受け継がれ、ネットの掲示板にも書き込まれるほど、ユナ高の特徴の一つにもなっている。私はその制度を入学した時は知らなかったが、夏くらいに涼夏から教えてもらった。
 だから、涼夏と絢音に関してはあまり心配していなかったし、二人も悲観はしていないようだった。
「まあ、3人で名前を書き合えば大丈夫なんじゃない? ダメだったら千紗都の遺影を立てて過ごす」
「もしダメでも、毎日一緒に帰ろうね。千紗都も私の遺影を立てて過ごしてね」
 二人が悲しそうな瞳で、しかし今にも笑いそうに肩を震わせながら言った。絢音の言う通り、万が一ダメでも、毎日一緒に帰りたいと思うが、もし私一人になってしまったらと思うと心が寒くなる。
 涼夏は友達がたくさんいるし、絢音は一緒にバンドをやっている豊山さんや牧島さんと同じクラスになれたら、それなりに楽しく過ごせるだろう。しかし私には、3人の他に友達がいない。
「もし私はぼっちになったら、不登校になるかも……。ううん、私はぼっちには慣れてるから大丈夫。大丈夫……」
 嘘泣きしながらそんなことを言っていたら、丁度通りがかった川波君が笑いながら自分を指差した。
「野阪さん、猪谷さんと西畑さんと離れ離れになったら、寂しさを埋めるのに俺を使ってくれてもいいから」
 ドンと胸を叩く川波君に、3人でドン引きした眼差しを送った。涼夏が私を隠すように抱きしめて、しっしと手を振った。
「川波君、キミが不細工だとは言わないが、釣り合いを考えてくれたまえ。果たしてキミは、野阪千紗都にふさわしいか?」
「俺でダメなら、一体誰が?」
「私」
「そっちか! まあでも、俺は希望制度で野阪さんの名前を書くから、野阪さんも良かったら俺の名前を書いてね」
「希望制度は、片想いの相手の名前を書く制度ではない」
 涼夏が冷静にそう指摘して、絢音が我慢できないようにぷっと噴いて肩を震わせた。今のは地味に面白かった。川波君の軽さと涼夏のツッコミは、相性抜群かもしれない。漫才的な意味で。
「また同じクラスで、しかも席が隣になるミラクルを願ってるよ!」
 そう言って、川波君は手を振って自分の席に戻って行った。絢音が笑いながら涼夏に抱き付いて、涼夏がその頭をぐりぐり撫でながら心配そうに私を見た。
「千紗都、油断しちゃダメだよ? あの男、ガチで千紗都が好きだ」
「平気。ああいう男は、便利に使えばいいんだって」
 足を組みながらふふっと笑うと、涼夏がごくりと息を呑んで、唖然とした顔で私を見つめた。
「冗談だよ?」
 念のためそう伝えると、涼夏は「うん」と小さく頷き、絢音は涼夏に抱き付いたまま笑い転げていた。
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