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第4章
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評判の野菜スープをたらふく食べた後、三人は宿の一室で会議を開いていた。もちろん、夕方出会った婦人の娘を探すための話し合いである。
婦人はメルシーと言い、亭主のヴァンビスと娘のリューナの三人で暮らしているらしい。
リューナはルシアと同じ16歳で、金髪のストレートヘアだと言う。
母親の茶色の髪を見て三人が首を傾げると、メルシーは、「リューナは実の娘ではない」と語った。
まだ彼女が4歳の時、両親が事件に巻き込まれて死に、それ以来ずっと親替わりとなって彼女を育てているらしい。
ヴァンビスは鍛冶屋で働いており、がっしりとした体躯の男だったが、リューナ失踪のせいでか、疲れ切った表情をしていた。
メルシーは家事に専念しており、仕事はしていない。
リューナは若くして学校の先生で、小さな子供たちに文字を教えていた。
メルシーの話だと、失踪した前日も特に変わった様子はなく、いつも通り授業をし、他の教師とともに翌日の話をしていたという。
「やっぱり誘拐だろう。どう考えたって、リューナが自分からいなくなったなんて考えられない!」
開口一番、ルシアが憤慨したようにそう声を荒げた。
どうやらもう、リューナが誘拐されたものと決め付けているらしい。
今回に関してはエリシアも同感だったが、あまりにも安直に物事を考えるルシアをたしなめる意も込めて、敢えて反対のことを言った。
「それはわからないわよ、ルシア。私たちはメルシーさんからの一方的な情報しかもらってないんだし、しっかりと聞き込みをしたら、どんな情報が出てくるかわからないわ」
ルシアはわずかに不満げな顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。
「そうだな。じゃあ、明日はその学校を中心に聞き込みして、当日のリューナの辿った道を辿りながら、誰か彼女を見た人がいないかどうか探ろう」
それがいつもの、そして妥当な解決方法だったが、今回はリスターが静かに首を振り、二人を驚かせた。
「何かあたし、間違えたか?」
首を傾げる少女に、リスターは目を閉じて頷いた。
「今まではお前がいたから使わなかったが、これからは遠慮なく魔法を使う」
「あ、なるほど! それなら楽に解決もできるし、もし誘拐だったときに、誘拐犯に探し回っていることを気付かれずに済むし。後はリスターがへまして魔法使いだってバレなければ問題ないな」
ルシアは魔法使いは嫌いだが、魔法の便利さは身をもって体験している。セフィンの力がなくなったことで、魔法を使えない自分に違和感を覚えるほどだった。
再会してからこれまでの間に、いい加減ルシアの変わり様には慣れたつもりだったが、やはり二人は驚きを隠せなかった。
もちろん、だからと言ってルシアに何かを言うことはしない。変に意識されても困るし、昔のルシアを責めるようなことにもなりかねない。
「イェスダンでルシアを探したときに使った魔法?」
エリシアの質問に、リスターは頷いて答えた。
「そうだ。人探しの魔法で、リューナが身に付けていた何かがあれば使うことができる。もっとも、あんまり遠くに居たらわからないし……」
「わからないし?」
言葉を切った魔法使いの青年に、エリシアが先を促すように尋ねた。
リスターは溜め息を吐いた。
「すでに死んでいても見つけることができない」
「そっか……」
ルシアが神妙な顔つきで頷く。
「魔法は俺が朝一番で行う。その間に、二人は聞き込みをしてきて欲しい」
「聞き込みはするのか?」
ルシアの質問に、エリシアが答えた。
「彼女がどんな人だったのか、全然知らない状態で彼女に会っても、どうすることもできないわ。もし何らかの私怨による誘拐だったとしても、何も知らずに飛び込むのも危険だし」
「そうか。うん、わかった」
ルシアは元気に返事をして、無意味に立ち上がって胸を張った。
「よし! じゃあ明日のために今日は早く寝て、万全の体調を整えよう!」
二人は思わず顔を見合わせて苦笑した。
やはりルシアはルシアだ。
翌日、二人が聞き込みした結果、リューナについての色々なことがわかった。
色々なことと言っても、ほとんど良い話しかない。
普通、こういう事件が起きると、話に尾ひれが付いて出鱈目な憶測が肥大化していくものだが、リューナに関してはそのようなことはまったくなかった。
物事をはきはき言う快活な少女で、そのせいで彼女を嫌う者もあったが、事件になるほどの恨みはまるで買っていないようだった。
また、子供たちにも人気があり、よく慕われていたらしい。
いつも明るい顔をしており、悩みの有り無しは別にして、少なくとも今の生活に不満を抱いているようには見えなかったという。
男性関係もまったくなかったようで、言い寄られたりもしてなかったとのこと。
付け狙われていたような形跡もなく、怨恨、金品、強姦、いずれの可能性も考え難かった。
「やっぱり、何かの事件に巻き込まれた可能性が高いわね」
溜め息を吐いたエリシアの隣で、ルシアも陰鬱な顔で俯いた。
「両親も事件で殺されたって話だったし、可哀想だな……」
「まあ、まだそう決まったわけでもないだろう」
リスターが呆れたような口調で言った。
「一応吉報だが、リューナはこの町にいる」
「えっ!?」
半ばあきらめていた姉妹が同時に声を上げた。
リスターは大きく頷いて言った。
「場所はお前たちがいない間に少し見てきたんだが、普通の民家だった。今は誰も住んでないって近所の人間が言っていたが、まだ綺麗で、つい最近まで誰かいた感じだな」
「いかにもって展開ね」
「ああ」
リューナはそこに拉致されている。
しかし、その目的はいまいち不明瞭だった。
「ユアリの時みたいな魔法使い絡みなら、なんらかの魔力を感じてもいいもんだが、そういうのも感じなかった」
「じゃあきっと、若い娘を集めて悪いこと企ててるやつがいるんだな!」
ルシアが決め付ける。
リスターは苦笑した。
「まあ、とにかく行ってみるしかないな。ひょっとしたら俺には感じ取れなかった何かをエリシアが気付いてくれるかも知れんし、リューナを拉致した連中の目的がわからない以上、急いだ方がいい」
二人は真顔で頷き、彼に続くように立ち上がった。
そして、短い冬の太陽を追いかけるように宿を飛び出していった。
婦人はメルシーと言い、亭主のヴァンビスと娘のリューナの三人で暮らしているらしい。
リューナはルシアと同じ16歳で、金髪のストレートヘアだと言う。
母親の茶色の髪を見て三人が首を傾げると、メルシーは、「リューナは実の娘ではない」と語った。
まだ彼女が4歳の時、両親が事件に巻き込まれて死に、それ以来ずっと親替わりとなって彼女を育てているらしい。
ヴァンビスは鍛冶屋で働いており、がっしりとした体躯の男だったが、リューナ失踪のせいでか、疲れ切った表情をしていた。
メルシーは家事に専念しており、仕事はしていない。
リューナは若くして学校の先生で、小さな子供たちに文字を教えていた。
メルシーの話だと、失踪した前日も特に変わった様子はなく、いつも通り授業をし、他の教師とともに翌日の話をしていたという。
「やっぱり誘拐だろう。どう考えたって、リューナが自分からいなくなったなんて考えられない!」
開口一番、ルシアが憤慨したようにそう声を荒げた。
どうやらもう、リューナが誘拐されたものと決め付けているらしい。
今回に関してはエリシアも同感だったが、あまりにも安直に物事を考えるルシアをたしなめる意も込めて、敢えて反対のことを言った。
「それはわからないわよ、ルシア。私たちはメルシーさんからの一方的な情報しかもらってないんだし、しっかりと聞き込みをしたら、どんな情報が出てくるかわからないわ」
ルシアはわずかに不満げな顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。
「そうだな。じゃあ、明日はその学校を中心に聞き込みして、当日のリューナの辿った道を辿りながら、誰か彼女を見た人がいないかどうか探ろう」
それがいつもの、そして妥当な解決方法だったが、今回はリスターが静かに首を振り、二人を驚かせた。
「何かあたし、間違えたか?」
首を傾げる少女に、リスターは目を閉じて頷いた。
「今まではお前がいたから使わなかったが、これからは遠慮なく魔法を使う」
「あ、なるほど! それなら楽に解決もできるし、もし誘拐だったときに、誘拐犯に探し回っていることを気付かれずに済むし。後はリスターがへまして魔法使いだってバレなければ問題ないな」
ルシアは魔法使いは嫌いだが、魔法の便利さは身をもって体験している。セフィンの力がなくなったことで、魔法を使えない自分に違和感を覚えるほどだった。
再会してからこれまでの間に、いい加減ルシアの変わり様には慣れたつもりだったが、やはり二人は驚きを隠せなかった。
もちろん、だからと言ってルシアに何かを言うことはしない。変に意識されても困るし、昔のルシアを責めるようなことにもなりかねない。
「イェスダンでルシアを探したときに使った魔法?」
エリシアの質問に、リスターは頷いて答えた。
「そうだ。人探しの魔法で、リューナが身に付けていた何かがあれば使うことができる。もっとも、あんまり遠くに居たらわからないし……」
「わからないし?」
言葉を切った魔法使いの青年に、エリシアが先を促すように尋ねた。
リスターは溜め息を吐いた。
「すでに死んでいても見つけることができない」
「そっか……」
ルシアが神妙な顔つきで頷く。
「魔法は俺が朝一番で行う。その間に、二人は聞き込みをしてきて欲しい」
「聞き込みはするのか?」
ルシアの質問に、エリシアが答えた。
「彼女がどんな人だったのか、全然知らない状態で彼女に会っても、どうすることもできないわ。もし何らかの私怨による誘拐だったとしても、何も知らずに飛び込むのも危険だし」
「そうか。うん、わかった」
ルシアは元気に返事をして、無意味に立ち上がって胸を張った。
「よし! じゃあ明日のために今日は早く寝て、万全の体調を整えよう!」
二人は思わず顔を見合わせて苦笑した。
やはりルシアはルシアだ。
翌日、二人が聞き込みした結果、リューナについての色々なことがわかった。
色々なことと言っても、ほとんど良い話しかない。
普通、こういう事件が起きると、話に尾ひれが付いて出鱈目な憶測が肥大化していくものだが、リューナに関してはそのようなことはまったくなかった。
物事をはきはき言う快活な少女で、そのせいで彼女を嫌う者もあったが、事件になるほどの恨みはまるで買っていないようだった。
また、子供たちにも人気があり、よく慕われていたらしい。
いつも明るい顔をしており、悩みの有り無しは別にして、少なくとも今の生活に不満を抱いているようには見えなかったという。
男性関係もまったくなかったようで、言い寄られたりもしてなかったとのこと。
付け狙われていたような形跡もなく、怨恨、金品、強姦、いずれの可能性も考え難かった。
「やっぱり、何かの事件に巻き込まれた可能性が高いわね」
溜め息を吐いたエリシアの隣で、ルシアも陰鬱な顔で俯いた。
「両親も事件で殺されたって話だったし、可哀想だな……」
「まあ、まだそう決まったわけでもないだろう」
リスターが呆れたような口調で言った。
「一応吉報だが、リューナはこの町にいる」
「えっ!?」
半ばあきらめていた姉妹が同時に声を上げた。
リスターは大きく頷いて言った。
「場所はお前たちがいない間に少し見てきたんだが、普通の民家だった。今は誰も住んでないって近所の人間が言っていたが、まだ綺麗で、つい最近まで誰かいた感じだな」
「いかにもって展開ね」
「ああ」
リューナはそこに拉致されている。
しかし、その目的はいまいち不明瞭だった。
「ユアリの時みたいな魔法使い絡みなら、なんらかの魔力を感じてもいいもんだが、そういうのも感じなかった」
「じゃあきっと、若い娘を集めて悪いこと企ててるやつがいるんだな!」
ルシアが決め付ける。
リスターは苦笑した。
「まあ、とにかく行ってみるしかないな。ひょっとしたら俺には感じ取れなかった何かをエリシアが気付いてくれるかも知れんし、リューナを拉致した連中の目的がわからない以上、急いだ方がいい」
二人は真顔で頷き、彼に続くように立ち上がった。
そして、短い冬の太陽を追いかけるように宿を飛び出していった。
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