不倫禁止法案

一章

崩壊

　私はますます臆病になってしまった。妻の目が見れない。娘の呼びかけにも、答えることができなかった。

　罪悪感と共に、これがバレてしまったら殺されるという恐怖が私の心をかき乱した。

　不倫した女性とはそれ以来、あっていない。彼女には、口止め料として、無理やり数万円を渡した。大丈夫だ。俺と彼女が話をしなければ、誰にもバレることはない。だが、ホテルに入っていくのを誰かに見られていたとしたら。そうだ。監視カメラに写っていたら、それは間違いなく不貞を犯した証拠となってしまう。くそっ。どうすればいい？

　だが、悩んだところでどうにもできなかった。それはすでに起きてしまったことだからだ。それから一週間はビクビクしながら、生活を送っていた。ろくに眠れず、ボロボロの状態で会社に行っていた。さらに一か月経ったが、何も起きなかった。この頃になってようやく、私は落ち着きを取り戻しつつあった。

高岡　（よし。誰にも勘付かれていないようだ。逃げ切れる。）

　私は朝食をとりながら、そう考えた。あいかわらず、テレビでは不倫禁止法案により捕まった芸能人のニュースをやっている。運の悪い人たちだ。私はスーツを着て、カバンを持った。妻にいってきますと言った。最近では夫婦の仲も改善されつつある。妻のいってらっしゃいという言葉とともに、玄関の扉を開けた。

　2名の警察が立っていた。

「高岡さんで、間違いありませんか？」

　私は何も喋らず、その場に蹲み込んだ。