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一章
不倫で死刑?
しおりを挟む会社に着いたのは、8時頃だった。取引先からのメールや簡単な雑務を片付けると、私は会社内にある喫煙所に向かった。道中、自動販売機でコーヒーを買った。喫煙所に着くと、私は独りでコーヒーを飲みながら、タバコを吸った。これが私の毎朝のルーティーンだった。これから始まる面倒な仕事を片付けるためにも、このルーティーンは欠かせないものだった。短い至福の時間を堪能しながら、私はボンヤリと今朝のニュースを思い出してた。
『不倫禁止法案』
それは、到底理解しがたい法案であった。近年、不倫が注目されているのは小学生でも知っているだろ。不倫している人の数は増え続け、特に芸能人の不倫は注目を浴びるようになっている。この前もある芸人が、美人女優と家庭を築きながらも、複数の女性と多目的トイレで不貞行為に及んでいたのが話題になった。他にもイケメン俳優が、若手女優と不倫し、現在泥沼の離婚騒動となっている。週刊誌も不倫が話題になり、発行部数が上がることを理解し、芸能人の不倫スクープを狙っている。それでも、彼らは不倫をやめない。私には彼らの気持ちが全くわからない。不倫が家庭だけでなく、自身が築き上げてきた華々しいキャリアすら崩壊させてしまうことを彼らも理解しているはずなのに、なぜやってしまうのか。
もちろん不倫は芸能人だけのものではない。一般人だってやってる。むしろ芸能人ほど注目されることもないし、世間からバッシングされることもないので、皆のびのびやっているかも知れない。おかげで、年々離婚率はあがっている。片親の子供も増え、子供の貧困率もあがっている。これは由々しき社会問題である。子供にはなんの罪もない。ただ性欲に負けた大人のせいで、子供たちは割りを食っているのだ。
この不倫問題に歯止めをかけるために、国が作り出したのが、『不倫禁止法案』であった。内容は簡潔明瞭。不倫をした者は罰せられる。それだけならまだ大したことではない。今までだって、そうだった。しかし今までは慰謝料を払う程度で済んだのだが、今回制定された法案の罰則はそんなものではない。
配偶者がいるのに不倫した場合
→懲役30年
配偶者がいて、さらに子供がいた場合
→死刑
あまりに厳しすぎる。こんな法がまかり通って良いのか。良いはずがない。ここまでしなければ、不倫が無くならないというのも事実だ。だとしても、これはあまりにも人権を無視している。不倫などしたこともないし、考えたこともない私には関係ないかもしれないが、いくらなんでもやり過ぎだ。私はふと思い付き、SNSで『不倫禁止法案』と検索した。世間の意見を知りたかったからだ。当然反対意見が多いだろうと考えていた私は、自身の目を疑った。賛成意見が多いのだ。反対意見もあるが、賛成意見が多数を占めている。不倫する奴は死んでも当然、これぐらいしないと不倫は減らないなどが主な意見だった。私はSNSを閉じ、二本目のタバコを手に取った。嫌な世の中だな。私はそう呟き、タバコに火をつけた。
喫煙所のドアが空いた。目を向けると、同僚の田口が立っていた。田口はタバコを吸わない筈だ。私はキョトンとした顔で、彼を見つめた。田口の顔は、何か興奮しているように見える。息も弾んでいる。私が声を掛けようとすると突然、田口が叫ぶように言った。
「おい高岡。テレビ見たか!」
高岡とは私の苗字だ。名前は春生だ。
「あぁ見たよ。不倫禁止法案だろ。やばいよなアレ。」
私は冷静に返答したつもりだったが、思いもよらない返事が返ってきた。
「いや、芸人のWだよ!逮捕されたって。死刑確実らしいぜ。」
タバコが、手からすべり落ちた。Wとは先程言った、多目的トイレで不貞行為を犯した芸人である。この前、不倫報道されたばかりである。まさか本当に逮捕されるとは。しかも死刑?
私は田口の顔を凝視する。何かを言おうとするも、かすれて声が出ない。世の中が明らかに変わり始めている。しかも不穏な方向に。この時私はそう思った。
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