上 下
91 / 92

第九十話 獣人連合リーダー 前編

しおりを挟む
 イベント四日目に突入した。昨日は早くゲームを辞めたので、集合時刻は午前九時だ。僕はいつも通りに集合時刻の三十分前にゲームにログインしていた。

「えーい!」

 誰かの掛け声と共に僕の背中に衝撃が走る。

「いて!」

 僕は犯人が誰かを確認する為に後ろを振り向く。声からして多分、ハルではないかと思うが……。
 後ろを振り返って見るとそこには誰も居なかった。【隠蔽】スキルでも使って隠れてしまったのか。もし攻撃してきたのが、ハルであるならば大きな発見ができたと言えよう。

「気のせいか……」

 僕はわざと気づいていないフリをし、攻撃を誘うことにした。

「えーい!」

 僕の予想通りにもう一回攻撃してきた。声は裏から聞こえるので、手を後ろに回し受け止めた。そのまま手を握り、足をガッチリとロックする。

「バレバレだぞ! ハル!」

 僕は足をロックしたまま後ろを見た。

「えへへ……バレちゃった」
「バレるに、決まってるやろ! 隠蔽スキルを使ってるのに声を出す奴がいるか!」
「あっ!」
「あっ! じゃねぇよ。それよりお返しな!」

 僕はハルを横まで引っ張ってきて、頭に拳骨をした。

「イッテェー!」
 
 ハルは頭を抱えている。いつまでも舐められっぱなしではいけないと思ったので、少し強めに殴ってしまったが、泣いていないのでよしとしよう。ハルの性格上、一発殴っただけでは懲りずにまたやってくるとは思うが、今日はもうやってこないだろう。

「昨日、聞きそびれたから聞いとくけどどこに住んでいるんだ?」
「えっとね。愛知県、岡崎市!」
「なるほど……僕の家と近いな」
「そうなの? どこ?」
「豊川市だ」
「本当だ! 近い!」

 ベッドに座りながら床に届かない足をパタパタとさせているハルが息を弾ませて言う。
 ハルと話し始めてから十分が経ち、僕の真横が光り出した。時間からして、おそらくツキナがログインしてきたのだろう。

「おはよう! ヒビト、ハルくん」
「おはよう! ツキナ」
「おはよう!」

 ツキナが顔に喜色を浮かべながら言ってくるので、僕とハルはツキナと同じ表情で返事をする。ツキナも含めて、三人で楽しく話しているとみんながログインしてくる。
 みんながログインしてきたと言うことは、今は集合時刻の十分前だと言うことになる。三人で話をするのが楽しくてすっかり時間を忘れてしまっていた。

「おはよう! みんな!」

 僕が挨拶をするとみんなは「おはよう!」と返してくれた。

「今日はどこに行く?」

 挨拶をした後すぐに、今日向かうフィールドを決めることにした。僕がみんなの顔を見渡しているとハルが手をあげる。

「どうした? ハル」
「えっとね、釣り大会に行きたい!」
「釣り?」
「うん! レアな妖怪が生息している池を情報屋が見つけたみたいで、大会が開かれるんだよ」
「なるほど……なるほど……」

 釣りは僕が経験した中で、一位、二位を争う苦手な遊びの一つなので、あまり乗る気にはならなかった。たが、立場上みんなの意見を聞かないといけないので、釣り大会に参加するかどうかを聞いた。その結果、僕以外の全員が行きたいと言っていたので参加することになった。
 決まってしまったので、もう逃げることはできなくなってしまった。僕は(ツキナに恥ずかしいところを見せないように頑張ろ!)と決意した。
 釣り大会が行われる場所はここから徒歩で二十分くらい歩いたところにある大池らしい。幻獣で行くことも考えたが目立ってしまうと思ったのでやめておくことにした。僕達は釣り大会が始まる十時半に間に合うように拠点を出て行った。
 大池に着くとそこにはたくさんのプレイヤーが釣り大会開始時刻を今か今かと待ち望んでいる状態だった。屋台まで出ており、ちょっとしたお祭り騒ぎである。

「こんなに多くのプレイヤーが参加するんですね」

 ムサシが釣り大会会場をキョロキョロと見ながら言う。ざっと数えても百人以上はいる。

「そうだな。どんな妖怪が出てくるのか、楽しみになってきた」

 僕は答えた。レアな妖怪がいると言う情報だけでここまで多くのプレイヤーが集まってくるとは……。他のプレイヤー達も僕みたいにどんな妖怪なのか知りたいと言うことなのだろう。
 この大会には参加費が必要らしく、僕達は受付でお金を払って会場内へ入って行った。釣り竿も支給されている。釣り竿の性能で差が出るのを防ぎたかったと言う事だろう。
 他のプレイヤーが場所取りをしている中で一箇所だけ人が集まっていない場所があった。どう言う意図であの場所を開けているのだろうか。

「あそこに行こう」

 僕は空いているところを指差しながら言う。

「了解!」

 みんなが返事を返してくれたので空いている場所に向かっていく。

片手剣使いの男性
「あのプレイヤー達、獣人連合のリーダーのところに向かってるぞ!」

弓使いの男性
「勇気あるなぁ……」

槍使いの女性
「あの人、殺されちゃうよ」

 周囲からそのような話が聞こえてくる。僕は《獣人連合》のリーダーがどう言う人かが気になったので、視線を向けると上下が黒色の服で頭にはライオンみたいな黒色のたてがみを装備している男性が、その隣には上下が白色で頭には白色のたてがみを装備した女性がいた。見るからにあの人達のどちらかが《獣人連合》のリーダーに違いない。
 遠くからでははっきりと顔が見えないので、僕は興味本位で二人に近づく。ツキナが「むやみに近づくのは良くないよ」と言っていた気がしたが、いまさら引き返す気にはなれなかった。
 
「なんだ、お前! 俺の縄張りに入ってくるんじゃねぇ!」

 二人との距離が残り十メートルとなった頃、黒色のたてがみを装備した男性が突然、大きな声を出しながら僕に右手の正拳突きをしてきた。

「いきなり何するんだよ!」

 僕はそれを右手で受け止めた。僕達の周りに突風が発生する。それに男性の攻撃にはずっしりとした重みを感じる。さすがはトップギルドの人だ。この人がリーダーなのかな……。

「ちっ! 幻獣の加護持ちかよ!」
「悪いな! そうなんだよ!」

 【幻獣の加護】、これはプレイヤーの全パラメーターを上昇させるもの、さらに一定ダメージを防ぐことが可能なのだ。そのため何のバフもついていない攻撃を無傷で受けることができたと言う訳だ。周囲のプレイヤーの視線が一斉に集まる。僕と男性は笑みを浮かべる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VRMMOを引退してソロゲーでスローライフ ~仲良くなった別ゲーのNPCが押しかけてくる~

オクトパスボールマン
SF
とある社会人の男性、児玉 光太郎。 彼は「Fantasy World Online」というVRMMOのゲームを他のプレイヤーの様々な嫌がらせをきっかけに引退。 新しくオフラインのゲーム「のんびり牧場ファンタジー」をはじめる。 「のんびり牧場ファンタジー」のコンセプトは、魔法やモンスターがいるがファンタジー世界で スローライフをおくる。魔王や勇者、戦争など物騒なことは無縁な世界で自由気ままに生活しよう! 「次こそはのんびり自由にゲームをするぞ!」 そうしてゲームを始めた主人公は畑作業、釣り、もふもふとの交流など自由気ままに好きなことをして過ごす。 一方、とあるVRMMOでは様々な事件が発生するようになっていた。 主人公と関わりのあったNPCの暗躍によって。 ※ゲームの世界よりスローライフが主軸となっています。 ※是非感想いただけると幸いです。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴|◉〻◉)
SF
向井明斗25歳。通院中、会社からかかってきた要件は、これ以上業務を休むならもう来なくていいと言う実質上の首切り宣言だった。 就職難で漸く拾ってくれた会社にそれこそ身を粉にして働き、その結果が通院処分。精神と肉体を磨耗した明斗は、通院帰りに立ち寄ったゲームショップで懐かしいタイトルを発見する。 「New Arkadia Frontier」 プレイヤーを楽しませる要素を徹底的に廃し、しかしながらその細かすぎるくらいのリアルさに一部のマニアが絶賛するクソゲー。 明斗もまたそのゲームの虜になった一人だった。 懐かしさにそのタイトルをレジに持っていこうとして立ち止まる。あれ、これって確かPCゲームじゃなかったっけ? と。 PCゲームは基本、公式ホームページからのダウンロード。パッケージ販売などしていない筈だ。 おかしいぞとパッケージを見返してみれば、そこに記されていたのはVR規格。 たった五年、ゲームから離れてるうちにあのゲームは自分でも知らない場所に羽ばたいてしまっていた。 そもそも、NAFは言わずと知れたクソゲーだ。 5年前ですらサービス終了をいつ迎えるのかとヒヤヒヤしていた覚えがある明斗。一体どんなマジックを使えばこのゲームが全世界に向けてネット配信され、多くのプレイヤーから賞賛を受けることになるのか? もはや仕事をクビになったことよりもそっちの方が気になり、明斗は当時のネーム『ムーンライト』でログインする事に。 そこでムーンライトは思いがけずそのゲームの根幹を築いたのが自分であることを知る。 そこで彼が見たものは一体なんなのか? ──これはニッチな需要を満たし続けた男が、知らず知らずのうちに大物から賞賛され、大成する物語である。 ※この作品には過度な俺TUEEEE、無双要素は設けておりません。 一見して不遇そうな主人公がニッチな要素で優遇されて、なんだかんだ美味い空気吸ってるだけのお話です。 なお、多少の鈍感要素を含む。 主人公含めて変人多めの日常風景をお楽しみください。 ※カクヨムさんで先行公開されてます。 NAF運営編完結につき毎日更新に変更。 序章:New Arkadia Frontierへようこそ【9.11〜9.30】19話 一章:NAF運営編【10.2〜10.23】23話 二章:未定 【お知らせ】 ※10/10予約分がミスで11/10になってたのを10/11に確認しましたので公開にしておきました。一話分飛んでしまって申し訳ありません。

【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。 そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。 プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。 しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。 主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。 孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。 その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。 多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。 「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」 「君にだけは言われたくなかった」 ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数! 圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。 ===========目録====================== 1章:お爺ちゃんとVR   【1〜57話】 2章:お爺ちゃんとクラン  【58〜108話】 3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】 4章:お爺ちゃんと生配信  【239話〜355話】 5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】 ==================================== 2020.03.21_掲載 2020.05.24_100話達成 2020.09.29_200話達成 2021.02.19_300話達成 2021.11.05_400話達成 2022.06.25_完結!

採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game> それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。 そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!? 路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。 ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。 そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……? ------------------------------------- ※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。

兄姉の為の生産職

ザナスト
SF
兄と姉が大好きな弟、勇次は兄姉がやっているゲームの第三陣として参加することになる 兄姉の役に立ちたくて生産職を選び常人の斜め上の発想で人々の度肝を抜く 兄姉は圧倒的なブラコンで弟のやることは全肯定。「「弟をいじめる?いじめたやつは殺す!俺/私達の天使は俺/私達が守る」」の精神の元、生活している故、弟の事になると馬鹿になる。そんな兄弟が織り成すほのぼのストーリー

アルケミア・オンライン

メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。 『錬金術を携えて強敵に挑め!』 ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。 宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────? これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜

トス
SF
 VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。  全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。  とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。  このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。  彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。  ある日、新作『GHO2』が発売される。  新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。  伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。  前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。  もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。  だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。  次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。  自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。  伝説のプレイヤーなんだと――。 (なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)

処理中です...