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第八十七話 花の妖怪 前編

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イベント三日目が始まった。僕は集合時刻の三十分前にゲームにログインしていた。
 基本的に僕は三十分前行動の人間なので、この時間にログインしている訳なのだが、対してやる事が無い。早くログインしてくる人はいないのだろうか。そんなことを考えていると誰かがログインしてきた。

「こんにちは! ツキナ!」
「こんにちは! ヒビト!」

 ログインしてきたのはツキナだった。普段、ツキナは集合時間の十分前にログインして来る人なのだが、最近は二十分前にログインしてくるようになっている。他のみんなは十分前くらいにログインしてくるので、二人の時間を作ることができているのだ。

「今度、遊ばないか?」
「いいわね! いつにする?」
「イベントが終わるのが、日曜日の正午だからその後で」
「オッケー! 楽しみにしているよ!」

 ツキナの笑顔。僕の彼女でいいのかと思えるほどかわいい。ツキナとデートの約束をした後、みんなが来るのをイチャイチャしながら待った。時刻が十二時五十分となった。みんなが順次にログインしてくる。

リリ
「お待たせ!」

アサガオ
「皆さん! こんにちは!」

トモ 
「よぉっ!」

ムサシ
「お待たせしました!」

コジロウ
「こんにちは!」

 みんなが挨拶をしてきたので、挨拶を返しどう進行していくか打ち合わせで決めることにした。

「今日はどこのフィールドに向かう?」
「そうだな……南西のフィールドから攻めて行かないか?」

 僕がみんなに質問するとトモが答えてくれた。昨日は途中で地下迷宮に落ちてしまったが、北東から攻めて行ったので、反対側から攻めていくのも問題はない。

「昨日と対角の方角から攻めていく訳ね! いいと思う」

 リリがトモの意見に賛成する。みんなも賛成なようなので、今日は南西にあるフィールドから攻めていくことになった。
 移動は勿論、幻獣を使っていく。今回はフウラで目的地に向かうことになった。僕はフウラを呼び出し、みんなをフウラの背に乗せる。

「よぉし! 今日はたくさんポイントを取るぞ!」
「おー!」

 僕達は気合を入れて、南西にあるフィールドを目指す。フウラの走る速度は自動車並みなので、あまり時間はかからないとは思う。それに今はゆっくりできるので、無駄な体力を使わないようにリラックスしながらフィールドに着くのを待つ。
 フウラが走り出してから数分が経ち、僕達は目的としていたフィールドに到着した。このフィールドは菫が一面に咲き誇っていた。春の風物詩と言える菫。本当に綺麗である。このフィールドではどんな妖怪が湧くのか少しだけ楽しみだ。

「うわぁあぁぁ! 助けて!」

 姿は見えないが、僕達の前方から悲鳴が聞こえる。どうやら先客がいたみたいだ。

「悲鳴上げてるけど、助けに行く?」

 ツキナがこの先にいるプレイヤーのことを心配しているようだ。そんな顔をされたら、「助けに行かない!」なんて言えない。それに僕も助けてあげようと思っていた。

「すぐに助けに行こう!」
「了解!」

 みんなも合意してくれたようなので、駆け足で声がした方に向かっていく。僕達が声のする方へ近づいていくとアサガオと同じ年くらいの男の子が全長、五メートル以上ある人食い植物かと思える鋭い歯に薔薇のようにとげとげしている手と足。さらには毒々しい花でできた胴体が厄介そうに思える妖怪に追われていたのだ。(木に次いで今度は花かよ!)と突っ込みたくなってしまう。そんなことはさておき、すぐに助けないと……。なんで、一人で行動しているのかも謎なのだが……。

「兜割!」

 僕は男の子と妖怪の間に斬撃を挟ませ、花の妖怪を停止させる。男の子はその隙をついて僕達の方に滑り込んでくる。そして僕の肩に手をガタガタ震えさせながら掴んでくる。

「ぜ、ぜ、絶対にお礼は言わないからな!」

 (このクソガキ生意気だ!)なんて思ったが、強がっている割にかなり恐怖を感じているようなのでそっとしておくことにした。あんな巨大な妖怪に追われれば、誰でも恐怖を感じるだろう。特にこの子はまだ、小学生なのだ。

「ダメだよ! ちゃんとお礼を言わないと!」

 アサガオが男の子を叱る。

「あっ、はい! ありがとうございます……」
「それでよし!」

 初めての相手に容赦ないなと思ったが、アサガオの言うことは素直に聞くということが分かった。男の子のあの動揺、もしかしたらアサガオが好きなのかもしれない。

「君の名前は?」
「ハル」
「ハル君か……よろしくな!」
「きやすくしゃべりか……よろしくお願いします……」

 「きやすくしゃべりかけるな!」と言いたかっただろうが、アサガオににらみで素直に挨拶をする。アサガオとハルのやり取りは見ていて面白い。さっきから強がっているのに全く僕の後ろから動く気配がない。ここのところはまだ小学生と言う事か……。

「おんぶしてやるから待ってろよ」
「うん……」

 僕はそう言うとストレージから紐を取り出し、落ちないようにした。

「よし! これで大丈夫だ!」

 小学三年生なので、さほど重さを感じない。それでも動きは鈍くなると思うので、そこのところ意識して戦わないといけない。ハルが早いうちに恐怖に打ち勝って戦闘に参加してくれると嬉しい。
 急停止を行っていた花の妖怪【フラワーアイオス】は僕を敵と認識し、こちらに向かってくる。走り方はかなりキモイ。体液だと思われる毒液をぽとぽと垂らしながら向かってくる。

「フレイムラーミナ!」

 ツキナはこのスキルで迎撃するが、まったく突進を止めない。僕達は仕方なくフラワーアイオスの攻撃を回避した。【毒無効】は持っていないので、できるだけあの液には触れたくない。図体がでかいので、小回りが利かないみたいだ。大回りしながらこちらに方向転換をしてくる。あいつを止めないといつまでも突進してきそうだ。

「リリ! 何とかしてくれ!」
「任せて!」

 リリはそう言うと何かを地面に設置した。リリならトラップを作っているのではないかと予想していたが、本当に作っているとはフラワーアイオスはリリのトラップに向かって突進してくる。そうなるように僕達が仕向けたからだ。フラワーアイオスはリリのトラップを踏み三十メートルほどジャンプして、地面に落下する。フラワーアイオスの突進も止まり、落下ダメージも入ったので一石二鳥である。

「特性、超ジャンパーよ!」
「ナイスだ!」

 僕はリリを褒め、こいつと戦えそうな場所を探す。
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