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第三十五話 心の葛藤と炎龍対獣人

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「トモくん! 残念だったね!」

 そう声をかけてきてくれたのは杖使いの女性だった。魔女のような帽子をかぶっていてとても可愛らしい容姿をしている。
 トモは後ろにリリがいるのにも関わらず見惚れてしまう。
 トモは杖使いの女性プレイヤーに話しかけられてから一瞬のうちに女性プレイヤーに囲まれてしまう。
 (これ、どう言う状況? 全員、俺のファンか? こんな事されたら耐えられないぞ!)トモはリリと付き合い始めてから美人女性に会うたびに声をかけるのを封印していた。だが今その封印が解けそうなのだ。
 (もう無理だ! 我慢できない!)トモの封印が解けそうになったときに背中が冷たい風が通り抜けるような感覚になる。
 (これ絶対! リリだ!)トモは必死で自分を抑えた。殺されるのだけは勘弁だ。
 
なんで言ったら良いんだろうか……ご飯でも……いやいや、こんなこと言ったらリリに殺されるわ! フレンド交換を……これくらいは良いかもしれないが辞めておこう。

「ありがとう! これからも応援してくれな!」

 考えて、考え抜いた結果この答えしか出てこなかった。女性プレイヤーたちから歓声が上がる。
 トモはリリとアサガオを引っ張ってこの場から逃げた。これ以上いたら確実に封印が解けてしまうからだ。トモたちは観戦ルームの端っこでモニターを見た。

***

 イベント終了まで残り三十分になり、残るプレイヤーが二十人と言うアナウンスが流れる。二十人と言ってもポイントを多く所持しており、優勝できる可能性を持っているのは十人くらいだと思われる。
 リュウガは現在、二百ポイント手に入れていた。ここまで来ると他のプレイヤーに遭遇する確率はかなり少なくなっている。
 リュウガが【超感覚広範囲索敵】スキルを発動して他のプレイヤーを探していると一人のプレイヤーを見つけることができた。
 建物の中に身を隠している様子なので、優勝できるだけのポイントを所持している可能性があると判断した。

「そこの建物に隠れているプレイヤー! 出てきてくれ! 不意打ちするのは好きではない!」

 リュウガがあたりに響くような大きな声を出すと猫耳と尻尾を付けた同世代くらいの女性プレイヤーが姿を現す。猫耳が似合っていて吸い込まれてしまうほどかわいい。

「リュウガちゃんの索敵能力、相変わらず凄いにゃ! 私の隠蔽スキルを簡単に破るにゃんて!」

 リュウガの前に姿を現したのは《獣人連合》幹部プレイヤー、夜討ちのヤマネコだ。名の通り暗闇に紛れて不意打ちをするのを得意とするプレイヤーなのだが、リュウガの索敵スキルの前では無意味だ。

「ヤマネコも参加していたのか」
「ボスに九尾を獲得してこいと言われちゃったからにゃ!」
「あいかわらずガオルガは人使いが荒いようだな!」
「ボスには困っちゃいますにゃ! 寝て過ごしたかったにゃ!」
「それはそうとして、ヤマネコのポイントはいただくな!」
「それはこっちのセリフにゃ!」

 リュウガとヤマネコは少し会話をした後、間合いを取りお互いに集中力を高める。ヤマネコが装備している武器はメリケンサックだ。
 ヤマネコ相手でスキルを使わないと命取りになりかねないので、積極的に使っていこうと思っている。

「神速! 毒突き! 麻痺突き!」

 ヤマネコは物凄いスピードで接近して、右手と左手を交互に動かし、正拳突きをしてくる。リュウガはそれを滅龍剣(蒼炎)で受け止める。

「炎龍モード発動!」

 リュウガは体から炎を発生させ、全ステータスを飛躍的に上昇させる。その状態でヤマネコの右手を弾き返した。ヤマネコは後方に大きくのけぞる。

「陽炎!」

 リュウガは滅龍剣(蒼炎)に炎を纏わせ、右から左に水平に振る。一秒後、地面から炎が噴き上がる。
 ヤマネコは危険を察知したみたいで、後方に飛んで回避していた。簡単には倒れてくれなさそうだ。

「危なかったにゃ!」
「今の攻撃を避けるとは流石だな!」
「ネコの感知能力を舐めるにゃよ!」

 リュウガとヤマネコは笑い合う。イベントが始まってからやっと強いプレイヤーと戦うことができたので、弾んだ気持ちになっていた。

「私も本気でやるにゃ! モード大山猫!」

 ヤマネコが叫ぶと体が黄色いオーラに包まれ、目が琥珀色に光る。そしてメリケンサックから爪のような刃が四本出現して、クローになる。

「行くにゃ!」
「こい!」

 リュウガとヤマネコは目にも留まらぬ速さで急接近を開始し、剣と拳をぶつけ合う。十分間、交戦を続けお互いにHPが半分になる。さすがは《獣人連合》の幹部だ。少しでも気を抜いたら一瞬にしてやられてしまう。

「回復アイテムは使わないのか?」
「リュウガちゃんが使わにゃければ、私も使わにゃい!」
「それは結構なことだ!」

 リュウガは滅龍剣(蒼炎)を地面に突き刺し、炎を溜める。

「極炎!」

 十分に炎が溜まったところで、剣をヤマネコに向ける。すると炎龍が背後から出現し口を開ける。それと同時に炎のブレスが剣から放たれた。
 ヤマネコはそれを時計回りに走りながら避ける。リュウガも体を時計回りに回しながら追跡する。
 ヤマネコの背後にあった建物は【極炎】の影響を受けて灰になって消える。
 炎のブレスが終了したのと同時にヤマネコは方向を急転換させ、リュウガを目掛けて走ってくる。

「貰ったにゃ! アサシンズグレモリーにゃ!」

 ヤマネコは両手のクローを光らせクロスに斬り刻む。背後からは大山猫が出現し、攻撃に合わせて引っ掻き攻撃を行う。

「接近してくるのを待ってた! 炎龍奥義! 火之迦具土《ヒノカグヅチ》!」

 リュウガが振り下ろした剣とクローがぶつかる。それに伴って炎龍と大山猫が衝突した。
 大技同士がぶつかったことで地軸もろとも引き裂くような爆発音が発生し、地面に大きなクレーターができた。
 徐々にだがリュウガがヤマネコを押していく。

「これでも力負けしてしまうにゃんて! リュウガちゃんには敵わにゃいな!」
「お褒めの言葉ありがとう!」

 リュウガはそのままの勢いで、ヤマネコを押していき胴体を切り裂いた。炎龍も大山猫を押し潰す。ヤマネコのHPはゼロになり、消滅した。
 リュウガにヤマネコが所持していた二百五十ポイントが入る。これで合計は四百五十ポイントとなった。

「ふぅ……終わった……」

 リュウガは剣を納刀して一息つく。久々にこんなに楽しめた気がする。残り十五分、リュウガはこれだけポイントがあっても優勝できるか分からないので、他のプレイヤー探すために歩き出す。
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