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第三十二話 戦国兄弟

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 僕が転送された先は草原マップだった。身を隠せる場所も一個もなく、見通しが良い場所に転送されてしまったのだ。

「何でこんな見通しの良いところに転送されるんだか……」

 僕はゲームを始めてから初めて不運に見舞われたと思ったのだが、逆に考えればポイントを稼ぐチャンスかもしれないという考えが脳裏をよぎる。
 見通しがいいと言うことは他のプレイヤーが勝手に僕を見つけてくれる訳だ。僕は動いて他のプレイヤーを探すのをやめて、その場で座る。座った時に【瞑想】を発動させ、AGIを上げておく。

「暇だな……素振りでもして待ってよ!」

 三分くらい経ってもプレイヤーが現れる気配がないので、剣道の練習を兼ねて素振りをすることにしたのだ。
 素振りを始めてさらに五分が経ち、やっと一人目の片手剣使いの男性プレイヤーと遭遇した。

「ポイントはいただく! 俺と当たったことを後悔しろ!」

 男性プレイヤーは片手剣を水平に振って僕に攻撃してくるが、【帯電】を発動していたので男性プレイヤーは麻痺状態になってしまう。

「な、なんだと!」
「言い返すぜ! 戦う相手が悪かったな!」

 僕は星斗天雷刃を頭に振り落とす。

「面!」

 僕の聖斗天雷刃は【貫通攻撃】のスキルが付いているので、防御力を無視して攻撃をすることができる。ちなみに今日の【幸福】のスキルの効果はSTRが二倍なので、STRが常時四倍になっている。さらに【達人芸】と【弱点特攻】の効果でクリティカル率百パーセント。そしてSTRが七倍になるので、男性プレイヤーは一撃で消滅した。

「よし! まず一ポイント!」

 僕は歓声を上げ、ガッツポーズをする。そして素振りを再開する。

「あそこにいるのは《強者の集い》のヒビトじゃねぇか?」
「何やってるんだ?」
「素振りでしょ」
「だよな! こちらに気付いていない今がチャンスだろ!」

 槍使いの男性プレイヤーと斧使いの男性プレイヤーがそんなことを話しているのが耳に入ってきた。バトルロワイヤル形式なのだが、協力するのも反則ではない。僕は二十人のプレイヤーに囲まれた。

「いくら《強者の集い》のメンバーでもこの人数相手では勝てないだろ!」

 槍使いの男性は自身ありげな表情で僕に言葉を発してくる。

「やってみないと分からないな!」

 僕は負ける気が全くしなかったので、ニヤリと笑いながら答える。

「そりゃそうだ! やっちまうぞ!」

 二十人のプレイヤーが一斉に僕に向かって来た。僕は歌を小さな声で口ずさみ【歌唱】を発動させ、HPとMPの自然回復効果を付ける。

「雷電!」

 僕が叫ぶと二十人のプレイヤーの動きが一斉に止まった。【麻痺無効】を持っているプレイヤーは一人もいなかったようだ。

「お前! 何をした!」
「全員を麻痺状態にしただけだ!」
「そんなのありかよ!」
「ありなんだな! ポイントはいただくぜ!」

 プレイヤーたちは諦めモードに入ってしまっている。僕は二十人のプレイヤーを一人ずつ消滅させていく。

「二十ポイントゲット!」

 心が喜びで波打つのを感じる。この作戦がうまくはまったみたいで、順調にポイントを稼ぐことができている。現在、六十ポイント。好調なスタートだ。

「そろそろ移動するか……」

 しばらく待ってもプレイヤーが来なくなってきたので、移動するべきだと考えた。もっと楽してポイントを手に入れたかったのに……。
 十分くらい目的地を決めずに適当に歩いていると海岸に出た。海岸では二人の中学生プレイヤーが対峙していた。
 こんな目立つところで何をやっているんだ。僕も同じようなことをしていたので、人のことをどうこう言えないのだが……。
 両方とも戦国時代の武将が着るようなかみしもを着ており、黒色の髪の毛を一つ結びにしている。
 片方のプレイヤーは双剣使いで、もう一方のプレイヤーは両手剣使いだ。両手剣と言っても日本刀のような形状の刀を使っている。この光景、見たことある気がする。

「我は天下無双の剣士、ムサシなり!」
「我は最強の剣豪、コジロウなり!」

 二人の中学生プレイヤーはムサシとコジロウと言う名前らしい。
 ムサシとコジロウが出てくると言う事は巌流島《がんりゅうじま》の戦いを再現しようとしているみたいだ。映画や舞台でやるほど有名なので、見覚えがあった。
 僕は海岸にあった大きな岩の岩陰に姿を隠して戦いを観戦することにした。二人が疲れ果てた時にポイントをいただきに行こう。

「いざ尋常に勝負!」

 二人が鋭い声で叫ぶ。二人は急接近して刀と刀をぶつける。カキーンと言う凄く高い音が響く。
 音を聞いただけで見えないものに常に監視されているような圧迫感を感じる。一対一で戦ったら勝てるかどうか分からない。
 二人はその距離で数回打ち合った後、距離を取る。

「やるではないか!」
「そちらこそ!」

 二人は純粋に戦闘を楽しんでいるように見えた。

「神速!」

 二人は目にも留まらぬ速さで戦闘を再開する。あまりにも早過ぎるので、刀と刀のぶつかる音しか聞こえない。

「すごいな……」

 僕は二人の戦闘を見て、頭に驚愕の色を浮かべる。この二人はトップランカーなのかもしれない……。
 僕は二人の戦闘の行く末を、胸を小躍りさせながら見守る。二人が戦い始めてから三十分が経過した。三十分も全力で戦っていたので、十五ラウンド戦った後みたいな疲労感を感じている様子だ。
 これはチャンスだ。僕は【瞑想】と【歌唱】を発動させる。そしてアサとヨルに僕に対して雷攻撃をしてもらい【窮地】を発動させ、STRを六倍にした。
 僕は岩陰から姿を現し、二人の元に向かって歩いていく。

「今、良いところなんだから邪魔するなさぁー!」
「そうだ! そうだ!」

 二人が僕を見るや否やぶつぶつ文句を言ってくる。

「キャラ崩壊してますけど!」

 素の自分が表に出てしまっている二人にツッコミをしてしまう。
 近くで見て分かったのだが、この二人は顔がすごく似ている。(この二人は絶対、双子だ!)僕は心の中で確信する。
 僕にツッコミをされた二人はやってしまったと思ったようで、顔に悔恨の色が現れている。

「そなたは何処から来たのだ?」
「何奴?」

 二人はすぐに気持ちを切り替えたみたいで、同時に演技を始める。二人の演技に僕は乗ってあげることにした。

「拙者はヒビトと申す者! 向こうの丘の上からお主らを斬り伏せに参った!」

 たまたま視界に入った丘を指差して宣言する。実際は二人が疲労するまで、岩陰に隠れて見ていただけなのだが……。

「な、なんと! 我ら《戦国兄弟》に勝てるとお思いで!」

 二人のうちムサシと名乗っていた方が、僕に言葉を発してくる。

「そうとも! 勝ち筋が見えたので参ったのだ!」

 そうは言ってみたものの、実際のところは二人を相手にして勝てるか分からない。麻痺が効けば勝てるとは思うが……。

「よかろう! ならばこの《戦国兄弟》謹んでお相手いたす!」

 コジロウと名乗っていた方がニヤリと笑いながら言い放つ。今、ここに戦国兄弟との戦いの火蓋が切られた。
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