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第十七話 イベントに向けて

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(そんなに見られても困るのにな)僕は心の中でそう呟く。
 確かにゲーム内の料理を食べて、満足した気持ちにはなったが幸福を感じたかと言うとよく分からない。だがスキルを獲得できたので、幸福な気持ちになったと言うことだろう。

「多分、僕が幸福を感じたと思う」
「やっぱり!」

 トモは僕が幸福を感じていると分かっていたかのような口調で、自信満々に答えてきた。

「ヒビトといると普通だと手に入らないスキルが手に入るかもしれないわね!」
「ヒビトから離れれねーわ!」

 トモとツキナは僕に対して変なフラグを立ててきた。
 確かにゲーム知識がゼロの僕なら普通はやらないことをやりかねない可能性はあるが、先に言われてしまって期待に応えられないと困ってしまう。ちなみに今日の幸福スキルのメリット効果は経験値二倍になっている。

「変なフラグを立てないでよ……」

 僕は少しトーンを落として、答えた。

「フラグは立ててないから心配するな! それよりもこの後、何やる?」

 トモはモンスターを倒しに行きたそうな表情で質問してくる。
 僕みたいに一回、プレイしただけなのにハマってしまっているみたいだ。

「イベントがあるならレベ上げをしないか?」
「いい考えね!」
「そう来なくっちゃな! ヒビト!」

 意見が満場一致だったので、レベ上げを行うことになった。
 僕たちは店を出て、フィールドに向かっていく。

「おっ! このフィールドはハナミズキだな!」
「ヒビト! ハナミズキ歌って!」
「やだよ……! トモの美声を見せてくれよ!」
「ヒビトが一緒に歌ってくれるならいいぞ!」
「何でそうなる!」
「俺が一緒に歌いたいからだ! 彼女の前でかっこいいところ見せてやれよ!」

 僕とトモはこのフィールドに咲いている十メートルの樹木に花をつけているハナミズキを見て歌を話題にして会話をしていた。
 ハナミズキは街路樹のように規則正しく綺麗に並んでおり、白、ピンク、赤と三種類の花を華やかに咲かせている。
 このフィールドは植物系のモンスターがうじゃうじゃいるようだ。
 植物系モンスターの頭に咲かせている花もハナミズキと一緒で白、ピンク、赤の三種類である。

「ヒビトの歌声、聞いたみたいわ!」

 ツキナは本当に聞いてみたそうな表情で僕を見てくる。
 
「ほらほら! ヒビト! う・た・え・よ!」

 トモは僕を歌わせるために拍手をし始める。ツキナもトモに合わせるかのように拍手をし始めた。
 これで逃げれない状況が作られてしまったわけだ。

「ならトモも歌え!」

 僕はそう言いながら、手をマイクのように握ってトモの口元に持っていた。
 
「しょうがないな……! 一緒に歌うか……!」

 トモが歌う気になってくれたので、僕も覚悟を決めてデュエットでハナミズキを熱唱した。
 周りでレベ上げをしていたプレイヤーが一斉に振り向くほどに……。

【歌唱を獲得しました‼︎】

「歌上手いわね!」
「ありがとう……」

 ツキナは絶賛してくれている。
 僕とトモはよくカラオケに二人で行き、歌の平均点数はライブダムの精密採点DXーGで九十五点くらいなので歌声には少し自信があった。

「また変なスキル獲得した!」
「俺もだ!」
「どんなスキル手に入れたの?」

 ツキナが興味を持っているようなので、スキルを見せた。

【歌唱、十秒以上歌を口ずさむことで、五分間三秒毎にHPは百ずつ、MPは四十ずつ回復する 獲得条件、歌を熱唱する】

「強いわね! 私も歌おうかしら!」
「ツキナの歌声も聞きたいな」
「冗談よ、冗談よ!」

 ツキナは少し慌てながら答える。

「なら今度カラオケ行った時に聞かせてな!」
「いいわよ……」
「約束な!」

 僕はツキナと現実世界でデートする約束を取り付けた。
 今日の夕飯の誘いはトモが近くにいない時に提案してみることにした。
 トモの目の前でそんな約束をすると絶対に何か言われると思ったからだ。

「レベ上げしよ!」

 トモが元気よく提案をしてきたので、モンスターを倒しに向かった。
 赤色の花をつけた植物系モンスターが二体、僕たちに向かってきた。
 赤色の花をつけた植物系モンスターは花をこちらに向けてきて火を吹いてきた。

「シールド!」

 ツキナは僕とトモを囲むようにシールドを展開した。
 火はシールドを中心に二手に分岐して進んでいき、消滅した。

「ナイス‼︎ 雷電‼︎」

 僕はツキナを褒めつつ、雷電を発動して二体の赤い花をつけた植物系モンスターは麻痺状態にした。

「今だ! トモ!」
「おう! ピュアスアローウ‼︎」

 トモが射った矢は二体の赤い花をつけた植物系モンスターを貫き、こちらに向かってきていた赤い花をつけた植物系モンスターも一緒に貫いた。

「よっしゃぁぁ! ラッキー!」

 トモは歓喜の声を上げた。
 僕とツキナとトモはハイタッチをして、次のモンスターを倒しに行った。
 初回にしてはナイス連携だったと思う。

「次はあのモンスターを倒すわよ!」

 ツキナが刺したのは、頭にピンク色の花をつけている植物系モンスター四体だった。
 このモンスターは近づいても攻撃してこないことから温厚なモンスターだということが分かる。
 
「雷電‼︎」

 僕はピンク色の花をつけたモンスターを麻痺状態にしようとしたが、風に乗って【雷電】の範囲外に逃げていった。

「はやぁぁ‼︎」
「あの容姿でこのスピードは予想外!」

 僕とトモはびっくりして目を丸くしていた。

「こう言うモンスターはこうやって倒すのよ!」

 ツキナは月虹玉花を頭上に持ってきて冷気を発生させる。

「氷の舞‼︎ 銀世界《シルバー》‼︎」

 ツキナが叫んだ瞬間、半径十メートルの範囲内のモンスターが一斉に凍りついた。
 半径十メートルの範囲内には僕たち以外にもプレイヤーがいたが、プレイヤーは一人も凍っていない。どうやら調整ができるみたいだ。
 周囲でレベルを上げていたプレイヤーは面食らってぽかんとしている。

「斬新……」

 僕はツキナがこう言う選択をするとは予想をしていなかった。
 トモもそう思っていたみたいで僕の意見に賛同している。  

「これが一番手っ取り早いでしょ!」
「そうだけれども……ツキナにしかできない技だな……」
「そうね! それよりもヒビトとトモ、凍ったモンスターを倒して来て!」
「お、おう! 分かった」
「りょ!」

 僕とトモは凍りついたモンスターを片っ端から倒していった。

【レベルが35になりました‼︎ 兜割《カブトワリ》を獲得しました‼︎】

「二つ目の攻撃系スキルをゲットしたかも……!」
「よかったじゃない!」
「おめでとう! 俺も三個ほど攻撃系スキル手に入れたぞ! レベルも20になった!」

 トモは本当に嬉しそうにしている。
 
「ステータスとスキル見せて!」
「ヒビトも見せてよ!」
「いいよ!」

 前は隠していたがAGIを全く上げてないことをトモも分かっているので、見せることにした。
 ツキナには何度も聞いたことがあるが、その都度断られているので特に聞くことはしなかった。
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