【R18G】門地旅館

黄泉坂羅刹

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終章 地獄門篇

回顧地獄

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「異月姉様が出て来たって事は、もう鬼神様が待てないって事よね……?」

右月は異月が出て行った戸を見詰めながら、左月、鎖月に疑問の声を上げる。
二人も顔を見合わせるが、その疑問は同じ様に持って居た。
実際、美月と苦月が目の前で殺されたのだ。次はいつ自分達の身に起こるか分からない。

「幸い鬼の門は此処しか開かない。なら、異能は使えなくなるけど、此処から逃げれば……」
「右月、滅多なこと言わないで!?」
「ごめんなさい、右月姉様の言いたいことは分かるけど、でも……」
「私は死にたくない、それに幸せになりたい。散々人の命奪って何を言ってるんだって思うかもしれないけど」

そう言って右月は部屋の窓に手を当てると、そのまま窓の外に飛び出して行った。
それを止めるべきにも関わらず、二人はそれが出来なかった。



ネットの力は偉大である。周辺地域からしか人が集まらなかったのに、今ではほぼ毎日日本、果ては海外から門地旅館を見に訪れる。
だが、一定年齢を下回る少女でなければ周辺に近付けないようにしているため、殆どが都市伝説として帰っている状況だ。
セーラー服を纏った少女達が門を越えて旅館に入ると、突如旅館着に変わっていることに驚く。
けれども、一人だけ驚かない少女が居る。
見覚えのある空間、そして此処に居続けては行けないと言う感覚に、直ぐに二人の手を取り窓から外に飛び出す。
けれども、一人は足に絡みついた髪の毛に捕らえられ、そのまま窓の下に落下し、そのまま部屋へと引きずり戻されてしまう。

「な、何あれ!?」
「振り向いちゃダメ!」

旅館の地図が頭に思い浮かぶ、裸足で外を歩き、そのまま門へと辿り着く。
そこには、少女と同じ顔の、もう一人の少女が立っていた。

「え、右月が二人!?」
「……っ! やっぱり、失うのは異能だけじゃなく、記憶持ってことね……!」
「そう。そして、巡り巡り、因果は此処へ収束する」
「けど、記憶が戻るなら、異能も戻る……!!」
「!?」

左月は咄嗟に目を瞑ろうとするが、既に精神世界の中で捕らえられる。
だが、右月は姿を現さない、そしてこの世界は時間が経たない。
それは、無間地獄に他ならない。彼女は終わり無き世界に閉じ込められたのである。

「いや、出して! 気を、気を狂わせて、お願い!! 殺して! お願い! いやぁぁぁぁぁああああああ!!!」

気も狂わず、歳も取らず、動く事も出来ず、ずっと同じ光景を見て、ずっと同じ腐敗臭に苛まれ、彼女は閉じ込められ続ける。
それを解除出来るのは、右月ただ一人。
だが……。

「いや! お願い、目を覚まして、右月……!!」
「悪いね、お嬢ちゃん。裏切り者だもの、殺すわよ」

その右月が既に殺されてしまえば、左月にこの精神世界から逃れる術は無い。
何せ、この精神世界は自分の内側の世界だから、他に干渉出来る者など居ないのだ。

「いや、此処から出して!」
「その前に自己紹介させて頂戴。私は異月、異能は空間に相手を閉じ込めること。若女将頭を勤めて、そこらへんに転がる愚妹の姉」
「お姉さんなら、なんで妹達をこんな目に遭わせるの!?」
「掟よ、それだけ」
「ごめんなさい、さっき捕らえた人、鬼神様にお渡ししました……」

背後から縛月が現れ、新たな空間のヒビ割れが右月、左月の遺体を空間へ引きずり込む。
それから空間の中に髪の毛を出現させると、少女の全身に髪の毛を絡ませて締め上げる。
地獄の門が直ぐに開くと、そのまま少女を連れ去った。

「縛月。生きているのは、貴女だけになったわね」
「……はい、ごめんなさい」
「そして、私は傍付き。貴女一人では、もうこの世界に留まることも出来ない」
「………」
「帰りましょう、私達の地獄へ」

手を指し伸ばされる。
縛月はその手をそっと手を取り、そして――

「ぐふっ!?」
「あはははは……。どっちが地獄か分かりませんね、異月姉様? 旅館が無くなって、私は悟りました。ごめんなさい、私はもう……あの旅館と一緒に死んでるの」
「ど、どういう……こと?」
「苦痛が好きな私は、彼女達と同化して、そして旅館と同化した。そして今、この旅館はあの日、苦月姉様と美月姉様が死んだ日に、一緒に殺されたのよ」

そう言うと同時に旅館が崩れ落ちる。
縛月は異月の胸から心臓を引き抜くと、そのまま心臓を握り潰す。

崩れる旅館、崩れる門、地獄の門からは何本もの腕があちこちから飛び出して、何かを探すように這いまわる。
異月の身体が腕に触れた瞬間に、今まであらぬ方向へと出て居た腕が一斉に異月の方へと延びて行く。
多くの腕に彼方此方を掴まれた異月の身体は、捩じられちぎられ、見るも無残になっていく。
それを見送る縛月は、自らの唇に血を塗る。
旅館が崩れ、縛月は門の外へと出る。そこでは異能が消え、記憶が消え、そして振り返れば、因果が収束される場所も消えていた。

「………」

縛月は背後を振り返り、なぜ自分が白装束に裸足なのか分からないまま山を下りる。
記憶を失った鬼の使い、彼女が深淵から目を逸らした時、深淵もまた彼女を見失う。
ただ、彼女は再び訪れることになる、その忌みべき場所へ。



「縛月ちゃん、縛月ちゃん!!」
「わ、ごめんなさい、何?」
「もー、謝らなくって良いよ~。それで決まった?」
「えっと、ごめんなさい、なんのこと?」
「将来の夢! 縛月ちゃん、頭良いから、何でも出来そう! 学校の先生とかになるの?」
「ううん。私はもっと、お客様の笑顔が見られる場所に行きたいかな」
「例えば、どんな~?」
「う~ん、おはようからおやすみまでお世話出来るところ?」
「家政婦さんとか? 或いは――ホテルの人とか!」



「それならいっそ、若女将が良いかな、なんちゃって、ごめんなさい!」



必死に勉強して、マナーを身に着けて、そして少女は旅館の若女将を目指す。
そこで再び、惨劇が繰り返されることも知らず。
惨劇が繰り返されていたことにも気付かずに。
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