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ポールがくすりと笑った。
「それはもうわかってるよ」
「身内のわしも頼ってくれよ」
「ねえ、おじさん。今から公爵邸に行っていいかな。よかったらサラおばさんも一緒に。経営のパートナーとして相談にのって欲しいので」
ポールの誘いは心地よく響いた。
「そうね、少しだけなら。でも……」
(お仕事を探さないといけませんのよ。それに……)
ちらとガイを盗み見る。
(ガイと話がしたいの)
「話がある」
ガイの声がサラの鼓動を奪った。まるで心が繋がっているみたいだ。
「はい……!」
勢い込んで振り返ったサラに、ガイは「あ、いや」と手をかざした。「トールと話があるんだ」
「あ、あら、そうなの」
トールは肩をすくめた。
「悪いけど、用が済んだみなさんは帰ってくれないか」
睨み合うガイとトールを残して、サラたちはいったん事務所を出ることにした。ポールは辻馬車を拾いに行き、公爵はモアを抱えて待ち、サラはピーちゃんの背を撫でながらガイのことを考えていた。
(因縁のある二人が話だなんて、無事に済むわけないわ。まさか、今ごろ殴り合いのケンカなんてしてないでしょうね)
二人が殴り合う図が脳裏に浮かんだ。
一度想像してしまうと、不安が胸を塞ぐ。復讐の天使を紹介する話も途中だった。いてもたってもいられなくなった。
「サラおばさん、乗ってくでしょ?」
馬車を寄せたポールは真っ先にサラを乗せようと声をかけてきた。サラは首を振った。
「先に行っていてちょうだい。忘れ物を思い出したの」
「忘れ物?」
「モアりんのバスケットよ。お先にどうぞ。わたくしはあとからピーちゃんに乗って追いかけますから」
サラは事務所に戻る口実を見つけるや、急いで戻った。
部屋の中から口論するような声がもれている。
(やはり険悪になってるわ。でも間一髪、暴力になる前でよかったかも)
少しだけ開いた扉の隙間から、そっとようすをうかがった。向かい合う二人が見えた。
「この事務所を潰す気なんだろう。復讐か」
「復讐なんかじゃない」
「お前がいた事務所を潰したことをまだ恨んでるのか。ことごとく邪魔をするのはそのせいだろう。こっちはそれなりに償っているつもりなんだが」
「身元引受人の件は感謝している。だが、邪魔をしている認識はなかった。クライアントにたいして誠実に向き合っただけだ」
(トールがガイの身元引受人になっただなんて、信じられない)
ノックをすべく拳を握っていたサラは手を引っ込めて、ぴたりと扉に貼りついた。
「皮肉か。私は不誠実な男だ。憎らしいなら離れればいいものを。私にまとわりついて勝手に気分を害してるのは、そっちだろうに」
「邪魔とかまとわりつくとか、さんざんな言われようだな。俺にも我慢の限界ってのがあるんだぜ」
(ダメよガイ、暴力はダメよ。トールのことだから目の玉が飛び出るくらいの損害賠償をふっかけてくるわ)
「なるほど。お互いに我慢の限界だったようだな。ふふ、で、どうするんだ? おまえに何ができる?」
トールはガイを挑発するように笑った。
「こうするさ」
ガイはトールに手を伸ばし──
(え?)
「それはもうわかってるよ」
「身内のわしも頼ってくれよ」
「ねえ、おじさん。今から公爵邸に行っていいかな。よかったらサラおばさんも一緒に。経営のパートナーとして相談にのって欲しいので」
ポールの誘いは心地よく響いた。
「そうね、少しだけなら。でも……」
(お仕事を探さないといけませんのよ。それに……)
ちらとガイを盗み見る。
(ガイと話がしたいの)
「話がある」
ガイの声がサラの鼓動を奪った。まるで心が繋がっているみたいだ。
「はい……!」
勢い込んで振り返ったサラに、ガイは「あ、いや」と手をかざした。「トールと話があるんだ」
「あ、あら、そうなの」
トールは肩をすくめた。
「悪いけど、用が済んだみなさんは帰ってくれないか」
睨み合うガイとトールを残して、サラたちはいったん事務所を出ることにした。ポールは辻馬車を拾いに行き、公爵はモアを抱えて待ち、サラはピーちゃんの背を撫でながらガイのことを考えていた。
(因縁のある二人が話だなんて、無事に済むわけないわ。まさか、今ごろ殴り合いのケンカなんてしてないでしょうね)
二人が殴り合う図が脳裏に浮かんだ。
一度想像してしまうと、不安が胸を塞ぐ。復讐の天使を紹介する話も途中だった。いてもたってもいられなくなった。
「サラおばさん、乗ってくでしょ?」
馬車を寄せたポールは真っ先にサラを乗せようと声をかけてきた。サラは首を振った。
「先に行っていてちょうだい。忘れ物を思い出したの」
「忘れ物?」
「モアりんのバスケットよ。お先にどうぞ。わたくしはあとからピーちゃんに乗って追いかけますから」
サラは事務所に戻る口実を見つけるや、急いで戻った。
部屋の中から口論するような声がもれている。
(やはり険悪になってるわ。でも間一髪、暴力になる前でよかったかも)
少しだけ開いた扉の隙間から、そっとようすをうかがった。向かい合う二人が見えた。
「この事務所を潰す気なんだろう。復讐か」
「復讐なんかじゃない」
「お前がいた事務所を潰したことをまだ恨んでるのか。ことごとく邪魔をするのはそのせいだろう。こっちはそれなりに償っているつもりなんだが」
「身元引受人の件は感謝している。だが、邪魔をしている認識はなかった。クライアントにたいして誠実に向き合っただけだ」
(トールがガイの身元引受人になっただなんて、信じられない)
ノックをすべく拳を握っていたサラは手を引っ込めて、ぴたりと扉に貼りついた。
「皮肉か。私は不誠実な男だ。憎らしいなら離れればいいものを。私にまとわりついて勝手に気分を害してるのは、そっちだろうに」
「邪魔とかまとわりつくとか、さんざんな言われようだな。俺にも我慢の限界ってのがあるんだぜ」
(ダメよガイ、暴力はダメよ。トールのことだから目の玉が飛び出るくらいの損害賠償をふっかけてくるわ)
「なるほど。お互いに我慢の限界だったようだな。ふふ、で、どうするんだ? おまえに何ができる?」
トールはガイを挑発するように笑った。
「こうするさ」
ガイはトールに手を伸ばし──
(え?)
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