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「さて、今日こそはお仕事を探さないと、あ……!」
職業紹介所の前で、サラは公爵と出くわした。
「お、おう」公爵はおどおどとしている。
「お仕事を探しに?」
「いや、わしは……」
公爵は隣の結婚相談所をちらりとみやる。
「お互いがんばりましょうね」
しばらくしてうつむき加減に職業紹介所を出たサラは、肩を落とした公爵に再度ばったりと遭遇した。
顔を見合わせれば、同時に溜息が出た。
「まだ1日目ですよ。運命の出会いに焦りは禁物ですわよ」
「それはそうだな。ちょっとそこらで茶でも飲まんか」
「それなら美味しい紅茶を飲ませてくれる喫茶店を知っているわ。一緒に行きましょうか」
後ろから奇声と絶叫が聞こえてきた。何か事故でもあったのだろうか。振り返るまもなく、黒いかたまりが横を通り過ぎる。
「あれはおまえのダチョウではないか?」
「あらまあ、ピーちゃん。勝手に抜け出してきたのね」
ダチョウの後をモアが懸命に追いかけていった。
「ピーちゃん! モアりん! 一緒にいらっしゃいな!」
「だから、うちは喫茶店ではないんですよ。なんで来るんですか!?」
トールはこめかみに青筋を立てている。
公爵はモアを無言で撫で続けている。動物の赤ちゃんが醸し出す癒し成分を摂取しているのだろう。
「公爵は疲れているのよ。甘い焼き菓子はあるかしら?」
公爵はまだ一応はトールのクライアントなのだ。おこぼれくらいはいただいてもかまわないだろうとサラはにこりと笑った。
「ダチョウはおもてに出してください。狭い事務所にデカブツがいたら迷惑です」
「まあ、狭い事務所だなんてご謙遜を。いいお話も持ってきましたのよ。ガイの後継者に相応しい素晴らしい人材を見つけましたの」
「『復讐の天使』の後継ですか?」
トールは興味をひかれたらしく、焼き菓子を持ってきた。
「それはありがたい。困っていたんですよ。こっちが多少しくじっても復讐の天使がフォローしてくれれば、依頼人のストレス発散に効果的ですからね。ガイは、まあ、ポンコツの天使でしたが。で、その人は優秀なんですか?」
「会えばわかると思うわ」
ここで『アシュリー』の名を出せば公爵の傷に塩を塗り込むことになる。明日の契約がうまくいったら後日紹介すると約束した。
「では、遅くなる前に失礼しましょうか。……ノース?」
公爵はモアを抱きしめて丸くなっている。まだひな鳥のモアは抱きしめられたり押し潰されたりしても、それがかえって心地よいらしく、公爵の腕の中でうとうとしている。引き離したくはなかったが、そういうわけにはいくまい。
「ちょっと、あなた。モアりんはわたくしの孫のようなものなのよ。もういいかげんにしてくださいな」
「ちょっと貸してくれんか」
「勝手なことを言わないでちょうだい。モアりんだって迷惑してるわよ」
すやすやと眠っていることは目を瞑った。
「明日まででいいんだ。必ずここに連れてくるから」
「しつこいですわよ、あなた」
「……金は出す。レンタルだと思ってはどうだ」
公爵はますますモアを強く抱きしめる。
「あなたがモアりんを手放さない気なら、わたくしはあなたをここから一歩も出さないわよ!」
トールは肩をすくめた。
「事務所の営業時間を過ぎましたので」
モアを抱きしめた公爵とダチョウとサラは事務所の外に放り出された。
職業紹介所の前で、サラは公爵と出くわした。
「お、おう」公爵はおどおどとしている。
「お仕事を探しに?」
「いや、わしは……」
公爵は隣の結婚相談所をちらりとみやる。
「お互いがんばりましょうね」
しばらくしてうつむき加減に職業紹介所を出たサラは、肩を落とした公爵に再度ばったりと遭遇した。
顔を見合わせれば、同時に溜息が出た。
「まだ1日目ですよ。運命の出会いに焦りは禁物ですわよ」
「それはそうだな。ちょっとそこらで茶でも飲まんか」
「それなら美味しい紅茶を飲ませてくれる喫茶店を知っているわ。一緒に行きましょうか」
後ろから奇声と絶叫が聞こえてきた。何か事故でもあったのだろうか。振り返るまもなく、黒いかたまりが横を通り過ぎる。
「あれはおまえのダチョウではないか?」
「あらまあ、ピーちゃん。勝手に抜け出してきたのね」
ダチョウの後をモアが懸命に追いかけていった。
「ピーちゃん! モアりん! 一緒にいらっしゃいな!」
「だから、うちは喫茶店ではないんですよ。なんで来るんですか!?」
トールはこめかみに青筋を立てている。
公爵はモアを無言で撫で続けている。動物の赤ちゃんが醸し出す癒し成分を摂取しているのだろう。
「公爵は疲れているのよ。甘い焼き菓子はあるかしら?」
公爵はまだ一応はトールのクライアントなのだ。おこぼれくらいはいただいてもかまわないだろうとサラはにこりと笑った。
「ダチョウはおもてに出してください。狭い事務所にデカブツがいたら迷惑です」
「まあ、狭い事務所だなんてご謙遜を。いいお話も持ってきましたのよ。ガイの後継者に相応しい素晴らしい人材を見つけましたの」
「『復讐の天使』の後継ですか?」
トールは興味をひかれたらしく、焼き菓子を持ってきた。
「それはありがたい。困っていたんですよ。こっちが多少しくじっても復讐の天使がフォローしてくれれば、依頼人のストレス発散に効果的ですからね。ガイは、まあ、ポンコツの天使でしたが。で、その人は優秀なんですか?」
「会えばわかると思うわ」
ここで『アシュリー』の名を出せば公爵の傷に塩を塗り込むことになる。明日の契約がうまくいったら後日紹介すると約束した。
「では、遅くなる前に失礼しましょうか。……ノース?」
公爵はモアを抱きしめて丸くなっている。まだひな鳥のモアは抱きしめられたり押し潰されたりしても、それがかえって心地よいらしく、公爵の腕の中でうとうとしている。引き離したくはなかったが、そういうわけにはいくまい。
「ちょっと、あなた。モアりんはわたくしの孫のようなものなのよ。もういいかげんにしてくださいな」
「ちょっと貸してくれんか」
「勝手なことを言わないでちょうだい。モアりんだって迷惑してるわよ」
すやすやと眠っていることは目を瞑った。
「明日まででいいんだ。必ずここに連れてくるから」
「しつこいですわよ、あなた」
「……金は出す。レンタルだと思ってはどうだ」
公爵はますますモアを強く抱きしめる。
「あなたがモアりんを手放さない気なら、わたくしはあなたをここから一歩も出さないわよ!」
トールは肩をすくめた。
「事務所の営業時間を過ぎましたので」
モアを抱きしめた公爵とダチョウとサラは事務所の外に放り出された。
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