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 一通りの検査を終えて、大先生の診察室に呼ばれた。遠慮しようとするレインを「来てくれ」と手を引いた公爵は、きっと心細かったのだろう。三人で先生の説明を聞くことになった。

「膝に水が溜まっていることが判明しましたよ」

 大先生は朗らかに教えてくれた。

「どうりで歩きにくいと思った」

「さいわい、怪我は軽い捻挫だけで、ほかに大きな病気はなさそうです。膝の水は抜いておきましょうか」

 太い注射器を見せられて、公爵はひえと悲鳴をあげた。

「……足を引きづっていたのは、演技ではなかったのね」

「演技だと思ってたのか」

「数十年も前の古傷が痛むのかしらと不思議でしたのよ」

「落馬したときの怪我か。もう痛みの感覚しか覚えてないぞ。いてて」

 サラは疑っていたことを反省した。思い込みのせいで真実が見えなかった。反省はしたものの、注射を痛がる公爵は、まるで子供のようで情けなく感じた。

「あなた、少しは我慢なさってください!」

「サラ! レイン! 手を、両手を握ってくれ!」

 しかたなく片方ずつ掴むと、公爵はほっとした顔になった。

「うわあ。吸血鬼の牙みたいにぶっとい針がずぶずぶ刺さってますねえ。痛いでしょうねえ」

 無邪気に笑うレイン。
 施術を終えるころには公爵はぐったりとなっていた。

「また溜まったら来てください。公爵ももういいお歳ですから、無理の効かない体なんです。普段は介添え人か杖が必要ですよ」

「いい歳だと。子供が生まれるんだ、老いるわけにはいかんのだ!」

 公爵は悔し気に唸った。

「子供ですって?」大先生は不思議そうに首を捻った。「おかしいですね。だって貴方は……」

「え……?」

 サラは検査結果がすべて網羅されている診断書をもらうことを忘れなかった。


 夕方、屋敷に戻ると『土地を買いたい』というポールの知人が待っていた。半白の頭髪がダンディーな、レオノールという名の紳士だ。新大陸出身で、貿易商として世界を渡り歩いていたという。
 ダチョウは居間のすみで、おとなしく卵を温めていた。ガイが抱えていた卵を見て、彼が産んだのだと思ったようだ。愛するガイが卵を産んだ、つまり、自分は親になる。そう思い込んだダチョウはご機嫌で卵に覆いかぶさっているのだ。ダチョウのオスはメスと交代できっちり半日づつ抱卵をする。しばらくのあいだは、おとなしくしていてくれそうだ。

「あの、ご報告しないといけないことが……。ついさきほど気づいたことなのですが……」

 おどおどしたようすのカーンが現れて、公爵にひそやかに耳打ちをした。カーンの心遣いはすぐに意味を失った。驚いた公爵が大声で訊き返したからだ。

「アシュリーの姿が消えただと。いったいどういうことだ!」
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