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「……ポール?!」

「え……?」

 サラの知り合いだとわかり、ガイは手を放した。ポールは軽く肩をすくめている。

「さっき窓から覗いたのは僕だけど、泥棒じゃないって、おばさんから説明してやってくれませんか」

 煤だらけの青年は、ノース・ポータリー公爵の甥っ子、ポールだった。


 声が響いたのだろう、様子を見に来た紳士たちが居間に集まってきた。アシュリー以外の全員がそろう。ガイには使用人のお仕着せを着てもらった。

「公爵の弟の息子でポールっていいます。どうぞお見知りおきを!」

 ポールは屈託のない笑みで自己紹介をした。

「おまえ、外国に行ってなかったか。いつ戻ってきたんだ」

 公爵は大儀そうにポールに訊ねた。

「海外にいらしたんですか。仕事で?」トールは興味をひかれたようだ。

「今日戻ってきたんですよ。仕事といえば仕事かな」

「なにが仕事だ。遊びほうけてるくせに」

「おじさんは厳しいなあ。でもいつかはわかってくれると思いますよ。いつかって言っても、そう遠くはないでしょうけど。あ、これ、お土産です」

 背負っていた布袋をテーブルにおき、丁寧に結び目を解くと、ポールは中から大きな丸いものを取り出した。

「なんじゃ、でかい石だな」

「なにやら既視感があるわね」

 サラは思わず手を伸ばした。人間の赤ん坊ほどもありそうな、ずしりとした重量感がある。

「俺が持ちますよ」

 見かねたのか、隣に座っていたガイが受け取った。

「まるで卵みたいだな。こんな大きな卵はないだろうが」と言って、ガイは膝にのせて抱える。

「ピーちゃんが卵だった時を思い出すわ。もっと小さかったけど。で、これはなに?」

「なんかの卵だけど、実はぼくもよくわかんない。いやあ、割れなくてよかった」

「またダチョウの卵を持ってきたのか」

 公爵は呆れた声をあげた。

「いやいや、ダチョウじゃないですよ。新開拓した交易地にいたんですけど、そこの原住民がほとんど狩り尽くしてしまったらしい希少ななにかですよ。亀かな、ワニかな。朝食の卵焼きを辞退して譲ってもらったんです。サラおばさんに喜んでもらおうと思って。孵化は難しいでしょうけどね」

「気持ちはうれしいわ。今回も遠くへ行っていたのね。無事でなによりだわ」

「さきほど屋敷の周辺をうろついていたのはあなたですか?」

 トールが待ちきれないといったふうに訊ねると、ポールは苦笑した。

「うろついていたと言われるのは心外だな。屋敷に知らない人がいっぱいいたから、様子を窺っていただけだよ。あんたたち、何者?」

 トールは空咳に続けてややもったいぶった自己紹介をした。ついでにガイやレインを手短に紹介したあと、「公爵夫妻の今後について話し合ってるところだ」と説明した。
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