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「泊まっていきなさい。部屋はたくさんある」
公爵は全員に泊まっていけばよいと言った。まもなくざあざあと激しい雨音が聞こえてきた。こんな天気の中、ゲストを帰すべきではない、というていを装っているが、内心は怖いのだろう、とサラは勘繰った。
外を見回りに行ったカーンが戻ってきた。
「屋敷の周囲を一周してきましたが、誰もいませんでした。雨のせいで足跡なども流れてしまったことでしょう。ピーちゃんも行方不明です」
「まあ、これだけの人数がいれば、泥棒だろうが強盗だろうがおそれをなして逃げ出すでしょう。では、お言葉に甘えて、一晩お世話になります」
トールが群れから離れると、レインもあとに続いた。ゲストルームへはカーンがそれぞれを案内した。
「あら、ガイは。ガイはどこへ行ったのかしら」
「さっき外に向かっていったぞ」
そう言った公爵はアシュリーを抱きかかえるようにして自分の部屋に入っていった。かちゃりと鍵の締まる音がした。防犯のためとはわかっていても、なんとなく不快な気分になる自分をサラはゆるせなかった。
「ピーちゃんを回収して、わたくしもさっさと寝ましょう!」
サラは濡れるのもかまわず、裏庭に続く扉を開けた。
そこには全裸の男が仁王立ちしていた。
「…………」
「あ! これは失礼」
男は股間を両手で隠した。
声は聞き覚えのあるガイのものだ。だが顔は──
「そんな顔だったの?」
激しい雨のシャワーで、ぼさぼさの髪と汚れた顔が洗われて露わになっていた。教会の天使が裸足で逃げ出すような美麗な顔立ちである。
「隠すなんてもったいないわ。あ、違うわ、股間ではなくてよ」
「別に隠していたわけでは。つうか、上流婦人のくせにうろたえないんだな」
「誤解ですわ。上流夫人はなにがあってもうろたえないものよ!」
「ピーちゃんならまっすぐに駆けだしていったぜ。なにか見つけたみたいだ。泥棒かもしれない」
「まああ!」
「心配なら俺が見に行ってこようか」
「そのかっこうで? なんで裸なの?」
「風呂の代わりに。ちょうどいい強さの雨だからな」
「それならゲストルームにお湯を持っていってあげるわよ。風邪をひくといけないから中に入って。ずぶ濡れの服なんか、着なくていいわ。裸のままでけっこうよ。着替えも用意できるわ」
使用人のお仕着せが使用人部屋に残っていたことをサラは思い出した。
「ピーちゃんはどうする?」
サラはふうと溜息をついた。
「泥棒がいたとしても、ピーちゃんがやられるとは思えないわ。気が済んだら勝手に帰ってくるでしょう」
遠くから「うあああ」という悲鳴にも似た男の叫び声が聞こえてきた。
「あら、ピーちゃん、とうとうやってしまったかしら」
公爵は全員に泊まっていけばよいと言った。まもなくざあざあと激しい雨音が聞こえてきた。こんな天気の中、ゲストを帰すべきではない、というていを装っているが、内心は怖いのだろう、とサラは勘繰った。
外を見回りに行ったカーンが戻ってきた。
「屋敷の周囲を一周してきましたが、誰もいませんでした。雨のせいで足跡なども流れてしまったことでしょう。ピーちゃんも行方不明です」
「まあ、これだけの人数がいれば、泥棒だろうが強盗だろうがおそれをなして逃げ出すでしょう。では、お言葉に甘えて、一晩お世話になります」
トールが群れから離れると、レインもあとに続いた。ゲストルームへはカーンがそれぞれを案内した。
「あら、ガイは。ガイはどこへ行ったのかしら」
「さっき外に向かっていったぞ」
そう言った公爵はアシュリーを抱きかかえるようにして自分の部屋に入っていった。かちゃりと鍵の締まる音がした。防犯のためとはわかっていても、なんとなく不快な気分になる自分をサラはゆるせなかった。
「ピーちゃんを回収して、わたくしもさっさと寝ましょう!」
サラは濡れるのもかまわず、裏庭に続く扉を開けた。
そこには全裸の男が仁王立ちしていた。
「…………」
「あ! これは失礼」
男は股間を両手で隠した。
声は聞き覚えのあるガイのものだ。だが顔は──
「そんな顔だったの?」
激しい雨のシャワーで、ぼさぼさの髪と汚れた顔が洗われて露わになっていた。教会の天使が裸足で逃げ出すような美麗な顔立ちである。
「隠すなんてもったいないわ。あ、違うわ、股間ではなくてよ」
「別に隠していたわけでは。つうか、上流婦人のくせにうろたえないんだな」
「誤解ですわ。上流夫人はなにがあってもうろたえないものよ!」
「ピーちゃんならまっすぐに駆けだしていったぜ。なにか見つけたみたいだ。泥棒かもしれない」
「まああ!」
「心配なら俺が見に行ってこようか」
「そのかっこうで? なんで裸なの?」
「風呂の代わりに。ちょうどいい強さの雨だからな」
「それならゲストルームにお湯を持っていってあげるわよ。風邪をひくといけないから中に入って。ずぶ濡れの服なんか、着なくていいわ。裸のままでけっこうよ。着替えも用意できるわ」
使用人のお仕着せが使用人部屋に残っていたことをサラは思い出した。
「ピーちゃんはどうする?」
サラはふうと溜息をついた。
「泥棒がいたとしても、ピーちゃんがやられるとは思えないわ。気が済んだら勝手に帰ってくるでしょう」
遠くから「うあああ」という悲鳴にも似た男の叫び声が聞こえてきた。
「あら、ピーちゃん、とうとうやってしまったかしら」
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