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しばらく無言で吟味していたが、数か所を指さして公爵に耳打ちをすると、公爵は困った様子で首を振った。
「話になりませんな!」
トールは荒々しく日記帳を放った。サラと公爵のちょうど中間に投げ出された日記帳は、ハードカバーにもかかわらず、くたりと寝そべった。
「捏造に決まっています。自分に有利になるように、浪費癖を隠すために、適当なことを書いただけですよ。こんな内容、信じられません!」
トールは激昂していた。
(これはいい徴候ね)
サラは内心でほくそ笑んだ。公爵にとって有利な内容ではないことを示している。
「もちろん、細かい数字まで正確だとは言えません。でもだいたいはそんな感じでしたわ」
「そんな感じ。これは驚いた、そんな感じ、ですか」レインに向き直る。「これはサラ夫人が一晩ででっちあげたものです。参考になさらないでください」
レインがおもむろに日記帳に手を伸ばしてページを繰った。
「そんな感じ、にしては詳しいですよ。金銭の流れがよくわかります」
「それがかえって変ではないですか。大変に疑わしい。そうではありませんか」
「うーん、そう言われればそうなんですが、例えば、5年前の荘園の収入が前年の三分の一以下だったとか。経費削減のために庭師を解雇したとか、使わない馬車と馬を知人の領主に売ったとか、いかにもありえそうではありませんか」
「でまかせなんですよ。騙されないでください」
「5年前は確かに不作の年でしたね。収入が減ったのは頷けます。どうして僕が覚えているかというと、5年前に長男が生まれましてね、一生飢えないようにと願って、収穫の意味を込めてハービーと名付けたんです。あ、これは失礼。僕の家族のことは忘れてください」
レインは恥かしそうに頭を掻いた。
「もちろん、記載されていることが本当なのかはわかりませんが、でたらめとは言い切れないでしょう。ねえ、公爵、5年前は不作でしたものねえ」
レインの問いに、公爵は目を泳がせた。
「あ、……ああ、まあ、不作は不作だったな、うん……」
「こちらの数字に違和感を覚えますか?」
「うーん、わしはそのう、経営には関わってこんかったから……」
「では、この数字が間違っているかどうかは、わからないとおっしゃる?」
「いや、その……わからんが……す、数字を盛っている気がする、ような」
トールの肘鉄をくらい、公爵はしどろもどろになった。トールは空咳をひとつすると、サラに顎を向けて言い放った。
「これだけ苦労してきたと同情を買う作戦ですか。なかなかのやり手ですね。しかし私はサラ夫人の記憶力がそれほどいいとは思えませんね」
トールはふんと鼻息を吐く。
「話になりませんな!」
トールは荒々しく日記帳を放った。サラと公爵のちょうど中間に投げ出された日記帳は、ハードカバーにもかかわらず、くたりと寝そべった。
「捏造に決まっています。自分に有利になるように、浪費癖を隠すために、適当なことを書いただけですよ。こんな内容、信じられません!」
トールは激昂していた。
(これはいい徴候ね)
サラは内心でほくそ笑んだ。公爵にとって有利な内容ではないことを示している。
「もちろん、細かい数字まで正確だとは言えません。でもだいたいはそんな感じでしたわ」
「そんな感じ。これは驚いた、そんな感じ、ですか」レインに向き直る。「これはサラ夫人が一晩ででっちあげたものです。参考になさらないでください」
レインがおもむろに日記帳に手を伸ばしてページを繰った。
「そんな感じ、にしては詳しいですよ。金銭の流れがよくわかります」
「それがかえって変ではないですか。大変に疑わしい。そうではありませんか」
「うーん、そう言われればそうなんですが、例えば、5年前の荘園の収入が前年の三分の一以下だったとか。経費削減のために庭師を解雇したとか、使わない馬車と馬を知人の領主に売ったとか、いかにもありえそうではありませんか」
「でまかせなんですよ。騙されないでください」
「5年前は確かに不作の年でしたね。収入が減ったのは頷けます。どうして僕が覚えているかというと、5年前に長男が生まれましてね、一生飢えないようにと願って、収穫の意味を込めてハービーと名付けたんです。あ、これは失礼。僕の家族のことは忘れてください」
レインは恥かしそうに頭を掻いた。
「もちろん、記載されていることが本当なのかはわかりませんが、でたらめとは言い切れないでしょう。ねえ、公爵、5年前は不作でしたものねえ」
レインの問いに、公爵は目を泳がせた。
「あ、……ああ、まあ、不作は不作だったな、うん……」
「こちらの数字に違和感を覚えますか?」
「うーん、わしはそのう、経営には関わってこんかったから……」
「では、この数字が間違っているかどうかは、わからないとおっしゃる?」
「いや、その……わからんが……す、数字を盛っている気がする、ような」
トールの肘鉄をくらい、公爵はしどろもどろになった。トールは空咳をひとつすると、サラに顎を向けて言い放った。
「これだけ苦労してきたと同情を買う作戦ですか。なかなかのやり手ですね。しかし私はサラ夫人の記憶力がそれほどいいとは思えませんね」
トールはふんと鼻息を吐く。
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