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「詳しいことは別室でお話ししたいと思います。ピーちゃんは部屋の外で待機をお願いします。部屋が広くないものですみません」

 トールは隣室の扉を開けてサラに先に入るように目で合図した。とても紳士的に。

「ありがとう、あら」

 部屋には先客がいた。
 サラの夫、ノース・ポータリー公爵とアシュリーと呼ばれていた愛人の少女だ。

「あの……?」

 二人はテーブルについている。悪びれもせずにサラを見上げていた。

(よくも乗り込んでこれたものだわ。図々しいこと)

「サラ夫人は対面の席にどうぞ。もう一人ご紹介しましょう。こちらは調停委員のレイン氏。双方の話を公平に聞いていただくためにお呼びしました」

「よろしくお願いします」

 レインは40歳前後の中性的な顔立ちの男性だった。彼は直角の位置に腰を下ろした。右を見れば公爵、左を見ればサラが目に入る。まさに公平で平等な立ち位置。テーブルにペンとインクを置き、紙をとんとんと揃えて並べた。几帳面な性格のようだ。

「では、私も席につかせていただきます」

 トールはそう言ってテーブルに歩み寄った。当然、サラの隣に座るのだろうと思っていたら、なぜか反対側に回り、公爵の隣に腰を下ろした。

「……?」

 トールはこほんとひとつ空咳をしてからおもむろに話し出した。

「代理人から一言申し上げます。話し合いで円満離婚になることが最善なのですが、少し揉めそうな気配がありましたので、公平な立場で助言いただけるよう、レイン氏に同席していただきます。ではまずは離婚請求者であるポータリー公爵側から請求事由をお話させていただきます」

 サラはトールの流れるような弁舌を呆然として聞いていた。

(こんなユーモアなら、いらないわよ)

「どういうことかしら。夫の代理人をなさっているのはなぜなの、トール。あなたはわたくしの代理人のはずでしょう」

「……そうなんですか?」

 レインが問いかけると、さもおかしなことを言われたかのようにトールが吹きだした。

「勘違いなさっておいでのようだ。たしかにあなたは昨日、離婚の相談にいらした。ですが弁護は出来ないとはっきり申し上げたでしょう。理解していただけませんでしたか」

「そんな……。契約書にサインまでしましたわ」

「お可哀想に。公爵から離婚を切り出されてショックだったのでしょうね」

 トールは憐憫を込めた目をサラに向けた。隣で溜息をつく公爵。うつむいた愛人のアシュリー。サラの扱いは、まるで精神が破綻した人間のようではないか。
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