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へっぽこ召喚士、神獣を召喚する⑤
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森に穏やかな活気が戻ってくる頃、ミアは我慢しきれなくなった欠伸を零した。
森のその他の異常、及び魔物の残存が居ないかの確認が終わるまで、くれぐれも大人しくしているようにとリヒトに命じられたミアは、切り株に腰を下ろして様子を伺っていた。
魔獣達も相棒の騎士と一緒に仕事をこなしているというのに、自分だけすることがないとなると徹夜明けの疲労がのしかかって来る。
「随分と気が緩んでるな」
眠気覚ましには丁度いい鋭い声に肩を震わし、後ろを振り返れば部下達に指示を出し終わったリヒトが、ミアを見下ろしていた。
「なっ、何かお手伝いすることありますか?」
「これ以上首突っ込まれて、振り回されるのはもう御免だ」
「ここに来たこと……もしかして怒ってたりします?」
明らかに普段よりも一弾と強い怒りの空気に、震える体を抑えるので必死になる。
「ああ。とてつもなくな。今回の報告書は全て、お前に書かせてやってもいい」
「そっ、それは始末書と反省文でどうか許して貰えませんか……?」
低く唸るリヒトは、今にもミアに噛みつきそうな程機嫌が悪い。
ただいつもの機嫌の悪さとは何かが違うと、首を傾げる。
「ミアが居なかったら、俺達はあのバハムートをただ始末することだけに拘っていた。ただ平和的解決をもたらしたのは、紛れもなくミアのお陰だ。礼を言う」
ぶっきらぼうに呟くと、くしゃりと苛立ちを含めて前髪を掻き分けた。
褒められて嬉しいはずなのに、まだリヒトの本当に言いたい事を見抜けないミアは、切り株から立ち上がり彼を見つめた。
「まだ、何か怒ってます……よね?」
「……はあ。守りたいものが自ら危険に首を突っ込んでいく、こっちの気持ちを考えてもいないだろ」
「え?」
「怪我をしてないか、隅から隅まで確認させろ」
「えっ、えっ?!」
突然腕を取られたかと思えば、吸い込まれるアイオライトの瞳を前に身動きは取れなくなった。
「まだミアが入隊したての頃も、自ら突っ込んで行ってコカトリスを自分の力だけで帰したこともあったな」
囁く声は優しく、でも何処か鋭い。
少しでも油断したら一気に喰われる、そう本能が訴えかけてくる。
過去の危なっかしい記憶を持って来られて、怯みそうになるのを何とか耐える。
あの一件が無ければ、不死鳥を呼ぶ為の羽根は手元になかったのだ。先の戦いの一手は、過去の自分があってこそ。
首を突っ込んだことは全力で頭を下げるつもりではいるが、過去の出来事に後悔は微塵もない。
「俺を支えろと確かに言った。ただ、その言葉はこうして現場で身体を張れという意味じゃない」
全てを制されるようなそんな感覚に、ミアは身体に力を入れて、真っ直ぐにリヒトを見つめ直した。
自分がとった今回の行動がリヒトの言葉にそぐわないとしても、この気持ちだけは伝えたかった。
「私、団長の役に立ちたくて……!」
「知っている。ミアがどれだけ俺の為に動いているかなんて、好いている女を目で追っていれば、いとも簡単に分かる」
「……え」
ゆっくりと撫でて確かめる手が髪を、頬を、首を撫でる。感覚を嗜むように、彼の手は何度もミアを撫でた。
「俺はミアが傍に居てくれるだけで、不思議と強くなれるんだ。逆にミアを失えば、俺はきっと弱くなるだろう。俺にとってミアは、無くてはならない存在なんだ。もう無茶はしないと約束しろ」
「だって私なんかへっぽこだし、団長のこと召喚しちゃうし、まだまだ召喚士としての腕も浅いし……!現場の経験積まないと、団長の、皆の足を引っ張っちゃいますからっ」
「それでもだ。現場に出たいというのなら、俺を納得させられるようになったらだ」
「うぅ……」
獲物を捕らえた獣は、もう逃がさないとでもいうようにミアの腰を強く抱き寄せた。
「なんなら、俺に命じればいい。ミアを守る盾と剣になれと」
「それだと、私はただのお荷物になるじゃないですかっ!それに団長、この主従関係嫌いでしょう?」
「好きな女となら悪くない」
「っ……!」
傲慢な獣は、ミアの反応を楽しむように小さく笑う。
「懸命に努力する姿も、魔獣と戯れる姿も、俺を前にすると赤くなるのも……全部好きだ、ミア」
囁く声に身体が痺れて言うことが聞かなくなる感覚に、何とか抗おうとリヒトを潤む瞳で見つめた。
逃げ場を失ったミアは、黙って食われるものかと頬を赤らめながらか細く呟く。
「私も……団長が好きです。これから先も、団長の傍に居させてください」
精一杯の告白に脳が酸欠になりかけそうな時、ふと影が落ちた。
「愛してる」
短く触れた唇の感触の後、囁かれた言葉に目眩がする。
リヒトの触れる全てが熱を帯びて、熱い。
嬉しいという感情に浸りたいミアに、まだ足りないと獣は唇を求めた。
待てを言わせぬ早さで、リヒトはミアの唇を食らった。呼気を乱され、長く長く奪われた唇が解放されたのは、ユネスがニヤニヤしながらわざとらしくリヒトの名前を呼ぶまで続いたのだった。
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