上 下
59 / 63

へっぽこ召喚士、神獣を召喚する②

しおりを挟む



 だが、ミアはその声に揺らぐことなく魔力を注ぎ続けた。

 過去の自分を否定するわけでもない。

 自分には召喚術が出来ないと思う時もあった。それでもここで出会った、支えてくれる大切な仲間が、家族がいた。

 いつか自分を支えてくれる人を、支えたい。その気持ちに、何ら偽りはない。



「私はミア・スカーレット!召喚士よ!!」



 幼き頃に憧れた召喚士という存在に、ただひたすらに努力してその夢を掴んだ。

 それを否定するものは何も無い。

 自分の不甲斐なさに落ち込むこともあるけれど、皆が居たから胸を張っていれる。だから、迷うことなんか何もない!!

 強く目を開けて、ペリドットの瞳で揺れる影を見つめた。



「バハムート!貴方の幻術にはもう惑わされない!」


『グォオオオオオン!』



 断ち切るようにそう叫んで、見えた一筋の光に想いを込める。



(皆の幸せを、守りたいのっ……!!)



 片手を天高く掲げ、指先に全ての魔力を注ぎ込む。描く魔法陣は光を強めていく。

 目の前で静かに息を潜めていた岩が、共鳴するように輝き始めた。



「――そなたを待っていたよ」




 直接聞こえてくるその声を手繰り寄せるように、更に魔力を魔法陣に注ぎ込む。

 そんなミアを取り込むように、光がミアを見えない何かで吸い込んだ。

 一瞬、身体の中で何かが弾ける感覚がしたが、それが何かを考えることなく、目の前にいる大きなドラゴン――浄化の白竜カタルシスドラゴンに釘付けになってしまう。

 柔らかい毛並みは白銀に輝き、背中に生えた大きな翼からは光が溢れている。

 どこまでも続く真っ白な空間の中に、ミアと白竜は宙を漂っていた。

 何もないはずなのに、川のせせらぎや鳥のさえずり、虫の声に風の音……雄大な自然がそこにあるような感覚に包まれる。



「ようやく会えたね。ミア」



 泳ぐように近づいてくる白竜の翼の柔らかさに、触ってもいないのに顔を緩ませていると、小さく笑われる。



「ふふふ……君はやはりロベルツにどこか似ているね」


「えっ?!賢者様に、ですか?」


「”全ての魔獣”を愛し、寄り添う――それが彼だった。そんな彼と同じ目をしている」



 まさか自分が賢者と似ているなんてことを言われる日が、想像出来ただろうか。第一、この世に賢者を知る者はもう何処にもいない。

 ただ一人ここに残された白竜だというのに、寂しさを感じられない。

 ミアの思うことを察したのか、ゆっくりと頷いた。



「私は彼からたくさんの愛を貰ったからね。そんな彼が愛した世界を、私も”彼”も守りたいと強く思うよ」


「力を、貸してくれる……?」


「その為にミアをここに呼んだんだ。どうか、私を縛り付ける鎖を解いてくれ」


「鎖……?」



 詳しく聞こうと思ったが、空間が大きく揺れる。

 亀裂が何処からともなく入り、逃げ惑う生きとし生けるものの悲鳴が響き渡った。




「契約を結ぶよ、ミア。鎖を解き放ったその時、全てを教えよう」



 パラパラと崩れていく空間から逃すように白竜は、光の渦へとミアを押し出した。

 身体の力が抜ける……そう思った途端、足の裏に地面を感じた。我に返り、周囲を見渡せばバハムートが岩を壊そうと攻撃を繰り出していた。

 それを防ぐように騎士と魔獣達が、懸命に戦っている。

 バハムートは影を更に取り込み、先程見た時よりも体を大きくさせ、力を取り込んでいた。


「鎖……鎖……!」


 言われた言葉を頼りに、鎖らしきものを探すが苔むした岩にはそれらしき物は見当たらない。

 バハムートがすぐそこにいる以上、迂闊な行動を取ったら怪我所ではない。

 どうしたものかと慌てふためいていると、ぐいっと腰を抱き上げられ、再び足が地面から浮いた。



「わっ……!!」



 とんっと体を支えられる温もりに目を向ければ、フェンリルの背に乗ったリヒトがミアを抱き上げていた。



「どうやら、互いに苦戦しているようだな。始末書の件はとりあえずなしにして、協力するぞ」


「団長っ、あの岩に近づいて貰えませんか!」


「何かあるのか」



 神獣である白竜の存在があの岩の中にいること、そしてその力を解き放つ鎖があることを手短に話す。

 フェンリルは何か心当たりがあるのか、チラリとミアに視線を送る。



『岩の中で一番、神獣の力を感じる場所を言え』


「力を感じる場所……」



 独りごちりながら、真剣な眼差しで岩を見つめる。

 させるものかと妨害するように、バハムートがこちらに照準を合わせてきた。怒り狂うバハムートの攻撃は、先程に比べて遥かに威力が増している。

 迂闊に近づいたら、攻撃を喰らいかねない。上手く攻撃を交わすが、中々岩の元へとは近づけない。



「っち……本当に厄介なやつだ。切り刻んだ暁に流れる真っ赤な血を、早く拝みたい所だな」



 物騒な一言だったが、ミアの中でピンと来るものがあった。



「……!フェンリル!あの岩に埋まっている、赤い魔石目掛けて飛んで!」


『何をするつもりだ?!』


「いいから!早く!!」



 普段では有り得ないミアの迫力に負け、フェンリルはバハムートの攻撃を避けた反動を利用し、大地を大きく蹴った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。 それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。 主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。 幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。 ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。 「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」 こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...