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へっぽこ召喚士、神獣を召喚する②
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だが、ミアはその声に揺らぐことなく魔力を注ぎ続けた。
過去の自分を否定するわけでもない。
自分には召喚術が出来ないと思う時もあった。それでもここで出会った、支えてくれる大切な仲間が、家族がいた。
いつか自分を支えてくれる人を、支えたい。その気持ちに、何ら偽りはない。
「私はミア・スカーレット!召喚士よ!!」
幼き頃に憧れた召喚士という存在に、ただひたすらに努力してその夢を掴んだ。
それを否定するものは何も無い。
自分の不甲斐なさに落ち込むこともあるけれど、皆が居たから胸を張っていれる。だから、迷うことなんか何もない!!
強く目を開けて、ペリドットの瞳で揺れる影を見つめた。
「バハムート!貴方の幻術にはもう惑わされない!」
『グォオオオオオン!』
断ち切るようにそう叫んで、見えた一筋の光に想いを込める。
(皆の幸せを、守りたいのっ……!!)
片手を天高く掲げ、指先に全ての魔力を注ぎ込む。描く魔法陣は光を強めていく。
目の前で静かに息を潜めていた岩が、共鳴するように輝き始めた。
「――そなたを待っていたよ」
直接聞こえてくるその声を手繰り寄せるように、更に魔力を魔法陣に注ぎ込む。
そんなミアを取り込むように、光がミアを見えない何かで吸い込んだ。
一瞬、身体の中で何かが弾ける感覚がしたが、それが何かを考えることなく、目の前にいる大きなドラゴン――浄化の白竜に釘付けになってしまう。
柔らかい毛並みは白銀に輝き、背中に生えた大きな翼からは光が溢れている。
どこまでも続く真っ白な空間の中に、ミアと白竜は宙を漂っていた。
何もないはずなのに、川のせせらぎや鳥のさえずり、虫の声に風の音……雄大な自然がそこにあるような感覚に包まれる。
「ようやく会えたね。ミア」
泳ぐように近づいてくる白竜の翼の柔らかさに、触ってもいないのに顔を緩ませていると、小さく笑われる。
「ふふふ……君はやはりロベルツにどこか似ているね」
「えっ?!賢者様に、ですか?」
「”全ての魔獣”を愛し、寄り添う――それが彼だった。そんな彼と同じ目をしている」
まさか自分が賢者と似ているなんてことを言われる日が、想像出来ただろうか。第一、この世に賢者を知る者はもう何処にもいない。
ただ一人ここに残された白竜だというのに、寂しさを感じられない。
ミアの思うことを察したのか、ゆっくりと頷いた。
「私は彼からたくさんの愛を貰ったからね。そんな彼が愛した世界を、私も”彼”も守りたいと強く思うよ」
「力を、貸してくれる……?」
「その為にミアをここに呼んだんだ。どうか、私を縛り付ける鎖を解いてくれ」
「鎖……?」
詳しく聞こうと思ったが、空間が大きく揺れる。
亀裂が何処からともなく入り、逃げ惑う生きとし生けるものの悲鳴が響き渡った。
「契約を結ぶよ、ミア。鎖を解き放ったその時、全てを教えよう」
パラパラと崩れていく空間から逃すように白竜は、光の渦へとミアを押し出した。
身体の力が抜ける……そう思った途端、足の裏に地面を感じた。我に返り、周囲を見渡せばバハムートが岩を壊そうと攻撃を繰り出していた。
それを防ぐように騎士と魔獣達が、懸命に戦っている。
バハムートは影を更に取り込み、先程見た時よりも体を大きくさせ、力を取り込んでいた。
「鎖……鎖……!」
言われた言葉を頼りに、鎖らしきものを探すが苔むした岩にはそれらしき物は見当たらない。
バハムートがすぐそこにいる以上、迂闊な行動を取ったら怪我所ではない。
どうしたものかと慌てふためいていると、ぐいっと腰を抱き上げられ、再び足が地面から浮いた。
「わっ……!!」
とんっと体を支えられる温もりに目を向ければ、フェンリルの背に乗ったリヒトがミアを抱き上げていた。
「どうやら、互いに苦戦しているようだな。始末書の件はとりあえずなしにして、協力するぞ」
「団長っ、あの岩に近づいて貰えませんか!」
「何かあるのか」
神獣である白竜の存在があの岩の中にいること、そしてその力を解き放つ鎖があることを手短に話す。
フェンリルは何か心当たりがあるのか、チラリとミアに視線を送る。
『岩の中で一番、神獣の力を感じる場所を言え』
「力を感じる場所……」
独りごちりながら、真剣な眼差しで岩を見つめる。
させるものかと妨害するように、バハムートがこちらに照準を合わせてきた。怒り狂うバハムートの攻撃は、先程に比べて遥かに威力が増している。
迂闊に近づいたら、攻撃を喰らいかねない。上手く攻撃を交わすが、中々岩の元へとは近づけない。
「っち……本当に厄介なやつだ。切り刻んだ暁に流れる真っ赤な血を、早く拝みたい所だな」
物騒な一言だったが、ミアの中でピンと来るものがあった。
「……!フェンリル!あの岩に埋まっている、赤い魔石目掛けて飛んで!」
『何をするつもりだ?!』
「いいから!早く!!」
普段では有り得ないミアの迫力に負け、フェンリルはバハムートの攻撃を避けた反動を利用し、大地を大きく蹴った。
だが、ミアはその声に揺らぐことなく魔力を注ぎ続けた。
過去の自分を否定するわけでもない。
自分には召喚術が出来ないと思う時もあった。それでもここで出会った、支えてくれる大切な仲間が、家族がいた。
いつか自分を支えてくれる人を、支えたい。その気持ちに、何ら偽りはない。
「私はミア・スカーレット!召喚士よ!!」
幼き頃に憧れた召喚士という存在に、ただひたすらに努力してその夢を掴んだ。
それを否定するものは何も無い。
自分の不甲斐なさに落ち込むこともあるけれど、皆が居たから胸を張っていれる。だから、迷うことなんか何もない!!
強く目を開けて、ペリドットの瞳で揺れる影を見つめた。
「バハムート!貴方の幻術にはもう惑わされない!」
『グォオオオオオン!』
断ち切るようにそう叫んで、見えた一筋の光に想いを込める。
(皆の幸せを、守りたいのっ……!!)
片手を天高く掲げ、指先に全ての魔力を注ぎ込む。描く魔法陣は光を強めていく。
目の前で静かに息を潜めていた岩が、共鳴するように輝き始めた。
「――そなたを待っていたよ」
直接聞こえてくるその声を手繰り寄せるように、更に魔力を魔法陣に注ぎ込む。
そんなミアを取り込むように、光がミアを見えない何かで吸い込んだ。
一瞬、身体の中で何かが弾ける感覚がしたが、それが何かを考えることなく、目の前にいる大きなドラゴン――浄化の白竜に釘付けになってしまう。
柔らかい毛並みは白銀に輝き、背中に生えた大きな翼からは光が溢れている。
どこまでも続く真っ白な空間の中に、ミアと白竜は宙を漂っていた。
何もないはずなのに、川のせせらぎや鳥のさえずり、虫の声に風の音……雄大な自然がそこにあるような感覚に包まれる。
「ようやく会えたね。ミア」
泳ぐように近づいてくる白竜の翼の柔らかさに、触ってもいないのに顔を緩ませていると、小さく笑われる。
「ふふふ……君はやはりロベルツにどこか似ているね」
「えっ?!賢者様に、ですか?」
「”全ての魔獣”を愛し、寄り添う――それが彼だった。そんな彼と同じ目をしている」
まさか自分が賢者と似ているなんてことを言われる日が、想像出来ただろうか。第一、この世に賢者を知る者はもう何処にもいない。
ただ一人ここに残された白竜だというのに、寂しさを感じられない。
ミアの思うことを察したのか、ゆっくりと頷いた。
「私は彼からたくさんの愛を貰ったからね。そんな彼が愛した世界を、私も”彼”も守りたいと強く思うよ」
「力を、貸してくれる……?」
「その為にミアをここに呼んだんだ。どうか、私を縛り付ける鎖を解いてくれ」
「鎖……?」
詳しく聞こうと思ったが、空間が大きく揺れる。
亀裂が何処からともなく入り、逃げ惑う生きとし生けるものの悲鳴が響き渡った。
「契約を結ぶよ、ミア。鎖を解き放ったその時、全てを教えよう」
パラパラと崩れていく空間から逃すように白竜は、光の渦へとミアを押し出した。
身体の力が抜ける……そう思った途端、足の裏に地面を感じた。我に返り、周囲を見渡せばバハムートが岩を壊そうと攻撃を繰り出していた。
それを防ぐように騎士と魔獣達が、懸命に戦っている。
バハムートは影を更に取り込み、先程見た時よりも体を大きくさせ、力を取り込んでいた。
「鎖……鎖……!」
言われた言葉を頼りに、鎖らしきものを探すが苔むした岩にはそれらしき物は見当たらない。
バハムートがすぐそこにいる以上、迂闊な行動を取ったら怪我所ではない。
どうしたものかと慌てふためいていると、ぐいっと腰を抱き上げられ、再び足が地面から浮いた。
「わっ……!!」
とんっと体を支えられる温もりに目を向ければ、フェンリルの背に乗ったリヒトがミアを抱き上げていた。
「どうやら、互いに苦戦しているようだな。始末書の件はとりあえずなしにして、協力するぞ」
「団長っ、あの岩に近づいて貰えませんか!」
「何かあるのか」
神獣である白竜の存在があの岩の中にいること、そしてその力を解き放つ鎖があることを手短に話す。
フェンリルは何か心当たりがあるのか、チラリとミアに視線を送る。
『岩の中で一番、神獣の力を感じる場所を言え』
「力を感じる場所……」
独りごちりながら、真剣な眼差しで岩を見つめる。
させるものかと妨害するように、バハムートがこちらに照準を合わせてきた。怒り狂うバハムートの攻撃は、先程に比べて遥かに威力が増している。
迂闊に近づいたら、攻撃を喰らいかねない。上手く攻撃を交わすが、中々岩の元へとは近づけない。
「っち……本当に厄介なやつだ。切り刻んだ暁に流れる真っ赤な血を、早く拝みたい所だな」
物騒な一言だったが、ミアの中でピンと来るものがあった。
「……!フェンリル!あの岩に埋まっている、赤い魔石目掛けて飛んで!」
『何をするつもりだ?!』
「いいから!早く!!」
普段では有り得ないミアの迫力に負け、フェンリルはバハムートの攻撃を避けた反動を利用し、大地を大きく蹴った。
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