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へっぽこ召喚士、神獣を召喚する①
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見事な二人の連携に気を取られそうになりつつ、バハムートの背後へと上手く回ったミアは神獣の力が宿る岩の裏へと辿り着く。
苔むした岩肌に触れて、呼吸を整える。
巻き起こる風に目を細めながらも、ミアは普段通りに魔法陣を描く。
(お願い……どうか私の声に応えて)
全身を駆け巡る魔力に願いを込めて、細く長く呼吸を続ける。
描き終わった魔法陣が眩い光を放つ。今まで描いてきた魔法陣とは比べ物にならない程に、そこに宿る魔力は大きい。
内なる力が湧き出てくる感覚に召喚術を発動させるが、耳が痛くなるようなバハムートの咆哮に若干術が歪む。
「くっ……!」
痛みに耐えながら、それでも集中力を欠けぬよう、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。
歪みは修正されるものの、させるものかとバハムートは大地を揺らす。
「ミアッ!!」
リヒトに呼ばれ、ハッと目を開ければ、ゴゴゴ……と低い地響きと共に轟音が真上から迫っていた。
見上げる先には、崖の上から転がり落ちてくる岩が勢いを止めることなく向かってくる。
自分よりも遥かに大きな岩に押しつぶされて、ぺしゃんこという可愛らしいもので済まされる訳がない。
皆のように訓練を積み重ねてきている訳では無いミアには、足は咄嗟に動かない。動こうとした時には、もう間に合う距離ではない。
今更ながら、召喚術以外にも騎士達と同じように訓練をしておけば良かったと後悔が滲む。
(っ……!まだ私は皆の役に立ててないのに!!)
召喚術を発動させて魔獣を呼ぶにも、時間がない。間に合わないと分かっていても、逃げるの一択しかできないミアは、身を翻そうと動き出す。
本日二度目の影が落ちてきて辺りが暗くなるのに、衝撃と痛みを覚悟した。
「怪我はない?」
パラパラと細かい砂埃が落ちてきて、人懐っこい声に振り返ると召喚したペガサスに跨る白馬の王子――ではなく、ユネスがいた。
土埃に軽く咳き込んで、目を丸くすると良かったとユネスは小さく微笑んだ。
爽やかな顔でサラリと無事を確かめた彼は、大岩を粉々にした上に、その破片すらも風魔法で宙で纏めている。
「ユ、ユネスさん?!」
「リヒトが突っ走って行くから何事かと思ったけど、ミアちゃんがいるなら無理もないか」
「ユネスさん!団長の援護を!」
「勿論、そのつもりだよ。加勢は僕だけじゃないからさ――」
風を切る音と共に、頼もしい鳴き声を響かせるその姿が見えた。
「ミーアー!!」
「シュエルくんっ!皆……!」
飛行部隊が隊列を組みながら崖に沿うように降下してきて、戦うリヒト達の加勢をするべく弓を構えた。
サンダーバードが雷を落とし、バハムートの注意をこちらに向けさせる。
グリフォンが一つ鳴くと、それを合図に一斉に矢を放った。
『グァアアアアアアッ!!』
見事バハムートに突き刺さり、怯んだ一瞬を見逃さないリヒト達は、剣を、牙を光らせる。切り込んでくる彼らに、為す術なくバハムートは攻撃を受けて喚くしかない。
加勢されたことにより、戦いやすくなった彼らはより一層動きを速めた。
次々と加勢として加わる第四部隊の騎士と魔獣達が、やって来ては己の命をかけてリヒトを援護する。
「お前ら!他の魔物が残っていたら承知しないぞ!!」
「そんなの、他の部隊が何とかしてくれますよ!」
「そうそう!俺達は団長の剣であり、盾なんですから!」
普段ならリヒトの怒りに怯むはずの騎士達は、これが第四部隊の戦い方だと有無を言わせない動きで、次々と攻撃を繰り出していく。
僅かに傷を負っていていても、それを感じさせない動きは圧巻だった。
魔獣達もミアにこっちは任せろと、得意げな表情で戦っている。向こうもミアの無事な姿を見て、安心して心置き無く戦えているようだ。
「みんな……!」
相棒と息を合わせて戦う姿は、神獣に劣らない強さを持っている。
だが、どれだけバハムートに傷を負わせたとしても、全てを封じることは出来ない。神獣の力なく、それは出来ないのだ。
(私がやらなきゃ……!!)
気を取り直して召喚術に集中すると、力が漲ってくるようだった。
もうこの場には頼れる仲間が、リヒトを支えている。その一人に、ミアはなりたい気持ちを強く持つ。
例え、学校で習わなかった過酷な状況での召喚術発動だとしても、これまで積み重ねてきた経験がミアを大きくさせた。
失敗に失敗を重ねて掴んだ感覚は、確かなものになったのだから。
描く魔法陣はこれまで以上に大きく、完璧に。ありったけの魔力を注ぎ込み、瞳を閉じた。
ここまで私を導いてくれた――貴方とどうか手を取り合いたいの。
声の主を強く思い浮かべて、願いを想いを術に込める。
「お願い、応えて……!!」
魔法陣から吹き荒れる風に、髪を乱暴に靡かせられる。
――お前には神獣の召喚など無理だ。
――どうせ落ちこぼれのくせに、調子に乗るな。
召喚術そのものがミアに対して、否定するように術を歪ませていく。吹き荒れる風は、針のように痛みつけてくる。
自分に自信を失い、肩を落とす己の姿が脳裏に浮かんだ。
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