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へっぽこ召喚士、気持ちの答えを知る①

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 時折見かけるリヒトとエルザの二人の姿を見ても、何も揺らぐことがなくなったミアは、額に汗を滲ませながら集中力を途切らせることなく、己の召喚術に向き合っていた。

 残された時間を無駄にはしたくないと、ただひたすらに術を発動させ、召喚した魔獣はペガサスを含め三匹目に達していた。

 召喚成功の第二匹目は雷を身に纏う雷犬ライラプスを、三匹目は大人になれば戦力となるであろう大熊グリズリーの子供を召喚した。

 訓練中の魔獣から感じる魔力の流れを、完璧に感覚として掴めたのだ。

 だから言って召喚する際の共鳴が上手くいくとは限らない。突っぱねられる事の方が多いミアだったが、それでもめげずに練習を続けた。

 エルザに言われた、魔獣に向き合っていないという言葉を拭い去る勢いで、召喚した魔獣達に誠心誠意向き合って魔力の共鳴を求める。



「よしっ!これで四匹目……!」



 光輝く魔法陣の上に立つヒポグリフに笑顔を向けると、応えるように頭を垂らす。

 鷲の全半身に、馬の後半身を持つヒポグリフは、グリフォンと同様空を飛ぶことができる魔獣。これで弓部隊の援護をする魔獣が増えたと、一つ頷いてみせる。



「応えてくれてありがとう。これからどうぞよろしくね」



 相変わらず魔獣に好かれやすい性格のミアは、召喚したばかりの魔獣ですら意図も簡単に懐く。

 歩み寄ってくる魔獣達を撫でながら微笑むと、彼らも嬉しそうに鳴いた。

 掴んだ感覚を忘れないようにしようともう一度術を使おうとするが、太陽が真上に昇っていることに気づく。慌てて、召喚した魔獣達を連れながら訓練場から出て獣舎へと戻った。

 空いている檻に新鮮な藁を敷き、新しい家を紹介すれば、ご満悦な様子で檻の中に入ってくれたことに一先ず胸を撫で下ろす。



「世話の準備をしてくるから、ここでゆっくり休んでいて」



 水を入れた皿を檻の中に入れ、手早く世話役としての仕事に取り掛かる。

 召喚の特訓をするのと同時に、他の魔獣達の世話の準備を整えないことは世話係として失格だと、手際良く仕事を進める。

 自分のやるべきことは何なのか、それがハッキリとした今はミアの動きに無駄は何一つとしてない。



『無理しすぎるな』


「心配してくれるの?」


『あんたが倒れたら、その世話がオレに回ってきて怖いからな』



 吐き捨てるように自分の檻の中に戻っていくフェンリルにくすりと笑いつつ、今朝洗った洗濯物を取り込み綺麗に畳む。それが終わってようやく、足がふらついている事に気づく。

 フェンリルが声を掛けるのも納得がいく。気合いを入れすぎたと、彼の檻の前に座り込むと心地よい風がミアの髪を撫でる。



「ふぅ……」



 集中力を使いすぎたミアには、気持ちのいい風は眠気を誘う。仕事はまだ残っている、寝てはいけないと頭では分かっているというのに、身体は言うことを聞こうとはしない。

 重たい瞼はあっという間に閉じていき、規則正しい寝息を立ててミアはそのまま眠りの海に沈んでいく。

 カクンと傾き始めたミアに、フェンリルは鼻を鳴らしながら自分の檻の外で眠る彼女の隣でゆっくりと伏せた。自分では支えきれなくなった体を、フェンリルの首元に預けると、幸せに包まれたのか眠ったまま微笑んだ。


『手のかかる奴だ』


 そう言うフェンリルは満更でもない顔をミアに向けて、微かに尻尾を左右に振る。

 母親に抱き締められるような安心感と、心地よい体温がミアを包み込み、眠りの海に深く沈んだ彼女はもう少しその優しさに触れていたくて、更に深く潜り込む。




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