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へっぽこ召喚士、美人副団長と出会う②

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(団長の……恋人?)


 頭が追いつかない事実に、胸がどんどんと苦しくなるが、訓練場を前にその気持ちを無理やり拭い去った。

 入る前に深呼吸していると、隣にやって来たフェンリルが尻尾で背中を叩いてくる。



『いいか。くれぐれも調子には乗るなよ。まだ一度の召喚しか成功してないってことを肝に銘じておけ』


「……」


『ミア』


「っえ!あ、うん!」


『何をぼけーっとしている。今日ここに来た目的は、魔獣本来の力を感じ取ることだ。召喚術を成功させる為にも、魔獣達の動きをよく観察して、魔獣の力の流れを読め。掴んだら術を発動させてみろ』


「分かったわ」



 気持ちを切り替えながら大きく頷くと、騎士達に続くように訓練場の中へと入る。

 拭い去ったと思っていた感情だったが、リヒトともう一人のその姿を見つけた途端に痛い気持ちが滲み出てくる。

 長いストロベリーブロンドの髪を高い所で一つに結い上げ、つり目がちの凛々しさを感じさせる女性が親密そうに何かを語らっている。身に纏う騎士団の制服は彼女の身の丈に合っていて、制服に着せられているミアとは大違いだった。

 透き通るような白い肌に潤んだ唇、スラリとした背丈……どこを取っても美しさを兼ね備えた女性に、騎士達が絶賛するのも無理もない。



(あれが、副団長……すごく綺麗な人)



 回れ右して獣舎に帰りたくなる気持ちを抑えて、頑張ろうと意気込む魔獣達にエールを送る。集まった騎士達に、リヒトと美人副団長は訓練を開始するのを、ミアは遠くから眺めることしか出来なかった。

 気分を変える為に、魔獣達の魔力の流れをどうにかして掴み取ろうと、手を握りしめては昨日の感覚を思い出させる。



「集中よ……集中……」



 独りごちりながら、掴みかけた感覚を研ぎ澄ます。するとどことなく、今までに感じたことのない気配が魔力の渦だと悟り、フェンリルに言われた通りに召喚術を思い描いてみる。

 先程までのあの熱量はどこへ行ったのだろうと考えながら、召喚術の魔法陣を足元に描くが、それすらも歪んでしまう。まるで蠢く自分の心を映し出すように揺れ動く。



『ミア、もっと集中しろ』


「ごっ、ごめん」


『さっきからどうした。ずっと上の空だぞ』



 フェンリルの言う通り、今までの自分とは何かが違うのを分かっているはずだというのに、渦巻く何かを取り除けず気持ちが晴れない。

 ただ目の前で頑張る魔獣達の姿を見て、無理やり気持ちをねじ伏せ、これ以上何も見ないと目を閉じた。そして完全とは言い難い魔法陣で召喚術を発動しようと息を整えていると、フェンリルが吠える。




『この馬鹿っ……!』




 ねっとりとした絡み合ってくる魔力が一気に這い上がって来たかと想えば、喉が締め付けられていく痛みに目を勢い良く開けた。

 大きな頭をフェンリルが取り押さえているものの、してたまるかと抵抗する何かがいた。締め付ける魔力を振り払い、その何かを睨みつける。


「っ……!」


 牙には猛毒を持ち、自分よりも遥かに大きな敵を丸呑みにする獰猛な巨大な蛇――暴食の大蛇グラトニーサーペント

 それがミアが召喚術を発動させる前に、無理やり扉をこじ開けるようにして現れたのだ。



「フェンリル!そのまま押さえつけておいて!」


『言われなくともやってる!どうするんだよっ、これ!!』



 珍しく取り乱すフェンリルに謝りながら、魔法陣の文字を書き換える。契約も交わさずに、力任せに地上に顔を出そうとするグラトニーサーペントを、どうにかして術を解いて引き戻そうとするが、抵抗する魔力が異様に強い。


(どうしようっ……!このままじゃ、皆が危険な目に遭っちゃう!何か、何か方法は……)



 異例の事態に頭が徐々に真っ白になっていく中、魔法陣を打ち消す解除の魔法が組み込まれた弓矢が地面に刺さる。



「貴方……ここで何やっているの」



 芯のある真っ直ぐな声と共に近づいてくる足音。振り返れば訓練に参加していた副団長がこちらにやって来た。






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