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へっぽこ召喚士の特訓②
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だが案の定、ミアの召喚術は魔法陣からは次々と煙が上がり、度々彼女の悲鳴も上がる。普通の動物ならまだ良しと出来たが、失敗して召喚したもの達には手で顔を思わず覆ってしまう。
「うう……また不発……」
元々綺麗にされていたはずの獣舎は、ミアのお陰で煤で真っ黒になり、人面魚やマンドラゴラ、大きな唇を持った摩訶不思議な果物などで溢れかえる。
魔獣達の訓練が終わる前に急いで片付け、よく分からないもの達はとりあえず冒険者ギルドに売り払った。
人に害のあるものは召喚せずに済んだとほっとしつつも、意気込んだ気持ちが徐々に弱気な気持ちへと変わっていく。
「私が皆の足を引っ張っちゃってる。これだとお荷物は私だ……」
藁が積まれた小屋の中でボヤきながら、顔から倒れ込むように藁の中へと飛び込んだ。粗方の掃除が終わった頃には、空はもう夕焼け色に染まっていた。
傾いていく日を細めで見つめながら、無意識に零した溜め息に気づく。
やると決めたことを途中で投げたりは絶対にしないが、お荷物になって皆の迷惑になることが怖い気持ちは拭えなかった。
(あの子達だって同じ想いをしていても前に進んだんだから、私だってやってみせる。あの子達の世話係……ううん、親として)
戦うことをせずに怯えた様子で檻の中にいた魔獣達の姿は、もう何処にもない。共に過ごしてきた自分の子供のような魔獣達が大きく成長したのなら、ミアがやるべき事はただ一つ。
「信じなきゃ。皆を――そして自分を」
自分が出来損ないだと話しても、ユネスは自分が成長しないわけないと言ってくれた。ユネスだけではない。他の騎士達も同じ思いでいてくれた。
端から自分を信じずに諦めるというのは、彼らの思いを信じないというのと同じこと。それに気がついたミアは勢い良く起き上がると、魔獣達の夕飯の支度を手際良く行った。
訓練から戻ってきた魔獣達は、ブラッシングを求めてやってくる。
甘やかしながら、言葉は通じなくとも今日の出来事を話し、彼らをとことん褒めてスキンシップを図る。
「今日も本当によく頑張ったね!と~っても偉い!」
「ふぎゅっ」
「みゅー!」
褒めれば嬉しそうに喉を鳴らす魔獣達との、その時間が最高に幸せで、頑張る糧になるのをミアは一番良く分かっている。彼らから貰う温かい気持ちが、明日の自分に繋がるはずだと目一杯に愛情を注いだ。
だが実際問題、頑張る糧があったとてすぐに成功は実らない。
「ゲホッゲホッ……!」
目に染みる煙に咳き込みながら、流れていく煙に眉間にしわを寄せた。
新しい朝がやって来て、気合十分なミアに襲いかかってくる忌々しい煙は何度見ても嫌気がさす。幸い、昨日の失敗から得た教訓として外で訓練をしていたお陰で、多くの煙を吸わずに済んだ。
新鮮な空気を肺に送り込めたところで咳が落ち着き、大きな溜め息を零した。
「せめて煙だけでも、綺麗で可愛いものが召喚できたら嬉しいんだけどなあ」
『煙のみを召喚するバカが何処にいる』
独りごちるミアに鋭い指摘が入る。声のする方を振り返れば、綺麗な真っ白な毛並みを靡かせながら、落ち着いた足取りでやって来るフェンリルは明らかに機嫌が悪そうだ。
「フェンリル、おはよう。起こしちゃった?」
『誰かさんの煙のせいでな』
「えっと、それは……ごめん」
苦笑いを浮かべることしか出来ないミアは、失敗した魔法陣を隠すようにその場に座り込んだ。
『まったく……力み過ぎだ。何をどうしたらそうなる?』
「それが分かってたら苦労しないんだけど……」
そうボヤくと呆れ顔を浮かべたフェンリルに、俯くしかない。憧れていた召喚士になったというのに、思い描いていた理想と現実がかけ離れていて、今すぐにでも自己否定に走りそうになる。
だが案の定、ミアの召喚術は魔法陣からは次々と煙が上がり、度々彼女の悲鳴も上がる。普通の動物ならまだ良しと出来たが、失敗して召喚したもの達には手で顔を思わず覆ってしまう。
「うう……また不発……」
元々綺麗にされていたはずの獣舎は、ミアのお陰で煤で真っ黒になり、人面魚やマンドラゴラ、大きな唇を持った摩訶不思議な果物などで溢れかえる。
魔獣達の訓練が終わる前に急いで片付け、よく分からないもの達はとりあえず冒険者ギルドに売り払った。
人に害のあるものは召喚せずに済んだとほっとしつつも、意気込んだ気持ちが徐々に弱気な気持ちへと変わっていく。
「私が皆の足を引っ張っちゃってる。これだとお荷物は私だ……」
藁が積まれた小屋の中でボヤきながら、顔から倒れ込むように藁の中へと飛び込んだ。粗方の掃除が終わった頃には、空はもう夕焼け色に染まっていた。
傾いていく日を細めで見つめながら、無意識に零した溜め息に気づく。
やると決めたことを途中で投げたりは絶対にしないが、お荷物になって皆の迷惑になることが怖い気持ちは拭えなかった。
(あの子達だって同じ想いをしていても前に進んだんだから、私だってやってみせる。あの子達の世話係……ううん、親として)
戦うことをせずに怯えた様子で檻の中にいた魔獣達の姿は、もう何処にもない。共に過ごしてきた自分の子供のような魔獣達が大きく成長したのなら、ミアがやるべき事はただ一つ。
「信じなきゃ。皆を――そして自分を」
自分が出来損ないだと話しても、ユネスは自分が成長しないわけないと言ってくれた。ユネスだけではない。他の騎士達も同じ思いでいてくれた。
端から自分を信じずに諦めるというのは、彼らの思いを信じないというのと同じこと。それに気がついたミアは勢い良く起き上がると、魔獣達の夕飯の支度を手際良く行った。
訓練から戻ってきた魔獣達は、ブラッシングを求めてやってくる。
甘やかしながら、言葉は通じなくとも今日の出来事を話し、彼らをとことん褒めてスキンシップを図る。
「今日も本当によく頑張ったね!と~っても偉い!」
「ふぎゅっ」
「みゅー!」
褒めれば嬉しそうに喉を鳴らす魔獣達との、その時間が最高に幸せで、頑張る糧になるのをミアは一番良く分かっている。彼らから貰う温かい気持ちが、明日の自分に繋がるはずだと目一杯に愛情を注いだ。
だが実際問題、頑張る糧があったとてすぐに成功は実らない。
「ゲホッゲホッ……!」
目に染みる煙に咳き込みながら、流れていく煙に眉間にしわを寄せた。
新しい朝がやって来て、気合十分なミアに襲いかかってくる忌々しい煙は何度見ても嫌気がさす。幸い、昨日の失敗から得た教訓として外で訓練をしていたお陰で、多くの煙を吸わずに済んだ。
新鮮な空気を肺に送り込めたところで咳が落ち着き、大きな溜め息を零した。
「せめて煙だけでも、綺麗で可愛いものが召喚できたら嬉しいんだけどなあ」
『煙のみを召喚するバカが何処にいる』
独りごちるミアに鋭い指摘が入る。声のする方を振り返れば、綺麗な真っ白な毛並みを靡かせながら、落ち着いた足取りでやって来るフェンリルは明らかに機嫌が悪そうだ。
「フェンリル、おはよう。起こしちゃった?」
『誰かさんの煙のせいでな』
「えっと、それは……ごめん」
苦笑いを浮かべることしか出来ないミアは、失敗した魔法陣を隠すようにその場に座り込んだ。
『まったく……力み過ぎだ。何をどうしたらそうなる?』
「それが分かってたら苦労しないんだけど……」
そうボヤくと呆れ顔を浮かべたフェンリルに、俯くしかない。憧れていた召喚士になったというのに、思い描いていた理想と現実がかけ離れていて、今すぐにでも自己否定に走りそうになる。
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