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へっぽこ召喚士、円卓会議に出席する④

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 ミアを楽しそうに見つめるグレモート卿の視線から、遮るようにしてリヒトが席を立った。



「第四部隊に配属された召喚士です。この会議で挨拶させようと連れて参りました」


「これはこれは……”飼い犬”の元へ新しい”玩具”が用意されたのですね」


「お言葉ですが、彼女への侮辱は控えていただきたい」


「侮辱?玩具というのは事実でしょう。どうせ、すぐに貴方達が壊すのですから。そのせいでどれだけ他の部隊に、任務の負担が回っているかご存知なはずだ」


「……」


「いい加減理解してください。第四部隊はお荷物なんです。部隊解体をお勧め致しますよ」



 グレモート卿の言葉にリヒトはきつく睨みつけるが、それ以上食いつこうとはしない。

 ゆっくりとリヒトの元へと近づいて来て、見下す目を向けると、ミアとリヒトにだけ聞こえるように囁いた。



「力を有しているからと言って、貴方達が穢れた血を持っているのには変わりはない。物好きな殿下のお陰で生き長らえていることをそろそろお分かりになりなさい――飼い犬共が」



 飼い犬、それが獣人としての血を受け継ぐ彼らに対しての侮辱であることを理解した途端、ミアは間髪を容れずにグレモート卿の前に立った。



「お初にお目に掛かります、第四部隊の召喚士をしております、ミア・スカーレットと申します。失礼ながら先程のお言葉、撤回して貰えませんでしょうか」


「おやおや……これは活きのいいお嬢さんだ」



 ミアの言葉に、部屋の中が僅かにざわめきが起こる。だからと言って、ミアは屈することなくグレモート卿を見据えた。 

 リヒトが止めようとするが、ミアは無視して言葉を続ける。



「先日のゴブリン退治では、第四部隊の騎士達が残された魔獣達と共に戦いました。本来であれば召喚主の元にいるべきはずの魔獣達は、第四部隊の騎士達のお陰で本来の魔獣の姿を取り戻したんです。そんな彼らをお荷物だと言って欲しくはありません」


「ほう……遂に手懐けたのですか。あの厄介な魔獣達を」



 驚くグレモート卿に続くように、あれだけ文句を零していた他の部隊長達も、動揺を隠しきれていない様子で各々目配せをしている。



「しかしですね、ミアさん。ゴブリン退治如きで浮かれる騎士団はそういませんよ。加えて事は深刻なんです。どこの誰が召喚したかも分からない魔獣を訓練させている間に、悪き力によりこの国は滅びかねない」


「っ……」


「分かりますか?お荷物はお荷物のままなんですよ。あなた方の部隊には、事態に抵抗する為の策を持ち合わせていない。お荷物だと言われたくなければ、賢者が召喚した神獣でも召喚してから言って下さい。まあ、そんな人間離れしたこと、まだ世間を知らない貴方には不可能でしょうけど」



 彼の言葉に爪がくい込み、今にも血が流れそうになる程の力を込めて拳を握りしめる。怒りの感情が、ある一つの意志を生み出した。



(そこまで言うなら、やってみようじゃないの。これ以上皆を、団長の事を悪く言わせないんだから)



 固い絆で結ばれた仲間想いの彼らを侮辱された怒りは、ミアにとって大きな原動力へと変わっていく。

 ミアが言い返すことを諦めたのだと判断したのか、グリモート卿がこれまでの被害を粗方説明し、今後の動きについて、胸元から折りたたまれた書類を取り出して読み上げる。



「では気を取り直して、殿下からのご通達です。国民の避難を最優先にしながら調査を行うこと。事が動き出したら、直ちに全部隊出動とのことです。くれぐれも抜かりないよう万全な状態で挑むこと……良いですね」


「――御意に」



 リヒトが目を伏せて頷くと、颯爽と扉へと向かうグレモート卿は、これからの余興を楽しむように笑みを零し去っていく。それが挑発されているのだと分かり、怒りを静かに飲み込んだ。

 彼の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、リヒトが静かに口を開いた。



「考えるに……この事態が大きく動き出すまで、ざっと二週間といった所だ。各部隊、気を引き締めて行け。以上で会議を終了する。では、解散」



 その言葉で、円卓会議は呆気なく幕を閉じた。

 動揺が未だに部屋中に流れる中、ミアに行くぞと声を掛けて動き出すリヒトの背を、黙って追いかけることしか出来なかった。

 

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