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へっぽこ召喚士、迷子に出会う③

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 遠くへと消えていく彼らの姿を見送るように見つめていたミアは、頭に酸素を送るように大きく深呼吸をした。



「大丈夫、皆は強い騎士達よ。私が動揺してたら、魔獣達も不安がっちゃう」



 ミアは言い聞かせるように呟いて、やりかけの仕事に取り掛かる。自分がやるべき事はこうして魔獣達の世話をすることだと、奮い立たせるように小屋へと移動して、藁の香りを肺いっぱいに取り込んだ。



(皆が帰ってくる前に一通りの仕事を終わらせて、出迎えてあげよう!皆、ビックリするかな)



 藁を取り替えながら、落ち着かない様子の魔獣達を宥めるように撫でると大人しくなった魔獣達は、ミアに擦り寄った。

 ただどうしても胸のどこかで落ち着かない気持ちのあるミアは、魔獣達に伝わらないように下唇を噛み締めた。

 不安からくるものでもなく、何かの感情と一致しているかのようにその感情は流れてくるようにミアの元へとやって来る。



『ああ、どこに行ってしまったの?お願い、無事でいてちょうだい……』



 周りには誰一人としていないはずだというのに、ミアにはしっかりとその声が脳内に直接聞こえてきた。

 誰とも知らぬ声は焦りと不安が入れ混じった感情が、痛いほどに胸に溢れてくる。



「今のは……?」


「ピヨヨッ!」



 突如、獣舎外から可愛らしい鳴き声が今度は耳から聞こえたミアは、驚きつつも振り返ってその鳴き声の持ち主を探した。

 陽の光を浴びながら、風と共に舞う白い蝶をぽてぽてと二本の足で追いかける黄色いモフモフとしたヒヨコが、芝生の上を楽しそうに駆け巡っている。

 ただ、ヒヨコと言っても手乗りサイズのごく普通の大きさではなく、スノウベアの子供といい勝負の大きさは異様に目立つ。

 その上モフモフで素晴らしく可愛らしい走りを見せつけてくるのだ。

 ミアの目は瞬く間に輝いた。



「可愛いっ……!でも、どこか迷い込んだんだろう?」



 見慣れないヒヨコの姿に、他の魔獣もどうやら興味津々のようでそちらをじっと見つめている。

 魔獣達の熱い視線すらも感じ取らない自由気ままなヒヨコは、届かない高さまで飛んで行った蝶にがっかりしていると、ようやく近づいてくるミアに気づいた。



「ピヨヨ」



 まだ警戒心があまりない時期なのか、ミアに対しても逃げるわけでもなく、寧ろ興味津々といった様子で近づいてきた。

 触れた手触りに蕩けそうになる顔を我慢できずに、おもむろにヒヨコを抱き上げた。



「ふわふわだあ~!」


「ピヨヨ~」


「ふふ、擽ったいよ」



 嘴で軽くミアの頬を啄いては、彼女の反応に合わせて嬉しそうに鳴いた。



「これ食べる?」



 感情が癒されて自分の世界に入ってしまったミアだったが、何の前兆もなく街の方からけたたましい鳴き声が聞こえてきた。



「っ……!!皆、大丈夫だからね!ここで大人しく待ってて!」



 魔獣達に声を掛けてヒヨコを抱きかかえたまま、慌てて騎士舎の方へと走り、非常事態に動き始めた門番達の元へと向かう。どうしたのかと尋ねた直後、見えた光景に絶句した。


「あっ……あれは……」


 見えた光景に目を疑って、目を擦ってもう一度確認しても、街に並ぶ家々の屋根の上に大きな翼を広げる姿は消えはしなかった。

 鶏冠の生えたニワトリの頭に、尾からはフワフワとは似合わない蛇のような鱗の生えた尻尾を生やした姿は、普通のニワトリとは少し違う。

 轟音と共に遠くから聞こえてくる悲鳴をかき消すように、それは鳴いた。


「コケコッコォオオーー!!!!」


 実家にいた頃に、よく近所の牧場から聞こえてきた鳴き声とは比べ物にならない鳴き声に、思わず耳を塞ごうと思ったが腕の中にいるヒヨコの存在にどうしようも出来なかった。



「ピヨッピー!」



 恐ろしい鳴き声に嬉しそうに反応するヒヨコに、ミアはもしかしてと一つの考えが浮かんだ。


「もしかして、あれはキミのお母さん?」

「ピヨッ」

「ってことは……キミ、コカトリスの雛?」

「ピヨー!」
 

 正解とでも言うようにまだ小さな羽をパタつかせる姿は可愛いものの、現状可愛さに殺られていては事は悪化する一方だと我慢する。

 コカトリスが本気になってしまえば、口から毒を吐き出してしまう危険な魔物を、放っておくわけにはいかない。


「騎士達が留守だっていうのに……!」

「とりあえずあの魔獣をどうにかしないと、街が危険だ!」

「いや、俺達には絶対歯が立たない。この事を騎士達に報告するまでの間、街の人達の避難を優先するべきだ」


 門番達はどうしたものかと意見をぶつけ合う中、ミアはこの緊急事態を解決する無謀とも言える方法を見出していた。


「きっとお母さんは、迷子のあなたを探して混乱しているんだと思うの。今からお母さんの所へ帰してあげる」


 魔獣を相手に戦闘した経験は一度もない。ただ、この雛鳥を帰せば、落ち着いてくれるそんな気がしたのだ。

 現時点で親コカトリスは人を襲うような行動を取っていない事から、自分にもどうにかできるとミアは宛のない直感を信じた。

 意見をぶつけ合う門番達を残すように、ミアは危険を顧みず雛鳥を探すコカトリスの親に向かって一直線に走り出した。

 


 
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