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へっぽこ召喚士、迷子と出会う②

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 晴れ渡った空の下、魔獣達の世話で使ったタオルを洗い終わったミアは、洗濯に取り掛かっていた。

 雲一つない青空に舞い上がるように風に靡かれる、真っ白なタオルを干しているだけで清々しい気持ちに包まれる。無意識に鼻歌を歌えば、檻の中で寛ぐ魔獣達もどこか嬉しそうに目を細めていた。



(こんなに穏やかに仕事が出来るなんて、配属初日の不安感が嘘みたい)



 配属されてから一週間以上も経てば、それなりにやることの時間管理はある程度できるようになってきて、魔獣達の世話にも余裕が出来てきた。

 相変わらずフェンリルがミアに懐く様子はないが、心を開いてもらえる努力は惜しまない。きっと心を開いて、召喚された意味を己で掴み取ってくれる、そう信じて。

 ただその努力の中にミアの若干の下心も含まれているのを、賢いフェンリルは知っていた。

 モフモフを手に入れようとするミアの熱い眼差しは、痛い程フェンリルに突き刺さっているのだから。



「さてと。新しい藁を手配しなくっちゃ」



 獣舎の隣の小屋に敷き詰めてある藁をピッチフォークでかき集めていると、何やら騎士達の慌てた足音が聞こえてくる。

 訓練にしてはどこか様子が違う音に思わず、手の動きを止めて耳を澄ます。何か分からないが、緊張感を感じたミアはピッチフォークを元の位置に戻す。

 何事かと小屋から出て見ると、ユネスが指揮を取りながら部下の騎士達共に馬に跨ぐ姿が見えた。

 唯ならぬ様子に獣舎の魔獣達も、どことなく落ち着きなく喉を鳴らしたり、歩き回ったりしている。

 せめて檻の中から見えてしまう騎士達の姿を遮断しようと、獣舎の扉を閉めていると、ユネスがこちらに向かって馬を走らせてきた。



「ミアちゃん!」



 普段なら柔和な表情を浮かべる彼が真剣な顔をしていることから、良からぬ事が起きているという事が一目で理解できた。



「何があったんですか?」


「マネクリットの街を魔物が襲ってきているらしく、別部隊から応援を要請されたんだ。これからここを留守にするから、ミアちゃんはくれぐれも魔獣達の事を宜しく頼むね」



 ここに来て初めての出来事に、ミアは今更ながら騎士団に自分が居るということを認識する。

 初めは魔獣達の世話というものに不安しかなかったが、ミアにとっては幸せな時間を過ごせるこの穏やかな仕事場だ錯覚していた。

 目の前にいるユネスの腰には剣が下げられ、今から彼らは民を守る為に己の命を掛けて魔物達と戦うのだ。

 今こうして会話していても、帰ってくる時には怪我をして、血を流して帰ってくる可能性だってある。

 なぜなら――ここには彼らと契約を交わした魔獣がいない。戦う術は騎士達が体を張って、剣を振るうしかないのだから。



「……っ、気をつけて……!」


「はは。そんな心配しなくても大丈夫だよ」


「ユネス」



 場の空気を少しでも和らげようとするユネスに声が掛かり、声の主へと目を動かせば平然とした様子のリヒトがいた。

 ミアの存在に気づいたのか、綺麗な顔から威圧的な表情を生み出すと、ユネスはおじゃま虫は退散するね~と、よく分からない言葉だけを残して行ってしまった。


「おい」


 二人残された獣舎前で、低い声がミアの背筋を伝っていく。それだと言うのに、彼の熱を甘い声を思い出して、むず痒くなるのをどうにか誤魔化した。


 
「何をそんな怯えている」


「えっと……」
 


 見つめられる瞳に全てを見抜かれそうで、目を逸らそうとするものの、そうはさせまいとリヒトの目力が増す。諦めてじっとペリドットの瞳で、その目を見つめた。

 逃がさない、そう言っているようで心の中で波打つ感情を吐き出した。

 

「どうか……無事に帰ってきてください」


「はっ。何かと思えばそんなことか。俺をなんだと思っている」

 

 彼の呆れた声に何か変な事を言ってしまったのだと、唇を噛み締めると、そっとリヒトが近づいてきた。



「お前一人を残していくなんてことはしない。安心しろ」


「え……」



 ミアの短い髪に手を伸ばし、微かに触れたリヒトの手の温もりはすぐに消えて、彼は踵を返して歩き出していた。



「後は頼んだ」


 
 背中で語るように振り返らずに吐き捨てたリヒトは、部下が用意して待つ馬に跨るとそのまま騎士達をまとめながら門へと馬を走らせていった。





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