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へっぽこ召喚士、世話係に奮闘する②

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 全ての魔獣の散歩が終わった頃には日は傾き、魔獣達が運動後の休憩をしている間に急いで夕ご飯の準備を整え、日が沈んだ頃には寝る前のブラッシングを行う。

 こうして一日の業務を終わった頃には、満足感に比例するように疲労感がどっと押し寄せてきた。

 自室に戻ってからの記憶は全くなく、気がつけば朝日がまた上っていた。

 自分の容姿に気を使う暇すらなく、最低限の支度を整えて獣舎へと急いで向かう。疲れは抜けきっていないはずなのに、魔獣達を前にすればそんな疲れはどこかへ消し飛んで、顔が緩んだ。

 今まで感じたことの無い深い愛情を注がれる魔獣達も、ミアにとことん懐くのも無理もない。

 手際良く世話をしていると、獣舎入口近くの丸窓から人懐っこい顔が様子を伺うように中を見つめていた。



「俺の方が世話してた時間長いって言うのに、すごいねミア」



 訓練の合間に顔を覗かせたシュエルが、魔獣達の懐きっぷりに感服する。

 最後の一匹のブラッシングを終えたミアは、同じ体勢をしていたせいで凝り固まった身体を解すように伸びをしながら、彼の元へと向かう。



「どう?少しは慣れた?」


「まだまだ手探り状態って感じかな」


「ここまで懐かれておいてよく言うよ」



 苦笑混じりにシュエルは笑うが、ミアは至って真剣だ。

 ミアの求める世話の質には、もふもふ達の更なるもふもふを掲げているため、そう簡単にはいかないのだ。



「最初はやれる範囲でいいんだからね?」


「でも、やれる事をこの子達にやってあげたいの。もしかしたら騎士の皆に心を許して、いい相棒になってくれるかもだし」


「本当にミアはすごいなあ……」


「そう思うんなら、シュエル。お前もちゃんと鍛錬に身を入れろよー!」


「ミアさーん!その魔獣達がいつか心開いたら、俺にも散歩させてくれよな!」


「本当に世話してくれてありがとう!すっげぇ、助かってる!」



 シュエルを連れ戻しに来た騎士達が、ミアを励ますように声を掛けては魔獣達の様子を伺う。気さくな彼らはミアを大歓迎してくれ、時折りこうしてミアの様子を見に来てくれている。

 まだ獣人である騎士達に警戒心むき出しの魔獣達は、彼らに怯え檻の隅に隠れた。

 大丈夫だよと声を掛けると、少しだけ不安が安らいだように目を伏せる魔獣達に息をついた。


(まだ世話し始めたばかりだもんね。ゆっくり時間を掛けて、彼らにも慣れて貰わないと)


 意気込むミアの慣れない生活は、一日、二日と目まぐるしく過ぎていった。

 魔獣達との過ごす時間が長くなれば長くなるほど、ようやくミアは彼らに懐かれているのだと知った。

 最初は控えめに甘えてきたというのに、今はミアが獣舎に来た途端一斉に起き出して、彼女の温もりはまだかと求める目を向けてくるようになった。


「順番だよ~順番」


 ブラッシングの時が一番酷い。一匹の魔獣が気持ち良さそうにしているのを、他の魔獣は羨ましそうに見つめてくるものだから、どうも心苦しくなってしまうのだ。

 かと言って手を抜くことは絶対にしないミアは、一匹ずつ丁寧に時間を掛けることは辞めなかった。

 配属してから七日目、完全にミアに懐ききった魔獣達だったが、一向に懐かない一匹のフェンリルに頭を抱えていた。



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