上 下
10 / 63

へっぽこ召喚士、もふもふに懐かれる②

しおりを挟む


 天井が高い造りになっており、通気性がよさそうな多数の丸窓が太陽の光を反射させている。

 獣舎を前に、魔獣の気配すら感じられないこの場所に本当に魔獣がいるのか疑問でしかなかった。



「魔獣ってこんなに大人しいものなの?」


「いや、普通だったら、こんな大人しくはないんだけど……」



 ミアが指摘した異変にシュエルは困った表情を浮かべつつ、獣舎の中へと続く頑丈な扉を開けた。

 中へと入ると獣臭さは一切しなく、頑丈な檻の中に入っている魔獣達が息を潜めていた。

 スノウベアを床に下ろして一周ぐるりと見渡すと、檻の中の魔獣はどこもかしこも藁の敷き詰められた寝床に身を隠し、こちらを見つめる目はどこか怯えていた。


「魔力を持つ俺ら獣人に怯えて一向に懐かないんだ。魔獣騎士なら本来心を通わせる能力があるのに、ここにいる奴らは皆心を閉ざしちまってる」


「その原因って……」


「ここに来た召喚士が、魔獣を見捨てるように契約を無理やり破棄したのが原因だな。お陰で世話をするのにも一苦労だよ」



 やっぱりとミアは召喚士のバッチをきつく握りしめた。

 心を許して召喚を認めてやってきた魔獣達にとっての契約破棄とは、相棒となる召喚士に不必要だと突きつけられたようなもの。

 そして、契約破棄は互いの命にも直結するような危険極まりない行為を認めた相手にされ、恐怖を植え付けられたのだ。

 端から信頼関係を踏みにじられ危うく殺されかけ、おまけに自分達よりも強い獣人を前に本能的に怯え、傷ついた心を癒す余地すら与えられない。

 ミアはこんな過酷な状況下で、よく耐えたと労りたい気持ちでいっぱいになった。

 確かに魔獣を相手にするのは恐ろしい。仮に自分に懐かなかった場合、襲われる危険性も少なからずある。

 だが召喚士として己と契約を結ぶ以上、相手の心に寄り添い、例え言葉が通じなくとも共に歩む相棒相手に、そんな無下にするような行為は召喚士として失格だと怒りが滲む。

 あれだけ魔獣を相手にする事に不安と恐怖で支配されていたミアだったが、いざ魔獣達を前にしてその気持ちはどこにもなかった。



「あっ、ミア!そんな迂闊に檻に近づいたら危ないよ!」



 身体は勝手に魔獣がいる檻の前へと動いていて、ミアをじっと見つめるブラックダイアモンドのような煌めきを秘めた瞳と目が合った。

 額に一本角を生やした一匹の兎――アルミラージが近づいてくるミアに威嚇するように角を向ける。

 気性が荒いアルミラージは、自分よりも大型の魔物に対しても攻撃を仕掛けてくる厄介な性格の持ち主。そんなアルミラージを前にしてもミアの恐怖心は何処にもなかった。

 檻の前でしゃがみ込み、瞳を離すことなく思いを口にする。


「怖い思いさせてごめんね」


「もきゅっ」


「えっ?」



 ミアの言葉に反応するかのように、寝床から飛び出してきたアルミラージは、角を向けて突進して来る。

 危険を察知したシュエルが檻から遠ざけようと、彼女の手を引こうとするが、アルミラージの俊敏な動きに間に合うわけもない。



「っ……!」



 シュエルの短い悲鳴が獣舎に微かに響き、その声に反応するように魔獣達が小さくざわめいた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。 それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。 主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。 幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。 ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。 「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」 こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

緑の魔女ルチルの開拓記~理想の村、作っちゃいます! 王都に戻る気はありません~

うみ
ファンタジー
 緑の魔女と謳われた伯爵令嬢ルチルは順風満帆な暮らしを送っていた。  ところが、ある日突然魔力が消失してしまい国外退去の命を受けることに。  彼女が魔力を失った原因は公子と婚約したい妹による陰謀であったが、彼女が知る由もなかった。  令嬢としての地位を失い、公子との婚約も破棄となってしまったが、彼女は落ち込むどころから生き生きとして僻地へと旅立った。  僻地に住む村人は生気を失った虚ろな目をしており、畑も荒れ放題になっていた。  そこで彼女はもふもふした大賢者と出会い、魔力を取り戻す。  緑の魔女としての力を振るえるようになった彼女はメイドのエミリーや一部の村人と協力し、村を次々に開拓していく。  一方、彼女に国外退去を命じた王国では、第二王子がルチルの魔力消失の原因調査を進めていた。  彼はルチルの妹が犯人だと半ば確信を持つものの、証拠がつかめずにいる。  彼女の妹はかつてルチルと婚約していた公子との婚約を進めていた。    順調に発展していくかに思えた僻地の村であったが――。 ※内容的には男性向け、女性向け半々くらいです。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生ギフトでドラゴンを貰いました。

銀狐
ファンタジー
絵を描くのが好きな大学2年生の新崎亮。 バイトへ向かうときに交通事故に合い、死んでしまった。 気づいたら目の前に神様。 そこで転生ギフトがあると言われ、ドラゴンを選びました。 ※『カクヨム』『小説家になろう』で同時掲載をしております。

処理中です...