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へっぽこ召喚士、秘密を知る②
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自分の言動にまたしても取り返しのつかない事をやってしまったのではないかと、冷や汗を滲ませているとこめかみに感じていた痛みが消えた。
「……?」
目線を上げれば、悔しそうに口を曲げるリヒトが見えない何かに縛られたかのように動きを止めていた。
「こ、これは……?」
「またしても余計な事をッ……!」
「はいはい。もういい加減状況を受け入れて。”主”を前にして勝てるわけないんだから」
ユネスがリヒトの首根っこを掴むようにして、執務室の長椅子に座らせると、急に大人しくなったリヒトは前髪をくしゃりと掻き上げた。
「ミアちゃんもどうぞ座って。色々と説明しなきゃ状況に着いていけないでしょ?」
「えっ、あ、はい!」
言われるがまま座るように促された長椅子に腰掛けると、ここからの話の主導権は自分にあるとユネスが一つ咳払いをした。
背筋を伸ばして聞く体勢を整えたミアだったが、これから何を説明されるのか検討もつかない。
「まず初めに質問するね。召喚士が召喚する魔獣の存在……あれは何?」
まるで授業中に指名されたかのような緊張感が走るものの、基礎中の基礎の内容は落第生のミアでも分かった。
「召喚士が召喚する魔獣は、千年前に賢者ロベルツが邪神の加護を持つバハムートとの戦闘の際に召喚した神獣達の末裔で、唯一魔族に打ち勝つ力を持つもの達です。私達召喚士は、魔獣の持つ魔力と共鳴する事によって、始めて召喚が出来るようになります」
スラスラと今まで学んできた知識を披露すると、ユネスは小さく拍手をしてミアを賞賛した。
彼の隣に座るリヒトは何を当たり前の事を……と小さくボヤくが、ユネスは気にせず話を続ける。
「正解。じゃあ何故、リヒトを召喚してしまったのか、彼を見て気づくことはない?」
「えっと……それは」
ユネスの次の質問に対して言葉を濁した。人とは違う姿をしている彼を見て、動揺する気持ちばかりが膨れ上がる。
ただこの話の流れ的には、多分そういう事なのだろうとダメ元で一つの考察を口にする。
「もしかしてリヒト騎士団長は、その……獣なん……ですか?」
「目の前にいる俺が、普通の人間の姿をしているというなら、お前の目は相当の節穴だな」
鋭く睨みつけられて、身を縮こませて反射的に頭を下げる。
フサフサとした可愛らしい耳と尻尾があっても、相手は鬼畜な騎士団長ということを忘れてはいけない。
ミアは今にも震えそうな身体を誤魔化しながら、頭を上げてユネスに話を続けるように促した。
「ミアちゃんの言う事の通りで、リヒトは人じゃない。いや……“僕ら”というべきか」
「え……?」
「単刀直入に言おう。僕ら第四部隊の騎士は神獣達の血が流れる末裔。言わば『獣人』なんだ」
「獣、人……?」
おとぎ話で何回か聞いた事のある程度の存在に、上手く言葉の意味を咀嚼することができなかった。
自分の言動にまたしても取り返しのつかない事をやってしまったのではないかと、冷や汗を滲ませているとこめかみに感じていた痛みが消えた。
「……?」
目線を上げれば、悔しそうに口を曲げるリヒトが見えない何かに縛られたかのように動きを止めていた。
「こ、これは……?」
「またしても余計な事をッ……!」
「はいはい。もういい加減状況を受け入れて。”主”を前にして勝てるわけないんだから」
ユネスがリヒトの首根っこを掴むようにして、執務室の長椅子に座らせると、急に大人しくなったリヒトは前髪をくしゃりと掻き上げた。
「ミアちゃんもどうぞ座って。色々と説明しなきゃ状況に着いていけないでしょ?」
「えっ、あ、はい!」
言われるがまま座るように促された長椅子に腰掛けると、ここからの話の主導権は自分にあるとユネスが一つ咳払いをした。
背筋を伸ばして聞く体勢を整えたミアだったが、これから何を説明されるのか検討もつかない。
「まず初めに質問するね。召喚士が召喚する魔獣の存在……あれは何?」
まるで授業中に指名されたかのような緊張感が走るものの、基礎中の基礎の内容は落第生のミアでも分かった。
「召喚士が召喚する魔獣は、千年前に賢者ロベルツが邪神の加護を持つバハムートとの戦闘の際に召喚した神獣達の末裔で、唯一魔族に打ち勝つ力を持つもの達です。私達召喚士は、魔獣の持つ魔力と共鳴する事によって、始めて召喚が出来るようになります」
スラスラと今まで学んできた知識を披露すると、ユネスは小さく拍手をしてミアを賞賛した。
彼の隣に座るリヒトは何を当たり前の事を……と小さくボヤくが、ユネスは気にせず話を続ける。
「正解。じゃあ何故、リヒトを召喚してしまったのか、彼を見て気づくことはない?」
「えっと……それは」
ユネスの次の質問に対して言葉を濁した。人とは違う姿をしている彼を見て、動揺する気持ちばかりが膨れ上がる。
ただこの話の流れ的には、多分そういう事なのだろうとダメ元で一つの考察を口にする。
「もしかしてリヒト騎士団長は、その……獣なん……ですか?」
「目の前にいる俺が、普通の人間の姿をしているというなら、お前の目は相当の節穴だな」
鋭く睨みつけられて、身を縮こませて反射的に頭を下げる。
フサフサとした可愛らしい耳と尻尾があっても、相手は鬼畜な騎士団長ということを忘れてはいけない。
ミアは今にも震えそうな身体を誤魔化しながら、頭を上げてユネスに話を続けるように促した。
「ミアちゃんの言う事の通りで、リヒトは人じゃない。いや……“僕ら”というべきか」
「え……?」
「単刀直入に言おう。僕ら第四部隊の騎士は神獣達の血が流れる末裔。言わば『獣人』なんだ」
「獣、人……?」
おとぎ話で何回か聞いた事のある程度の存在に、上手く言葉の意味を咀嚼することができなかった。
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