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へっぽこ召喚士、騎士団長を召喚する︎②
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召喚した召喚獣が中で訓練することもあり、まるで砦のようなどっしりとした建物には威厳さえ感じる。
門の周りには人を寄せ付けない空気が流れる中、ミアは己を信じて前へと進む。
門番に封筒に同封されていたバッチを見せ、いよいよ中へと入ると後ろから囁き声が薄らと聞こえてきた。
「まだ幼い女の子だっていうのに、可愛そうに……」
「この前の召喚士は三日も持たなかったしなあ」
「奴らに喰われないといいけどな」
「馬鹿、聞こえるぞっ」
門番達の囁き声を見事に聞いてしまい、身の危険を感じるがもう後戻りは出来ない。
ここまで来たら聞こえなかったフリをして、勢任せで足を進め門を通り抜ければ、青々とした芝生が広がる広い敷地に佇む、石造りの堅牢な騎士舎がミアを待ち構えていた。
騎士舎を囲う地面には様々な獣の足跡の痕跡があり、大きく地面が抉れている所まである。魔獣がいる痕跡に、自分以外の召喚士がいることにとりあえず胸を撫で下ろすが、抉れ方を見て自然と身体が震えた。
(まさか……魔獣を野放しにしてるとかそんな分けないわよね?)
敷地内に入った以上何が起こってもおかしくないと抉れた地面の横を通り過ごして、騎士舎の扉へと急ぐ。ただ妙に静かすぎる空間と感じた違和感に、少し足を止めて周囲を確認する。
抉られた地面は明らかに真新しく、今朝方出来たものだと言ってもおかしくはない。
ここまで大きな魔獣の足跡が残っているのにも関わらず、その魔獣の気配はどこにもない。
「……侵入者だと判断して襲ってきても、何ら不思議ではないのに」
縄張り意識が強く、仲間と判断した対象にしか懐かないのが魔獣の特徴だ。
ミアが来るということを配慮して、しっかり管理してくれているのか、はたまたまぐれか。
どちらにしろ今は危険が潜んでいないことに安堵の息を零しつつ、再び騎士舎へと足を向ける。
重たい扉をいざ目の前にして急に心臓がうるさくなり、緊張で肩に力が入る。
(……どうか、初日でヘマしませんように。学校を卒業したとは言え、元落第生ってバレたら即クビ確定なんだから)
何度も私は立派な召喚士と心の中で唱えつつ、召喚士の証であるバッチをキツく握りしめてから、ドアノブへと手を伸ばす。
中へ入ろうとしたその時――ミアの動きよりも先に白い何かが扉を打っ放して一目散に外へと飛び出して行った。
「いっ、今の……何?」
今までの緊張感がどこかへ吹き飛ぶ程の勢いで、白い何かは姿を何処かへ消してしまった。
後を追いかける理由も無いミアは気を取り直して中へと入り、意外にも手入れが行き届いた室内に口をぽかんと開けた。
荒々しい噂しか聞いてこなかったせいで、建物内も酷い有様を想像していたが、案外そうでもないらしい。
遠慮がちに辺りを見渡しながら、ここからどこへ向かえば良いのか分からず、もう一度手紙に目を通そうとしたその時だった。
「ワフッ」
「っ……!」
突如聞こえたその鳴き声に身体を震わせながら声のする方へと視線を動かすと、二階へと続く階段の踊り場でお行儀良く座り込む、一匹の大きな灰色の犬がミアを見つめていた。
愛らしい瞳にフワフワな毛並みを見て、ミアの心は一瞬にして高揚する。
かっ、可愛い~~!!
幼い頃から動物と戯れて育ったミアにとって、この場の天使と言っても過言ではない。
今にもその毛並みを確かめるべく飛びつきたくなる気持ちを抑えて、ニヤけてしまう顔を抗うのに必死なミアに犬は小さく首を傾げた。
その仕草でさえ、ミアには興奮のあまり声が漏れそうになる。
こんな場所に愛くるしい子がいるなんてっ……!なんかもう仕事頑張れる気がしてきた!!
動機はともあれ、抱えていた不安がかき消された事により身が軽くなるのを感じていると、犬がゆっくりと腰を上げた。
尻尾を緩やかに左右へ振ると、ミアをチラリと伺い階段に足を掛けた。
様子を伺うように犬を見つめるが、一向に階段を登ろうとはせず、再び短く吠えミアに視線を送り続けていた。
「もしかして、案内してくれるの?」
「ワフッ」
得意気な表情を見せる犬にクスリと笑みを零して、大舟に乗ったつもりで犬に着いて行くことにした。
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