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狂いだした歯車
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サラが編入して来てから早もう一ヶ月が経った。
これまでと同じ道を辿らぬように生活していく中で、私は大きな誤解をしていたんだと気付かされた。
「サラ?何度も言わせないでくれるかしら?」
溜め息を吐いた先に居るサラは、呆れた声で呟く私に怖がる素振りも見せない。
寧ろ喜んだ顔で私に笑顔を振りまいてくる。
過去の私がこの現状を見たらどう言うのかしら。
「新しいペンが欲しいとは言ったけれど、こうもなんでも私に貢ぐようにプレゼントしないでっていつも言っておりましてよ?」
「良いんです!父と開発した薬の売り上げが良くて、お小遣い弾んじゃって。だからエリーザさんと、お揃いにしたくて……」
「まったく……一体これで何個目かしら?」
「これで十五個目です」
即答するサラはどこか誇らしげだ。
受け取らない理由もないし、受け取るけど……妙に擽ったい。
今までこうも親しくしていた『友達』という存在は私には誰一人としていなかったから、どう接していいのか慣れない関係に手さぐりで距離を確かめている真っ最中だ。
こんなどこか素っ気ない態度を取ってしまう私だと言うのに、サラはいつも明るく接してくれて、その優しさに心が染み渡る。
今までこんなにいい子なサラを虐めていた私を説教したいくらいだ。
「やっぱりペンその綺麗な赤、エリーザさんに似合うとずっと前から思ったんですよ」
「え?」
「エリーザさんの髪の色って本当に美しくて、凛々しい立ち振る舞いの中に燃える炎のようで。近づきたいけど近づけない高嶺の花……そんなエリーザさんと友達になれて、私本当に嬉しくて嬉しくて」
頬を僅かに赤く染めたサラは、恥ずかしそうに小さく微笑んだ。
こんな笑顔を見たら、殿下だって落ちるに決まっているわ。ああ、可愛すぎる……!
「丁度欲しかった所ですし今回は、い、頂きますけど、次はもういりませんからね……?」
嬉しい気持ちが滲むというのに、素直に成れないのはやっぱり根っからの悪役令嬢としての素質があるのかしら?
お小遣いを無駄に使って欲しくないと、そう言えばいいのに上手く言葉に出来ない。
本当に可愛くないんだから、私って。
「あっ……あり、がとうございます……」
言葉が詰まっている上に、声もこんなに小さい感謝の声なんて届くはずも無い。
でも素直になれた自分は今までとは違うと実感出来て、貰ったペンをそっと握り締めた。
「そう言えば……ずっと前からと言いましたが、このペンって新商品でしょう?」
貰ったペンには、ここ最近発売されたものを表すロゴが刻まれているのを見つけていた私は疑問を口にすると、サラは僅かに視線を逸らしたような気がした。
「え!?あ、はい!実は父の伝手で新作がどんな物か知っていて!!」
「そうなんですの?」
「ま、またいつか今度、新作が知れたらエリーザさんにお伝えしますね!それより!!クラウド様に王宮のお茶会に誘われて――」
気になってしょうがない相手の名前が出てきて、思わずピクリと体が跳ねる。
殿下に隙を取られてしまったあの日からずっと殿下を意識しないように必死な毎日を送っている。
今でも鮮明に思い出せる唇の感覚に、気がついたら殿下を目で追ってしまうことも暫し、いや頻繁にあるけれど……。
大胆に迫ってくることはないというのに、なぜか視界に入るだけで今まで以上に意識してしまうのだ。
サラとの二人の時間を作ったと思っても、その時間以上に私に絡んで甘い言葉を囁いて翻弄してくる。
これ以上関わりたくないというのに、不思議な力でも使っているような殿下の魅力に負けそうになっている。
「エリーザさんも一緒に参加してほしいと伝言を預かりました」
「わ、私も?!」
「もちろん!だって婚約者なんですから、当然ですよ」
当然と言われても、私はその婚約を破棄する為に奮闘しているという事はまるで分かっていない。
殿下が可哀想とでもサラが言い出してくれれば、どれだけ楽か。
サラの将来の相手になるんだから、その恋心に早く気がついて欲しいと願って止まない。
「私、こういうちゃんとした場に出るの初めてで……緊張して皆の迷惑になりたくないんです。エリーザさんと一緒に居て、色々と学んで、それに……エリーザさんとの思い出も作りたいなって」
お揃いの物を渡す時は堂々とあんなに瞳を輝かせていたのに、今更何を恥らっているのよ……まったく可愛らしいわね!!
こんなの断れないじゃない!!
「はあ……本当に仕方ありませんわね。いいですわ。一緒に行きましょう」
「やった!!」
喜ぶその笑顔が眩しくて、釣られて私も微笑んだ。
殿下を避けているせいで中々行く機会が無くなった王宮内で、聖女の存在がどうなっているのか探りにも行けることだし、行く価値はありそうね。
それに行ったところで、殿下とサラを二人に出来る機会をまた作れる機会にもなるんだし。
……そう思うのに、何故か複雑な気持ちになるのはどうしてなのかしら。
「エリーザさん?」
「ごめんなさい、少し考え事をしてしまっていたわ」
「あの、当日までに着る衣装のお買いものとか一緒に出来たりしますか?」
「勿論よ。何なら、私の家に商人を呼びましょうか?」
「そんなお手を煩わせるわけには……!というかそ、その!放課後に一緒にお買いものとかしてみたくて……」
はあ、一生この可愛らしい生物に勝てる気がしない……。
友達ってこんなにも、むずむずするものなのかしら!!
「し、仕方ありませんわね!私が貴方に似合う、とびきりの衣装を見繕って差し上げますわ!」
殿下じゃあるまいし、サラの前でも何故か素直になれない自分に恥ずかしくなる隙も与えずにサラが、私の腕うをぎゅっと抱きしめてきた。
こうしてお茶会が開催される日まで私とサラは放課後を使って、衣装選びに花を咲かせた。
最高にサラが可愛く彩る淡いピンク色のドレスを見つけ、今度は私からプレゼントするとサラは最高に可愛らしく笑顔を見せてくれた。
令嬢として身につけておいた方がいい作法なんかも、時間を見つけて教え込むと、元々頭の良いサラはあっという間に教えた事全てを身につけていった。
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