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動き出した歯車
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今までの我儘さが無くなった私を、侍女達が何かの病気だと疑ってきていたのが少し落ち着いたのは、私が過去に戻ってきて三日目の事。
今日はこれまでの私が最悪の道を歩むことになった始まりの日、と言ってもいい。
始まりの日――それは女神にこの国への加護を授かるための大事な祭事である『聖クラチア祭』で、クラウド様とサラが運命の出会いを果たしてしまう日。
クラウド様が民衆の前で王族のみが持つ聖魔法を女神に捧げる特別な瞬間を目にするため、気合を入れて会場へと向かった私の死の歯車が動き出してしまうのだ。
繰り返してきた人生で毎回、二人は出会って来たから間違いなく今日も出会う。
だからと言って私はその出会いを阻止するなんてことはしない。
「殿下の恋が始まるんだから、それを邪魔する訳にはいかないもの」
今までの私だったらダニエラ様から頂いたドレスに身を包み、侍女達に無理言って用意させたダイヤのアクセサリーを着けて、お父様に王家の使いの人に馬車を用意させてと無理難題を押し付けて会場に向かっていた。
でも今日はそんな誰かを困らせるようなことは一切する気がない。
祭り会場に行った所で、傲慢な私に困惑と呆れ顔を浮かべる殿下が待ち受けているだけだし。
張り切った格好はせず、家から殿下の魔法が成功することを秘かに祈るだけでいい。
殿下の瞳と同じ蒼いドレスに着替えた私は思いを馳せながら窓の外を見つめた。
「って、ちょっとなんで?!」
屋敷の入り口の前に、今までと同じように王家の馬車が止まっている。
お父様に頼んでもいないのに、一体どうして??
確認の為に部屋から出ようとするよりも先に扉が叩かれた。
「お嬢様、公爵様がお呼びです」
お父様が呼んでいる……?ですって?
十三回目の人生が始まってから一度もお父様に迷惑はかけてきていないつもりだったんですけど??
それに宰相であるお父様が王宮での仕事を放棄して家に帰ってきたと言うの??
落ち着くのよ、エリーザ。まずは状況を確認しなくっちゃ。
扉を開けて待っていた侍女の後ろを付いて歩いて、エントランスへと辿り着く。
「まあ!エリーザ、御機嫌よう。今日も可愛らしいわね」
朗らかな優しい笑みを浮かべる気品ある女性――この国の王妃殿下であるダニエラ様が我が家に何故かやって来ていた。
傍に仕えるお父様も普段と変わらない表情でいるし。
なんで?なんで?と疑問ばかりが頭の中をぐるぐると回るが、身に染みついた動きと共にダニエラ様に普段と変わらない挨拶をする。公爵家令嬢として恥じぬように徹底的に仕込まれた事に感謝するしかない。
「あの、どうかされたのですか?」
「はあ……ヘイベル公爵、やっぱりエリーザに外出許可を出していなかったのでは?」
「本人から聖クラチア祭に行くと聞いておりませんでしたので……」
「忙しくしている貴方を見て言えなかっただけでしょう?ねえ、エリーザ」
同意を求められて、苦笑を浮かべる私に気付くことなくダニエラ様がそっと手を取って下さった。
「クラウドの晴れ舞台を婚約者の貴方が見ないと、あの子もきっとがっかりするわ。ヘイベル公爵には私が言って聞かせましたので、一緒に行きましょう」
「こ、これから、ですか?」
「ええ。もちろん。そう言えば私が贈ったドレスは気に入らなかったかしら……今日の為に見繕ったんだけれど」
「そんな!とても嬉しかったです。ただ今日はこうなると思っていなかったので、次の舞踏会に着させて頂きますね」
「良かったわ。そうよね、突然来たのだから無理もないわ。あ、じゃあこれを……」
そう言ってダニエラ様は自分が付けていたネックレスを私の首に付けて下さった。
胸元で輝くのは鎖をモチーフにしたアメジストのネックレスだった。
「こんな高価なもの頂く訳には……!」
「女は飾って輝く生物なのよ。貰って頂戴」
「ありがとうございます。大切にします」
「本当、王妃殿下はうちの娘に甘いんですから」
「だって可愛いんだもの。しょうがないでしょう?さあ、行きましょうか」
言われるがまま馬車んい乗り込んだ私は、今回の人生も祭り会場へと足を運ぶことになってしまった。
どうやら半ば強制的に過去の時間を辿らせる何かがある可能性が出てきたことになる。そこを踏まえて行動計画を見直す必要がありそうね。
まあ今後の殿下達の行動を把握するにも、今日と言う始まりの日を遠くから監視しておくのも悪くはないかしら。
王都の中心の街ではどこもかしこも楽しそうに笑う人達の声で賑わっていて、街の景色に頬が緩んだ。
今までの私ならこんな景色にすら目を傾けることなんかしなかったのに、流れてくる景色があまりにもキラキラしていて心が躍る。少しぐらいお祭りを楽しんだっていいわよね。
王宮の近くの広場の前でパレードに出席するダニエラ様達と別れて馬車から降りた私は、一人祭り会場へと足を踏み入れた。
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