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結界
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九死に一生を得た体験をしてから、どれくらい経ったのだろうか。恐らく、今日で7日目だろう。
あれから俺は、ひたすら歩き続けた。4日目くらいから森へ入り、今はその森の中を彷徨っている。
森の中なら木の実でもあるかと思ったが、木の実どこか花すら見かけない。それ故にあれから7日間、俺は何も口にしていない。
学校の鞄でもあれば、水筒と弁当があったのだが、この世界には持って来れなかったことを恨めしく思う。
そして、俺はそろそろ限界を迎えようとしていた。
一日中歩き回る疲労、そして食べ物も飲み物も口に出来ない。栄養失調で今にも倒れてしまいそうだ。
だが、それだけではない。『何も口にしていない』という事実が、精神的にもきているのだろう。
せめて木の実でも口に出来れば、根本的な解決は兎も角、一時しのぎは出来たであろう。
途中人間にでも会ってれば、食べ物でも恵んでくれたのかもしれないが、相変わらず生物の気配すら感じられない。
「はぁ……はぁ……」
移動速度が低下してきてるということが、自分でも目に見えて分かる。眠っていれば無駄な体力の浪費を避けられるのかもしれないが、結果としてそれは餓死を待つだけだ。
それに、何かしていないと不安になるっていう気持ちもあった。
雨でも降ってくれれば、状況は変わるのになぁ……。
生憎この7日間、曇ることはあっても雨が降ったことは一度も無い。そういう季節なのか、はたまた運が悪いのか……。
湖みたいな所を探し出せれば身体面でも精神面でも大分回復するんだけど。まぁ、何れにせよ、歩き続ける他ないということだろう。
「……?」
太陽の光をあまり通さないこの森だが、しばらく歩いているとある線を境に影が無くなっているのが分かる。
顔を上げると、目の前には絶壁が立ち塞がっていた。そしてその下には――
「……洞窟?」
そう、洞窟だ。
俺の目の前には、そこそこの大きさな洞窟が存在していた。
もしかしたら、洞窟なら水があるかもしれない……。
そんな僅かな期待を胸に洞窟に入ろうとした、その時だった。
バチィイイ!
「グッ!」
洞窟の中に足を踏み入れようとしたその時だった。突然、大きな衝撃を前方から受け、後ろへと転がっていく。
「痛って……。一体なにが……?」
もう一度、洞窟に踏み入れようとするが、先程同様大きく吹き飛ばされてしまう。
もしかして、あの戦いの時に見た結界みたいなやつか?
試しに、今度は洞窟の入口と地上との境界線に触れるように右手を伸ばす。
「……やっぱそうか?」
そこには、見えない壁が確かに存在していた。目には見えないが、まるで鉄のように硬い壁が、俺の行く手を阻んでいた。
「……チッ! クソがっ!」
通れないと分かると、腹いせに結界を殴りつける。
バチィイイ!
そして後方に大きく吹き飛ばされる。どうやら攻撃をすると吹き飛ばされるらしい。
こうなりゃ……どうせ行く宛も無いんだ……。とことん付き合ってやるよ!
そう心の中で叫び、再び結界目掛けて拳を振り下ろす。
バチィイイ!
そして案の定綺麗な放物線を描いて弾かれる。
今度は右足で蹴り飛ばす。
バチィイイ!
やはり結界はビクともしない。そして相も変らず後方へ飛ばされる。
今思えば、この時の俺は正気じゃなかったんだろう。たまりに溜まった疲労、7日間全く食事も取れてない上、突然異世界に連れてこられた時の精神的疲労。それ等が積み重なり、大きなモノとなって俺を蝕んでいたのかもしれない。
それから俺は、気が狂ったようにまる一日中、結界を攻撃しては、吹き飛ばされ、再び攻撃しては、吹き飛ばされる。その繰り返しをしていた。
やはり、やけくそ気味だったのだろう。結界が壊れるなんてこは万が一にも無いと思っていた。だから、俺は油断していたのだろう。
「はぁ!」
何百回目の挑戦かも分からない拳を結界に叩きつけたその時だった。
ビシッ!
「へ?」
いつも跳ね返ってくる衝撃が来ないのに、俺は心底驚いた。思わず間抜けな声を上げながら、自分の拳を叩き込んだその場所を見る。
き、亀裂が入ってる?
亀裂が入っていることを認識するのが早いか否か。それほどまでに早いペースで、殴りつけた場所を中心に、結界全体に亀裂が走った。
結界が見えない俺からすれば、何も無い空間に亀裂が走った、というべき光景であった。
そして……
バリィイイイイイインッッ!
まるでガラスが割れるような音を立てて、結界は無残に崩れ去った。
先程まで結界があった場所に触れてみるが、そこには何も無かった。そして、結界のせいで先に進めなかった場所に、指先が入っているのが分かる。
「まじかよ……」
達成感、というよりも、唖然、といった方が良いような感情が俺の中では強かった。
正直言って、結界なんて壊せると思ってなかった。
もしかしたら無意識のうちに、自分を死に追いやろうとしていたのかもしれない。体力が無くなれば、より死に近づくのは明白だろうから。
「……行くか」
そう呟いて、俺は洞窟へと足を踏み入れた。
少しだけ、結界が復活して弾かれるんじゃないか、と不安に思ったことは内緒だ。
あれから俺は、ひたすら歩き続けた。4日目くらいから森へ入り、今はその森の中を彷徨っている。
森の中なら木の実でもあるかと思ったが、木の実どこか花すら見かけない。それ故にあれから7日間、俺は何も口にしていない。
学校の鞄でもあれば、水筒と弁当があったのだが、この世界には持って来れなかったことを恨めしく思う。
そして、俺はそろそろ限界を迎えようとしていた。
一日中歩き回る疲労、そして食べ物も飲み物も口に出来ない。栄養失調で今にも倒れてしまいそうだ。
だが、それだけではない。『何も口にしていない』という事実が、精神的にもきているのだろう。
せめて木の実でも口に出来れば、根本的な解決は兎も角、一時しのぎは出来たであろう。
途中人間にでも会ってれば、食べ物でも恵んでくれたのかもしれないが、相変わらず生物の気配すら感じられない。
「はぁ……はぁ……」
移動速度が低下してきてるということが、自分でも目に見えて分かる。眠っていれば無駄な体力の浪費を避けられるのかもしれないが、結果としてそれは餓死を待つだけだ。
それに、何かしていないと不安になるっていう気持ちもあった。
雨でも降ってくれれば、状況は変わるのになぁ……。
生憎この7日間、曇ることはあっても雨が降ったことは一度も無い。そういう季節なのか、はたまた運が悪いのか……。
湖みたいな所を探し出せれば身体面でも精神面でも大分回復するんだけど。まぁ、何れにせよ、歩き続ける他ないということだろう。
「……?」
太陽の光をあまり通さないこの森だが、しばらく歩いているとある線を境に影が無くなっているのが分かる。
顔を上げると、目の前には絶壁が立ち塞がっていた。そしてその下には――
「……洞窟?」
そう、洞窟だ。
俺の目の前には、そこそこの大きさな洞窟が存在していた。
もしかしたら、洞窟なら水があるかもしれない……。
そんな僅かな期待を胸に洞窟に入ろうとした、その時だった。
バチィイイ!
「グッ!」
洞窟の中に足を踏み入れようとしたその時だった。突然、大きな衝撃を前方から受け、後ろへと転がっていく。
「痛って……。一体なにが……?」
もう一度、洞窟に踏み入れようとするが、先程同様大きく吹き飛ばされてしまう。
もしかして、あの戦いの時に見た結界みたいなやつか?
試しに、今度は洞窟の入口と地上との境界線に触れるように右手を伸ばす。
「……やっぱそうか?」
そこには、見えない壁が確かに存在していた。目には見えないが、まるで鉄のように硬い壁が、俺の行く手を阻んでいた。
「……チッ! クソがっ!」
通れないと分かると、腹いせに結界を殴りつける。
バチィイイ!
そして後方に大きく吹き飛ばされる。どうやら攻撃をすると吹き飛ばされるらしい。
こうなりゃ……どうせ行く宛も無いんだ……。とことん付き合ってやるよ!
そう心の中で叫び、再び結界目掛けて拳を振り下ろす。
バチィイイ!
そして案の定綺麗な放物線を描いて弾かれる。
今度は右足で蹴り飛ばす。
バチィイイ!
やはり結界はビクともしない。そして相も変らず後方へ飛ばされる。
今思えば、この時の俺は正気じゃなかったんだろう。たまりに溜まった疲労、7日間全く食事も取れてない上、突然異世界に連れてこられた時の精神的疲労。それ等が積み重なり、大きなモノとなって俺を蝕んでいたのかもしれない。
それから俺は、気が狂ったようにまる一日中、結界を攻撃しては、吹き飛ばされ、再び攻撃しては、吹き飛ばされる。その繰り返しをしていた。
やはり、やけくそ気味だったのだろう。結界が壊れるなんてこは万が一にも無いと思っていた。だから、俺は油断していたのだろう。
「はぁ!」
何百回目の挑戦かも分からない拳を結界に叩きつけたその時だった。
ビシッ!
「へ?」
いつも跳ね返ってくる衝撃が来ないのに、俺は心底驚いた。思わず間抜けな声を上げながら、自分の拳を叩き込んだその場所を見る。
き、亀裂が入ってる?
亀裂が入っていることを認識するのが早いか否か。それほどまでに早いペースで、殴りつけた場所を中心に、結界全体に亀裂が走った。
結界が見えない俺からすれば、何も無い空間に亀裂が走った、というべき光景であった。
そして……
バリィイイイイイインッッ!
まるでガラスが割れるような音を立てて、結界は無残に崩れ去った。
先程まで結界があった場所に触れてみるが、そこには何も無かった。そして、結界のせいで先に進めなかった場所に、指先が入っているのが分かる。
「まじかよ……」
達成感、というよりも、唖然、といった方が良いような感情が俺の中では強かった。
正直言って、結界なんて壊せると思ってなかった。
もしかしたら無意識のうちに、自分を死に追いやろうとしていたのかもしれない。体力が無くなれば、より死に近づくのは明白だろうから。
「……行くか」
そう呟いて、俺は洞窟へと足を踏み入れた。
少しだけ、結界が復活して弾かれるんじゃないか、と不安に思ったことは内緒だ。
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