上 下
55 / 56

アリスとキサラギ

しおりを挟む
「はぁ……はぁ……」

 シュウの肉体が死亡してから数日後。

 レイズ王国の周辺にて、魔物と戦う者が二人。

「てやぁ……っ!」

 可愛らしい掛け声とは裏腹に、凄まじい威力の斬撃が魔物の身体を引き裂く。

 心臓を切り裂かれた魔物は、そのまま息絶えた。

「お疲れ様です、アリス王女」
「……」

 聖剣を鞘に収め、ポケットから一枚のカードを取り出す。言わずもがな、ステータスカードだ。

「どれくらい上がりましたか?」
「……28、です……」
「結構上がってきましたね」

 その場の流れでキサラギの旅路に着いてきたアリスだが、早くも後悔をし始めている。

 基本的に人見知りな彼女が、つい数日前に出会った男に心を開けるわけがないからだ。

 それ故に、内心ビクビクと脅えながらも魔物狩りを続けている。

「それにしても、流石にこれ程のレベルになると上がりずらくなってきましたね」
「そう、ですね……」
「……グライアン王国に移動しましょうか。そこの周辺の魔物ならレベルも上がりやすいですし、僕の仲間もいますからね」

 勿論、それ以外にも理由はある。

 例えば、いつ襲ってくるか分からない魔王相手に、二人だけでは戦力的にも心許ない。

 しかし、パーティを組んでいた仲間がいれば幾分かマシにはなるだろう。彼等とて、勇者と共に戦う者なのだ。

 キサラギほどでは無いとはいえ、一般人に比べれば化け物級の強さを誇る。

 それに、軍事国家であるグライアン王国ならば、魔王が襲撃してきた時の対応は、レイズ王国よりはマシであろう。

「……」
「……」

 沈黙。

 いくら天才であり、勇者であっても、人とのコミュニケーション能力は人並み程度なのか。

 一向に心を開かないアリス相手に悪戦苦闘していた。

 共に戦う仲間である故、なるべくコミュニケーションは取っておきたいのだが、今回は相手が悪い。

 必要以上の会話をしないアリスに、キサラギは苦笑いを浮かべる他なかった。
 
「もうすぐ日没ですし、今日はここまでにしましょうか。明日、グライアン王国へ旅立ちます。馬に強化魔法をかけるので、一日程で着くでしょうし」
「わかり……ました……」
「それでは、帰りましょうか」

 ここら周辺で二人が苦戦するような魔物はいないが、暗闇の中を戦うのは危険に変わりない。

(魔王、か……)

 自分の二歩程後ろを歩くアリスに気を配りながら、キサラギは思考に浸かる。

(本当にアレは、魔王なのか?)

 彼の実力は本物だ。

 フレイアとタイマンを張っても決して引けを取らない程に。

 それほどの実力を持つ彼が魔王を倒すことは愚か、傷一つ付けることが出来なかった。

(それに、僕の持つこの聖剣。これは魔王を穿つ剣として渡された。それにも関わらず、魔王特攻のような効果も見られなかった)

 魔王を穿つ剣が、魔王に怪我一つ負わすことが出来ない。

 レベルが足りないと言われればそれまでだが、それにしてはあまりにダメージが無さすぎる気がする。

(アレは本当に魔王なのか……?)

 あれ程の実力者の部活なのであれば、四天王ももっと強力でもおかしくはないはず。

 そんな違和感をいくつか感じる。

「……」

 とはいえ、今は確信を持てるほど有力な情報は無い。

 ただ、相手はとんでもなく強いという、ただそれだけ。


(参ったな……)

 勝てるビジョンが思い浮かばない。

 口にこそ出しはしないが、自分達が勝利を収める未来が想像できない。

 やれ天才だ、やれ神童だと持て囃されてきた自分だったが、たった一人の少年に勝てる手段の一つさえ頭に描けない自分に嫌気がさす。

(シュウ君、君ならどうしたのかな……)

 山西シュウ。

 自分が勉学の天才ならば、彼は闘争の天才と言うべきか。

 自分よりも何倍も強い相手に、その頭脳一つで勝利を収める少年。

 この世界の『知力』というステータスの定義は曖昧だが、戦闘知力。いや、この場では敢えて戦闘センスと言うべきか。

 それにおいては彼に勝てる自信がない。

 いや、ステータスでこそ自分の方が勝っているが、彼と真正面から戦えば……勝てる気がしない。

 殲滅力においては戦闘力皆無である彼だが、真正面からのタイマン戦であれば恐らくこの世界最強格だったであろう。

 しかも、アレでまだ成長途中なのだから恐ろしいこと極まりない。

 魔王が自分を含める要注意人物の中で、最も警戒しているだけある。

(それに……)

 ちらりと。後ろに着いてきているアリスを見る。

 彼女は俯いていて、こちらが視線を送っていることに気付かない。

(こんな状態の彼女の心を、あれだけ開けるんだから……)

 そのコミュニケーション能力にも目を見張るものがある。

(全く、僕のことを天才だとか言っていたけれど……)

 本当の天才はどっちだよ、と。

 そう言ってやりたい気分だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜

出汁の素
ファンタジー
 アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。  これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。  そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。  のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。  第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。  第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。  第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。  第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。  1章20話(除く閑話)予定です。 ------------------------------------------------------------- 書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。 全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。 下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~

黒色の猫
ファンタジー
 両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。 冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。 最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。 それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった… そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...