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アリスとキサラギ
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「はぁ……はぁ……」
シュウの肉体が死亡してから数日後。
レイズ王国の周辺にて、魔物と戦う者が二人。
「てやぁ……っ!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、凄まじい威力の斬撃が魔物の身体を引き裂く。
心臓を切り裂かれた魔物は、そのまま息絶えた。
「お疲れ様です、アリス王女」
「……」
聖剣を鞘に収め、ポケットから一枚のカードを取り出す。言わずもがな、ステータスカードだ。
「どれくらい上がりましたか?」
「……28、です……」
「結構上がってきましたね」
その場の流れでキサラギの旅路に着いてきたアリスだが、早くも後悔をし始めている。
基本的に人見知りな彼女が、つい数日前に出会った男に心を開けるわけがないからだ。
それ故に、内心ビクビクと脅えながらも魔物狩りを続けている。
「それにしても、流石にこれ程のレベルになると上がりずらくなってきましたね」
「そう、ですね……」
「……グライアン王国に移動しましょうか。そこの周辺の魔物ならレベルも上がりやすいですし、僕の仲間もいますからね」
勿論、それ以外にも理由はある。
例えば、いつ襲ってくるか分からない魔王相手に、二人だけでは戦力的にも心許ない。
しかし、パーティを組んでいた仲間がいれば幾分かマシにはなるだろう。彼等とて、勇者と共に戦う者なのだ。
キサラギほどでは無いとはいえ、一般人に比べれば化け物級の強さを誇る。
それに、軍事国家であるグライアン王国ならば、魔王が襲撃してきた時の対応は、レイズ王国よりはマシであろう。
「……」
「……」
沈黙。
いくら天才であり、勇者であっても、人とのコミュニケーション能力は人並み程度なのか。
一向に心を開かないアリス相手に悪戦苦闘していた。
共に戦う仲間である故、なるべくコミュニケーションは取っておきたいのだが、今回は相手が悪い。
必要以上の会話をしないアリスに、キサラギは苦笑いを浮かべる他なかった。
「もうすぐ日没ですし、今日はここまでにしましょうか。明日、グライアン王国へ旅立ちます。馬に強化魔法をかけるので、一日程で着くでしょうし」
「わかり……ました……」
「それでは、帰りましょうか」
ここら周辺で二人が苦戦するような魔物はいないが、暗闇の中を戦うのは危険に変わりない。
(魔王、か……)
自分の二歩程後ろを歩くアリスに気を配りながら、キサラギは思考に浸かる。
(本当にアレは、魔王なのか?)
彼の実力は本物だ。
フレイアとタイマンを張っても決して引けを取らない程に。
それほどの実力を持つ彼が魔王を倒すことは愚か、傷一つ付けることが出来なかった。
(それに、僕の持つこの聖剣。これは魔王を穿つ剣として渡された。それにも関わらず、魔王特攻のような効果も見られなかった)
魔王を穿つ剣が、魔王に怪我一つ負わすことが出来ない。
レベルが足りないと言われればそれまでだが、それにしてはあまりにダメージが無さすぎる気がする。
(アレは本当に魔王なのか……?)
あれ程の実力者の部活なのであれば、四天王ももっと強力でもおかしくはないはず。
そんな違和感をいくつか感じる。
「……」
とはいえ、今は確信を持てるほど有力な情報は無い。
ただ、相手はとんでもなく強いという、ただそれだけ。
(参ったな……)
勝てるビジョンが思い浮かばない。
口にこそ出しはしないが、自分達が勝利を収める未来が想像できない。
やれ天才だ、やれ神童だと持て囃されてきた自分だったが、たった一人の少年に勝てる手段の一つさえ頭に描けない自分に嫌気がさす。
(シュウ君、君ならどうしたのかな……)
山西シュウ。
自分が勉学の天才ならば、彼は闘争の天才と言うべきか。
自分よりも何倍も強い相手に、その頭脳一つで勝利を収める少年。
この世界の『知力』というステータスの定義は曖昧だが、戦闘知力。いや、この場では敢えて戦闘センスと言うべきか。
それにおいては彼に勝てる自信がない。
いや、ステータスでこそ自分の方が勝っているが、彼と真正面から戦えば……勝てる気がしない。
殲滅力においては戦闘力皆無である彼だが、真正面からのタイマン戦であれば恐らくこの世界最強格だったであろう。
しかも、アレでまだ成長途中なのだから恐ろしいこと極まりない。
魔王が自分を含める要注意人物の中で、最も警戒しているだけある。
(それに……)
ちらりと。後ろに着いてきているアリスを見る。
彼女は俯いていて、こちらが視線を送っていることに気付かない。
(こんな状態の彼女の心を、あれだけ開けるんだから……)
そのコミュニケーション能力にも目を見張るものがある。
(全く、僕のことを天才だとか言っていたけれど……)
本当の天才はどっちだよ、と。
そう言ってやりたい気分だった。
シュウの肉体が死亡してから数日後。
レイズ王国の周辺にて、魔物と戦う者が二人。
「てやぁ……っ!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、凄まじい威力の斬撃が魔物の身体を引き裂く。
心臓を切り裂かれた魔物は、そのまま息絶えた。
「お疲れ様です、アリス王女」
「……」
聖剣を鞘に収め、ポケットから一枚のカードを取り出す。言わずもがな、ステータスカードだ。
「どれくらい上がりましたか?」
「……28、です……」
「結構上がってきましたね」
その場の流れでキサラギの旅路に着いてきたアリスだが、早くも後悔をし始めている。
基本的に人見知りな彼女が、つい数日前に出会った男に心を開けるわけがないからだ。
それ故に、内心ビクビクと脅えながらも魔物狩りを続けている。
「それにしても、流石にこれ程のレベルになると上がりずらくなってきましたね」
「そう、ですね……」
「……グライアン王国に移動しましょうか。そこの周辺の魔物ならレベルも上がりやすいですし、僕の仲間もいますからね」
勿論、それ以外にも理由はある。
例えば、いつ襲ってくるか分からない魔王相手に、二人だけでは戦力的にも心許ない。
しかし、パーティを組んでいた仲間がいれば幾分かマシにはなるだろう。彼等とて、勇者と共に戦う者なのだ。
キサラギほどでは無いとはいえ、一般人に比べれば化け物級の強さを誇る。
それに、軍事国家であるグライアン王国ならば、魔王が襲撃してきた時の対応は、レイズ王国よりはマシであろう。
「……」
「……」
沈黙。
いくら天才であり、勇者であっても、人とのコミュニケーション能力は人並み程度なのか。
一向に心を開かないアリス相手に悪戦苦闘していた。
共に戦う仲間である故、なるべくコミュニケーションは取っておきたいのだが、今回は相手が悪い。
必要以上の会話をしないアリスに、キサラギは苦笑いを浮かべる他なかった。
「もうすぐ日没ですし、今日はここまでにしましょうか。明日、グライアン王国へ旅立ちます。馬に強化魔法をかけるので、一日程で着くでしょうし」
「わかり……ました……」
「それでは、帰りましょうか」
ここら周辺で二人が苦戦するような魔物はいないが、暗闇の中を戦うのは危険に変わりない。
(魔王、か……)
自分の二歩程後ろを歩くアリスに気を配りながら、キサラギは思考に浸かる。
(本当にアレは、魔王なのか?)
彼の実力は本物だ。
フレイアとタイマンを張っても決して引けを取らない程に。
それほどの実力を持つ彼が魔王を倒すことは愚か、傷一つ付けることが出来なかった。
(それに、僕の持つこの聖剣。これは魔王を穿つ剣として渡された。それにも関わらず、魔王特攻のような効果も見られなかった)
魔王を穿つ剣が、魔王に怪我一つ負わすことが出来ない。
レベルが足りないと言われればそれまでだが、それにしてはあまりにダメージが無さすぎる気がする。
(アレは本当に魔王なのか……?)
あれ程の実力者の部活なのであれば、四天王ももっと強力でもおかしくはないはず。
そんな違和感をいくつか感じる。
「……」
とはいえ、今は確信を持てるほど有力な情報は無い。
ただ、相手はとんでもなく強いという、ただそれだけ。
(参ったな……)
勝てるビジョンが思い浮かばない。
口にこそ出しはしないが、自分達が勝利を収める未来が想像できない。
やれ天才だ、やれ神童だと持て囃されてきた自分だったが、たった一人の少年に勝てる手段の一つさえ頭に描けない自分に嫌気がさす。
(シュウ君、君ならどうしたのかな……)
山西シュウ。
自分が勉学の天才ならば、彼は闘争の天才と言うべきか。
自分よりも何倍も強い相手に、その頭脳一つで勝利を収める少年。
この世界の『知力』というステータスの定義は曖昧だが、戦闘知力。いや、この場では敢えて戦闘センスと言うべきか。
それにおいては彼に勝てる自信がない。
いや、ステータスでこそ自分の方が勝っているが、彼と真正面から戦えば……勝てる気がしない。
殲滅力においては戦闘力皆無である彼だが、真正面からのタイマン戦であれば恐らくこの世界最強格だったであろう。
しかも、アレでまだ成長途中なのだから恐ろしいこと極まりない。
魔王が自分を含める要注意人物の中で、最も警戒しているだけある。
(それに……)
ちらりと。後ろに着いてきているアリスを見る。
彼女は俯いていて、こちらが視線を送っていることに気付かない。
(こんな状態の彼女の心を、あれだけ開けるんだから……)
そのコミュニケーション能力にも目を見張るものがある。
(全く、僕のことを天才だとか言っていたけれど……)
本当の天才はどっちだよ、と。
そう言ってやりたい気分だった。
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