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魔王を名乗る者の正体

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「転……生者……?」
「そう、それが彼奴の正体じゃよ」

 転生者。

 一度ついえた命が、再び新たな命を貰い受けること。

 その際、前世の記憶を所持している場合もある。

「アイツが……そうだって言いたいのか?」
「その通り。……それも、お主と同じ国出身じゃよ」
「……」

 俺と同じ日本出身。転生か召喚か、この世界への迷い方こそ違えど、俺たちが争う理由など無いはずだ。

「一体どうして……」
「……精神病質、という言葉を知っておるか?」

 精神病質。通称サイコパス。

 感情の一部が欠落している精神病質者のことだ。特に、愛情などの、他人に対するポジティブ的感情が欠如しており、無慈悲なまでの冷酷さを持つことで知られている。

「じゃあ、アイツが俺たちと敵対しているのは……」
「これといった深い意味は無いじゃろうな。気まぐれじゃろ」
「……イカれてる」

 思わずそう口から零れ落ちる。

 アイツはただの気まぐれで俺を殺したのか?

「少し前、お主に勇者召喚の情報を流した奴がおったじゃろ? そいつもあの小童じゃよ」
「やっぱり……。これには何か理由があるんですか?」
「街の周辺にしか出ないお主を街から出すためじゃろ? 実際、ウィング戦がなければ、グライアン王国に向かっていたはずじゃ」
「それは、まぁ……」
「もし彼奴がお主を殺すところを誰かに見られれば、残る危険人物にも正体を悟られかねない。危険人物三人はなるべく一度に始末したかったんじゃろ」

 なるほど。確かに正体を悟られれば、厄介なことこの上ない。

「……なんでアリスは殺されてなかったんだ? アリスは俺たちと違って、この世界の住人だ。俺たちがこの世界に来る前に殺されてても不思議じゃないだろ?」
「アリス王女の先祖返りの力は後天性でな、つい最近その力を得たんじゃよ」

 はぁ……。この人は本当になんでも知ってるな。流石は大賢者と言われるだけある。

 ……最後の質問だ。

「最後の質問だ。……俺は何故生きている?」
「……」

 そう尋ねると、アルティナは無言のまま立ち上がる。部屋の隅にあるクローゼットに手をかけ、開いた。

「……マネキン?」

 そこには、真っ白なマネキンのような人形がいくつか無造作に置かれていた。

「お主は、これじゃよ」
「……え?」

 意味のわからない言葉に戸惑う。

「お主が彼奴殺される直前、お主の魂をこちらで回収したんじゃ」
「魂?」
「生命活動には欠かせない……『実態の無い心臓』と考えてくれれば良い」
「はぁ……」
「この人形はな、魂を入れれば再びその魂の肉体を再現してくれる物なのじゃよ」

 ということは、俺は死ぬ直前に魂をマネキンに入れられたってことなのか?

「完全に肉体が再現されるまで三日はかかるのじゃが……。肉体が再現する前に目が覚めてしまえば混乱してしまうじゃろ? それ故、魔法で眠らせていたんじゃよ」
「……ってことは、俺がアイツに殺されてから既に三日経過してるってことか?」
「そういうことじゃな」

 俺の身体があのマネキン……?

 自分の手のひらを開いたり、閉じたり。顔を触ったり。

 とてもあのマネキンと一緒とは思えない。

「とはいえ、内蔵さえも再現されるので、言ってしまえば完全なるコピー。食事や睡眠を取らねば死ぬし、寿命だって勿論ある。そこのところ、気をつけるのじゃよ」
「あ、あぁ」

 未だに信じられない。だが、それ以外に説明のしようがないのだからそうなのだろう。

「……話は分かった。それで、俺はこれからどうすれば良いんだ?」

 俺はあの少年を倒すために召喚されたらしいが、とてもアイツに勝てるとは思えない。

 俺の何十倍も強いキサラギさんでさえ、赤子扱いだったのだ。

 とても俺なんかでは……。

「先程言った通り、お主にはあの小童を倒してもらう」
「だけど、俺なんかじゃアイツには……」
「勿論、今のままでは勝てん。それ故、お主には強くなってもらわんとな」

 すると、寡黙な男はスープを全て飲み干したのか、スプーンを音を立てて置いた。

「貴様には、今日から私の特訓に付き合ってもらう」
「……え」

 ちょっと待て。だって目の前の男は魔王なんだろう?いや、そもそもなんで魔王がここにいるんだ?

「……今更なんですけど、なんで魔王がここにいるんですか?」

 気に触る話題だったのか、男の眉がピクリと動く。

「あの小童に負けたからじゃよ」

 沈黙を貫く男の代わりに、アルティナがため息混じりに答えてくれた。

「魔王軍の指揮官が変わった、というのはお主も察していたじゃろう?」
「えぇ、まぁ……」
「それは、こやつがあの小童に負けて魔王の座を奪われたからじゃよ。殺される直前にわしが助けたんじゃ。お主があの小童に殺されそうになった時、救出しやすいようにな」
「そうだったのか……」

 この人が魔王でも、アイツが魔王でも、人類敵になるのには代わりは無いらしい。

「私のことはどうでもいい。時間は無限ではないのだ。こんな無駄話に何の意味がある」
「無駄とはなんじゃ。単なる状況説明じゃろうが」

 そんな二人のやり取りを見ながら、スープを口に運ぶ。うん、美味しい。

「とはいえ、時間が無いのは確かじゃ。そうのんびりはしてられん」
「そういえば、この魔王さんがアイツに殺気を飛ばしたって言ってましたけど……。アイツがここに来る可能性は?」
「ほぼ無いじゃろう。ここら一体隠蔽魔法を張っている故、いくらアイツとて見つけられないはずじゃ」

 よく分からないが、取り敢えずは安全ということで良いらしい。

「次にアイツが本格的に動き出すのはいつでしょうか?」
「さぁな。あの小童は気分屋故、行動がわしとて読めん」
「未来を見る魔法とか無いんですか?」
「あるぞ」

 あるのか。

「しかし、そんな具体的な未来を見通すことなど出来んよ」
「抽象的な未来しか見通せないんですか……。あまり使えない魔法ですね」
「そうでもないぞ?」
「そうなんですか?」
「うむ、この魔法があるからこそ、今最悪な事態を免れておるのじゃからな」

 どういうことだろうか。それでは今は最悪の状況ではないように聞こえるが。

「およそ200年。わしはこの魔法を使いあの小童の存在を先に知っておったんじゃよ」
「まさか死を偽装っていうのは……」
「お主を召喚するために力を蓄えておったからじゃ」

 まさかあの大賢者の死……いや、偽装ではあったけど……それの原因が自分だとは。

「とはいえ、この魔法はいくつもある未来の一つを見ることが出来るだけの魔法じゃ」
「つまり、アイツが転生して来ない可能性もあったってことですか?」
「然り。それ故、あの小童を見つけるまでお主の召喚を延期していたんじゃよ」
「はぁ……なるほど」

 長話しすぎたな。そう言ってアルティナは立ち上がる。

「さて、そろそろ始めるぞ。こやつも言っていた通り時間がないんじゃ」
「あぁ、よろしくお願いします」
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