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勝利への道標

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 炎を纏い、先程よりも大幅に進化したフレイア。

 まずは、アリスが巻き添えをくらわないよう距離を詰める……が。

「熱っ!? 」

 あまりの熱気に小さく叫ぶ。

 距離を詰めると言っても、まだ数メートル程の差がある。それなのにこの熱気……。まるで炎に炙られてるかのようだ。

「この程度で音を上げるとはな……ガッカリだ……!」

 そうフレイアがため息を吐く。

 ……かと思えば、次の瞬間、俺の目と鼻の先にフレイアの拳が迫っていた。

 回避は間に合わない。

 後方へ飛びながら、『身体強化』を首より上に集中させる。

「がはっ……!」

 まるで車に跳ねられたかのような衝撃。

 真後ろの壁に打ち付けれ、一瞬呼吸が止まる。

 口内が鉄のような味がする。なんとか生きてはいるものの、鼻の骨は折れ、頭からは血が流れ。

 決してダメージは小さくはなかった。

「シュウさんっ……!」
「くっそ……! 安心……しろ、俺は無事だ……!」

 ダメージが大きい上に、先程から顔全体が熱くて仕方ない。

 火傷の追加効果か……。

 こんな攻撃をまた喰らえば、次こそ意識が飛ぶ……!

 それに、『身体強化』を切らしてしまえば、意識が飛ぶではすまない。

「ほぅ……これを耐えるとはな」
「ハぁ……ハぁ……」

 『回復魔法』を使用し、傷の回復に努める。奴の無駄話に付き合ってやる暇はなくなった。

「シュウさんっ、早く逃げて……っ!」

 俺のピンチに逃走を促すアリス。

 お前は本当によくできた妹分だよ。

 だけど、逃走ソレは嫌だ。

 何が目的かは分からないが、四天王二体を使ってまでアリスを攫おうとしている。良からぬこと企んでいることは明白だ。

 それに、アリスが何か危ない目に合うなんてごめんだ。

「まだまだだな、火炎野郎……。まだ俺は倒れちゃいねぇぜ……?」

 刀を再び握り、フレイアへと駆け出す。そしてそのまま乱暴に刀を振り下ろした。

「フッ! 随分とまっすぐな剣筋だな。だがまっすぐなら良いとはかぎらないのだぞ!」

 そう言いながらフレイアは剣で刀を防ぐ。

 ……いや……!?

 違和感を感じた俺は、多少強引な体勢にはなったが、なんとかフレイアと距離をとる。

 そして、違和感を感じた刀を見てみると……!?

「折れてる……いや、溶けてる……!?」

 刀身の半分より先が綺麗に無くなっている。そして、断面からはぽたぽたと銀色の液体が垂れている。

 冗談だろ……。いくら細い刀とはいえ、『属性付与エンチャント』を使い、氷魔法で強化していたんだぞ。

 それを一瞬で溶かすとか、どんな熱量だよ……。

「さて、武器無くなったちまったな。どうしたもんか……」

 そう言いながら溶けた刀をフレイア目掛けて投げつける。だが勿論、そんな適当な攻撃が当たるはずがなく、巨大な剣で弾かれてしまった。

 まぁ別にこれは何となく投げただけだから特に意味は無いので、弾かれることは初めから予想出来ていた。

「随分と冷静だな」
「まぁ元々武器なんてあってもお前には効かないしな」

 とはいっても、このままじゃいずれ奴の攻撃を受けるのは必然。拳一つの攻撃でさえあんなダメージだったのだ。

 まともな攻撃を受ければ即死……。

 過去に戦った四天王全てを上回るその気迫に、思わず後退りをする。

 いっそこいつあの壁の穴から落としてやろうかな。下は湖だし、水タイプは効果抜群ってことでダメージを受けてくれないだろうか。

 ……こいつのことだから湖の水すら蒸発させてしまいそうだな……。

「待てよ……落とす……?」

 これ……案外アリじゃねぇか……?

「何をさっきからブツブツ言っている、怖気付いたか?」
「……」

 いや、それには火力が足りないか?だが、こうしていてもいずれは死ぬだけだ。

 しかし、もし奴が俺の作戦に乗って来なければアリスが……。

 いや、奴はアリスを狙っている。それなら、アリスも俺と一緒に来れば奴は乗らざるを得ない。

 ……ダメ元とはいえ、やってみる価値はある。

 というか、今までもダメ元で生きてきたんだ。運が悪かったらもう何回死んでるかも分からない。

「仕方ねぇ……分の悪すぎる賭けだが……やってやるよ」
「……何をする気だ?」

 とはいえ、下準備が必要だ。まずは奴の火力を上げてやらないとな。

「おいおい、てめぇの炎ってのはその程度なのか? これじゃあ暖炉の炎の方がまだマシだぜ?」

 あくび混じりに挑発してやる。これに食いついてくれれば……。

「……ふむ。何を企んでいるのかは分からぬが、面白い。その挑発に乗ってやろう」

 そう言って何やら力を溜め始める。よし、取り敢えず第一関門は突破だ。

 俺の挑発に載せられたフレイアがどんどんと火力を上げていっている。あまりの熱気に息苦しささえも覚える。

 よし、そろそろか。

 アイツが動けない隙に、俺はアリスのそばに駆け寄る。

「シ、シュウさん……!? 一体何を……?」 
「まぁ任せとけ。はいちょっと失礼」
「え、あ、ひゃんっ!」

 あわあわと慌てているアリスを差し置いて、所謂お姫様抱っこなるものをやる。

 まさか俺がこんなことをやることになるとは思わなかったよ。

「待たせたな……これが、我の全力だ!」
「え、早くね」
「さぁ行くぞ……!」
「え、ちょ」

 突進してくるフレイアを寸前のところで避ける。

 ってか熱っ!

 フレイアが勢いのままに壁に激突し、部屋全体が大きく揺れる。

「アリス、大丈夫か!?」
「は、はい……大丈夫です……!」
「よし、行くぞ!」

 アリスの安否を確認した俺は、フレイアとは反対方向へ走り出す。

「え、行くってどこへ……?」

 俺の言葉に困惑の色を顔に浮かべまながら、そう尋ねる。

 背後を振り返ると、フレイアは既に体勢を整え、俺達へ攻撃しようという挙動が見られた。

 躊躇している暇は無さそうだ。

「どこって……そりゃ勿論……」

 俺は不安げなアリスに向けて、ニヤリと笑いこう言った。

「外に決まってんだろ!」
「え……?」

 フレイアが空けた大穴を潜り、俺は空へ翔んだ──!
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