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勇者の力
しおりを挟むバンッ!
静寂に支配された会話を、そんな音が打ち破る。
音の発信源を見てみると、そこには両手を机に置いている王女さま。
俺は思わぬところからの攻撃(?)に衝撃を隠せないでいた。
「そ、その……シュウさんは私の命の恩人ですし……。ちゃんとおもてなししないと……いけないです……」
おぉ……あの人見知り王女がこんなに喋るとは。最後の方聞こえなかったけど。
音に見合わない小さな声に、何だか和んでしまった。
「まさかアリスがここまで言うとはな……。安心しなさい、引き続き、シュウ殿の騎士団達の宿泊寮での宿泊を許可する」
「あ、ありがとうございます……! 王女様も……感謝します……!」
「い、いえ……私は当然のことをしただけで……」
王族は民を見下してたりするイメージだったけど、結構良い人達だな。勿論、裏の顔の一つや二つあるだろうけど。
それを考慮しても、この子は多分良い子だ。俺が保証する。
「勇者召喚の件を聞いたのは四天王戦前なので、向こうもまさかレイズ王国に移動するとは予想していないと思います。しばらくはこの国で様子見をしようと思うので……」
「心得た。何か分かったら教えてくれ」
「了解しました」
もし勇者と俺が出会うことで、向こうの目的が達成されるのであれば、出来ることなら会いたくは無いな……。もし勇者がこの国に来たら出ることも考えなければ。
会うしてもせめて、ある程度の実力を身に付けてからにしたいな。これで日本人をまとめて抹殺する、なんて目的だったら目も当てられない。
尤も、どうしてそんな目的を持っているのかは分からないが。
「他になにか聞きたいことはあるか?」
「……出来れば勇者の実力を教えてほしいのですが」
「それはステータスを知りたい、ということで良いか?」
「はい」
例の人間の言う通り、全ステータスが100前後なのかも気になる。
「持ってこい」
「はっ!」
王様がそう言うと、後ろにいた騎士が部屋から出て行く。しばらく待っていると、一枚の紙を持って騎士が戻って来る。
「これを……」
騎士がその紙を俺に差し出す。これにステータスが書いてあるのだろうか。
紙を広げると、やはり勇者と思わしき人物のステータスが書き記されていた。
===
名前 キサラギ アツト
性別 男性
年齢 20
職業 勇者
レベル 1
HP 124/124
MP 112/112
攻撃力 131
物理防御 95
魔法防御 92
素早さ 90
知力 189
【スキル】
聖剣
言語能力習得
===
「これが……」
なんという高スペック。個人的には『言語能力習得』という能力が羨ましいですね。
それにしても、ステータスの数値はどれも確かに100前後。どうやら偽りの情報ってわけでもなさそうだ。
ますます相手の狙いが分からなくなってきた。
「……ん?」
ステータスの一番上の項目。名前のところで何かが引っかかる。
キサラギアツト……。どこかで聞いたことがあるような……。
「どうした?」
「いや、なんでもありません。それにしても……凄いステータスですね」
「なんでも歴代の勇者で最も高いステータスらしい」
歴代ってことは、これまでに何度も勇者を召喚しているのか。歴代勇者達に同情する。
それにしても、グライアン王国が召喚した勇者のステータスを知っているということは、少なくともこのレイズ王国とグライアン王国は敵対関係には無い、ということで良いのだろうか。
「僕のステータスの10から20倍も高いとは……流石勇者、と言うべきでしょうか」
「シュウ殿は黒髪黒目故にステータスは高いと思っていたが……そうでもないのか?」
「お恥ずかしながら、知力以外のステータスは平均以下ですね」
王様の言い方からすると、黒髪黒目の人間はステータスが高いってことなのか?俺は地球人だからノーカンってこと?悲しいね。
「知力が高いのならば、冒険者以外にも良い職があると思うのだが……」
「これに関しては、別に好きで冒険者をやってる訳では無いですよ……」
身分証無しで色んな店に雇って下さいと言い回ったとか口が裂けても言えん。
「どうりで冒険者にしては頭が回ると思ったが……そういうことだったのか」
「まぁ……そうですね」
勇者の情報を与えた人物。そいつの目的はまだ分からない。
だが……何か嫌な予感がする。
窓から覗く夜空を静かに見上げた。
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