傍観者を希望

静流

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「我らにしては不便な国ですが、誤魔化しが効かないのは、セイ様の安全の為には有り難いですな。まあ、だから今回のような真似をしたんでしょうが」

「警護の目を掻い潜るよりは、容易いが…余程の腕がないと無意味だろう?」

「ええ。だから、今回はどうも試験的な試みだったようです。何処まで通用するかを見極めたかったからやった結果で、成功は最初から特に期待してない。上手くいけば、それはそれで良いというくらいの気持ちだった可能性があります」

「…随分と自分の配下に冷淡だな。それとも、単に金で雇っただけか?」

「はい。御察しの通りで、傭兵崩れに依頼しただけです。流石に記憶の操作は、配下を使ったようですが、即座に撤収させ既に出国してます」

「その口調だと、目星を付けて既に捕獲済みか?」

「ええ。序でに北の牢に入れてます。魔法も封じたので、足掻きようがないですからご安心下さい」

精霊の機嫌を損ねる愚策を練るとは大国も何をやっているんだかと、呆れるだけで怒る気も失せてきていた。

「ライ。それで、庭師は今何をしているんだ?牢に送り込んだのも彼だろうから、ある程度の動きは知っている筈だよね」

「…確かに捕獲し魔法を封じたのは庭師ですが、その後に関しては不問に願えませんか?私の報告が許されているのはそこまでですし、それ以上は本人にお尋ね下さい」

「口止め済みか、相変わらず手際がいいというか、先回りして手を打つな。…なら、大国の動きは?」

「それを訊きますか…。セイ様、少々意地が悪くないですか?」

一瞬固まって、言葉を返してくるが、報告というよりは恨み節に近い文句だった。

「悪いな。だが、やはり…か。一応は釘を刺して置いたが、けっこう機嫌が悪かったからな」

「…釘は刺したのですか。で、止めはしなかったのですね?珍しく手抜きをと言うより、抜け道を用意しましたね」

「私もあの時点では、幾分腹を立て、機嫌が悪かったのでね。ただ、今更ながら気になってしまうのだ。庭師は、私以上に気分を害していたからな」

「その辺は心配ないかと。間違っても、セイ様の怒りを買うような、下手は打ちませんから」

「アレの匙加減は確かだが、私の機嫌をとるのも同様に上手いから心配なんだ」

ライの言うように、大国や陛下と違い私の気分を害する事はないが、納得する状況を作り、苦情を生まない方向に持っていく手腕がこれまた上手いのだ。

後でよくよく考えて、嵌められたことに気付いたが、その時点では既に怒るには時期を逸している。序でに言えば、唖然とするのが先で、怒る意欲が失せるのだ。
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