傍観者を希望

静流

文字の大きさ
上 下
188 / 292

188

しおりを挟む
「前置きはそれ位にして、本題に入りませんか?」

ライ達が、報告書を読み終えたのを視界の隅で捉え、陛下に話題の変更を求めた。
陛下にとっても都合が良く、本来の話題の為に居住まいを正している。

「そうだな、それで確認は取れたのか?」

「ええ。先程も申し上げたように、ライが持っています」

目配せすれば、ライが陛下に差し出している。

「妙に分厚いが…。セイ殿?」

パラパラと捲り、目があるページで釘付けになっている。

「その報告を上げた者が、色々と便宜を図ってくれまして、裏も取り易いですよ。但し、詮索は無用でお願いします。そういう約束ですからね?」

訊きたいことは察していたが、先に釘を刺し質問を封じた。
陛下がジトっと睨み据えてくるのを、敢えてにっこり笑って受け流す。

「最初から計算尽くとは。セイ殿、よくも謀ってくれましたな」

「先に保険はかけましたが、こういう報告になる想定はなかったのですよ。お蔭で助かりましたが…」

肩を竦めてみせ、態とではないと弁明はするが、前言を撤回する気もなかった。

「約束は守るが…、分かっている。追求はせぬから、そう棘のある視線を向けるな」

「では、そろそろ内容そのものを検討した方が、いいのでは?私としては、出所よりもそちらの方が問題ではないかと」

なお拘る様子を見せる陛下を半眼で見据えれば、機嫌を取るような真似をするので、話を進めるよう先を促す。

「確かに内容からすれば、瑣事に過ぎないが…。如何やって調べたのだ?」

陛下は、眉を顰め内容だけに疑念が湧くようだった。
宰相殿が、遣り取りを観察しながら、胡乱気な視線を投げてくる。

「陛下、それで一体どのような内容なのですか?」

陛下は煩わしそうに、報告書を渡し説明を省いている。
口にするのも嫌だ、という気持ちはよく分かるのだが、少々宰相殿が不憫に思える対応だ。もっとも、当の本人はさして気にも留めてない。

「呆れ果てる内容ですが、どう手を打ちましょうか?」

宰相殿も、目を通して報告書を嫌そうに見ているが、流石に扱いは丁寧だ。

「如何と言われてもな…。面倒事を増やすのが目的か、と疑いたくならないか?」

考えるのを放棄するような同意を求めてくる。
事を構えるのは得策ではないが、既に起きた案件を不問で済ませる訳にもいかない。

「陛下。公爵家の内紛で片付け、東の方に幽閉されては如何ですか?」

「…内紛か。確かに一理あるが、取り潰して幽閉は行き過ぎだろう」

「見せしめを兼ねてですが、東の片田舎で監視付きでも、自由に過ごさせては駄目でしょうか?」

利用されないように大国の反対側で、楽隠居を提案していると解り、陛下が渋い表情を浮かべた。

「操られていたとはいえ、到底看過できないのだが…セイ殿は恩赦を求めるのか?」

「僭越ながら、私も同意見です。セイ様、お考え直しを」

2人して幽閉案を却下してくるが、利用価値があると踏まれても困るのだ。
だが、同じ事を繰り返さないための善後処置としては、納得して貰えないようで、逆に困って眉尻が下がる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...