傍観者を希望

静流

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「いい加減に認めたらどうだ。ステファンを愛しているんだろう?」

「っそ、そんなことはないわ。あんな狭量な馬鹿を?ありえない」

「ステファンを、そんなふうに評するのは貴方ぐらいだよ。彼は、結婚相手として引く手数多で、選びたい放題の立場だ。このままでいいのか?」

「…。私は別に…、あんな奴がどうしようと構わないわ」

「意地張っりだな。もう少し素直になったら?心配のあまりに、暴走するより建設的だよ」

「心配なんてしてないわ。勝手なこと言わないで」

さっきまで、領主就任を反対していた割に、頑固なことだ。
溜息を吐いて、苛立ちを抑え込む。

「では、ステファンが領主でも構わないね。特に理由がないのなら、今後は考慮しない。見逃すのも今回限りだから、そのつもりで」

「えっ待って!だから、次期領主は…」

言い募ろうとして、黙ってしまう。

自分でも、やっている事が支離滅裂で、反論するのも可笑しいと理解したようだ。

唇を噛み締め、真白で血が滲んでないか気になってしまう。


突き放してみても、貝になってしまった相手に、此方が泣きたくなる。

この手の説得には、私は向いていないのだ。

恋心や男女の機微は、理解不能だし、そもそも女性恐怖症の私には、恋愛相談は難解で無理がある。自分で自己弁護して余計に虚しくなった。

私好みというか、許容範囲の黒のズボンにベスト姿で、執事服の簡易版の服装も、女性が苦手な領主故に考案された仕事着だ。

主な公的機関の女性職員は、全員この服だが、意外と人気らしい。
私も、自己防衛故の攻撃対象にせずに済んでいて助かっている。

ただ、これだとお洒落が出来ないのが難点で、ほぼ此処に住み着いているこの子は、下手すると制服以外を持っていない気がする。給料は、家族に大半を渡しているし、ここに居れば大丈夫だと豪語するほど無頓着なのだ。

年ごろの女性がそれでいいのかと、逆に勧めたくなる始末だが、人見知りも災いして、外に出ないから不要だと以前は言っていた。

ステファンが好きなら、此方に帰ってくる今が狙い目だが、こうも引っ込み思案だと、それも難しい気がする。

ステファン自身は、幼馴染で気になる存在だったようだが、それも学園に入学する前の事で、今は不明なのも問題だ。

背中を押したのが裏目に出た場合、今以上に引きこもって仕事中毒になりそうで、現状を先に変えた方がいいのか…と、条件ごとに調整が必要になる。

だが、どの場合にも共通する改善点は、この際ついでに手を打った方が良いだろう。

「…確かに愛しているわ。だから、…次期領主はなって欲しくないの。ねえ、お願いよ。ステファンを任命しないで」

他の思案に頭を巡らせ始めた頃。漸く、控えめな声で嘆願してきた。

「それは、本心か。それとも、今までの続き…というのも変だが、新手の反対理論で主張しているのか。どちらだ?」

敢えて問い詰める。また、はぐらかされたら堪らないと、言質を求めた。

「本心よ。愛しているから、罰せられそうな就任は、断固反対。セイ様、個人的理由での妨害行為については、幾重にも謝罪申し上げます。ですが、どうか願いをお聞き届け下さい」

言葉の途中で跪き叩頭し、懇願してみせる。
形振り構わない姿には、残念ながら心は動かないが、真意は理解した。

「頭を上げなさい。先ずは、椅子に座って説明してくれないか」

大まかな概要は、想定可能だが、詳細は確認する必要があった。
全容を把握している者に、確認して置かないと、指示漏れで問題が勃発する可能性も捨てきれない。

観念して、淡々と始めから現在までの動きを述べた。
客観的な視点での解説は、分かりやすく、証拠の書類まで整えられていた。

どうやら最初から、成功させる気は無かったようだ。
失敗か頓挫を狙って計画を練っているのには、感心させられた。
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