ティラミス

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「ライラスさん？えっそんなに騒いでないのに…」

「気にするところが間違ってますよ」

思わず漏れた職員の言葉に、ライラスが溜息を零している。
隣席と部署長だけが、コッチに視線を向けていて、私が通報したと気付いたようだった。

「ライラスさんも、お聞き及びではありませんか？」

「先程ね。実際に見聞きした方々から、色々と言われたが、カイさんは不問でいいと流していたのだが…この状態はそれに反します」

「我等にしても、我慢の限度を越えているからですよ。カイ君の言に従って放置っていうのも、暢気ではありませんか？」

「当事者が構わないと言うのに、周りが口出す必要があるとは思えませんよ。それとも、何か裏で画策でもしてますか？」

スゥッと目を細める姿に、周りが息を詰めた気配がした。
ライラスの静かな怒りを感じ、みんな引いているのだ。

「変なこと言わないで下さい。何も裏はありませんから…な、そうだよな？」

「ああ、単に日頃の鬱憤を晴らしたというか、爆発した感じです。憶測で、変な疑いをされても困ります」

「そうよ。妙な勘繰りはしないで下さい」

口々に弁明しているのだが、微かに態度がおかしい。
もっと言えば、ライラスは確証のない事は口にしない筈で、彼等の釈明は逆効果になっている感じだった。

「だから言っただろう？この手の事は調査が必要だとね」

「今回ばかりは、閣下の意見に従って正解のようです。少々、業腹でもありますが」

アレクが、場違いな含み笑いを洩らしている。
ただし、目は凍てついて声音も冷ややかだった。

応じるライラスに到っては、苛立ったような空気を纏っているが、同時に悲哀さも含んでいた。

「騒動を起こしてカイさんも、不適合とする予定なのでしょうが、それは虫が良すぎますよ。カイさんは、一時預かりだと伝えて置いたのを失念したんですか？」

「もちろん覚えていますが、いったい何の話ですか？」

「言い逃れは見苦しいだけです。早々に認める事を勧めますよ」

「何もしてないのに、私が何を認めるんですか？」

ライラスの言葉も、シラッと流している隣席はともかく、部署長は顔が蒼白になっている。こう見ると、何かしらの裏があると考えるのが妥当そうだ。

チラッとアレクに視線を遣れば、軽く顎を引いている。

「証人は酒場の亭主、証拠は文章偽装の請負人の所で押収済みですよ。惚けるのも、大概にしなさい」

「げっアイツ…売りやがったのか」

「幼馴染だそうですね。かなり心配していましたよ？それを、そんな風に言うとは…何方が友達甲斐がないのでしょうね」

「あっさり、客の話を漏らす方が悪いに決まっている」

ライラスの言葉に噛み付く隣席に、こんな人だったのかと茫然とさせられた。
面倒見の良い大人だ、とずっと信じていたのだから、尚更ショックだった。