ティラミス

静流

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「随分、虫がいい話ですね。自分はされたくないと禁止し、相手の条件は善処で受け入れさせる気ですか?番が大事なら、優先順位が逆なのではないのですか?」

「クルス。気持ちは分かりますが、馬に蹴られたいのですか?」

恋愛に関して口出しするな、と復活していた支配人が、やんわり嗜めている。

「つくづく嫌味な男だな。カイ殿も同様に善処、もしくは努力で構わない。慣れないと普段の癖が出てしまうようなので、追々移行する方向でどうですか?」

「分かりましたが…仕事ではないのですから、お互い気をつける程度で良いのでは?」

何か仕事の申し送りのようで、どうにも違和感がある。
私生活も、全て軍隊式なのだろうかと、一抹の不安もあった。

「それでも構わんが…本当に良いのか?」

「話し合いながら、少しずつ、お互いに無理のない関係を、築きませんか?」

「分かった…というか、努力しよう」

何故だか、妙に自信なさそうな表情で、そんなに困難なことを、言ったのかと首を傾げてしまう。

「あの、そんなに堅苦しく考えずに、気楽にできる範囲で良いのですが…」

「あ、これは申し訳ない。カイ殿に、そこまで気を遣わせてしまうとは、不甲斐なくて済まない」

自分が心配されていると気付いて、詫びてきたが、こればかりは同等の立場で、どちらが上と拘る必要はないだろう。

「アレクさんとは、立場は違いますが、恋人としては対等なはずです。ですから、謝らないで下さい」


「カイ様、人が良すぎです。閣下を甘やかして、自分が妥協するのでは、無意味ですから駄目ですよ?」

「そうですな。対等とは言っても、年が一回り以上離れてます。甘えるくらいで丁度いいかと…」

「番だと、迫っている方が折れるならまだしも、カイ様が譲歩してどうするんです。本末転倒です」

「凄い言われようだけど、その点は同意するわ。こういうのは、本来なら惚れた方が負けなのよ?」

他人の事は言えないのでは…と、サラを唖然と眺め、ライラスとの力関係が、想像がつき乾いた笑みが浮かぶ。

「サラ様、勝負をしている訳ではないのですよ?まだ、手探りの段階ですから、相互理解が先です。アレクさんを、よく知りませんから、一足跳びには無理です」

そもそもの立ち位置が違うと、指摘すれば、目を瞬かせ「そういえば、そうよね」と呟いている。

昨日、初めて会話したばかりで、甘えるとか勝てというのは、無茶な話だと納得して欲しいものだ。

他の面々も、目を泳がせたり、意味もなく半笑して誤魔化している中、クルスは首を傾げ不満げな顔をしている。

「いや…カイ様の言うのも、もっともだとは思いますが、それは同年輩の時では?年も上で、先に情報を調べ上げていた閣下が、色々と配慮するのが普通でしょう?」

恋人というより、世間一般的な関係から言えば、その主張は当然だった。
確かに、仕事関係なら、まず間違いなくアレクの手落ちだろう。

意外にも、最もまともな事を言っていて、クルスの株が、自分の中で上がっていた。
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