ティラミス

静流

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「アレクさんも、似た行動を取りそうですから、私も秘匿させて貰いますね?」

にっこりと、告げれば情けない顔に様変わりしたが、自分が言い出した事だけに、反論も出てこないようだ。先程の取り決めを、失念している訳でもないだろうが、嬉しくない事態なのは見てとれた。

「カイ様の方が、一枚上手ですな。これは、いい光景を見せて頂きました」

支配人が、さも愉しそうに言っている。此方も、喉元過ぎれば忘れるようで、いい性格をしている。

「先に惚れた方が、負けだと相場が決まっているらしいからな。致し方ないだろうに、そう揶揄する気か?」

「滅相もありません。ただ、微笑ましい光景だと思いましてな。閣下のご兄弟が、ご覧になれば、さぞ驚き喜ばれることかと」

支配人も、多少は考慮しているのか、たった1人の兄弟である陛下を、敢えてボカしてあげている。

気配りが行き届いているが、アレクからは、他の面で活かしてくれという雰囲気が漏れ出ていた。

「私の醜態をご覧になったところで、何の利点があるのだ?」

「閣下。もう少し、気楽に生きた方が宜しいのでは?何で、そう利害が先立つのですか…」

「生憎、その手の話題しか縁がないのだが?例外が、カイ殿のみなのは、分かっているだろう」

支配人が意図する方向とは、真逆の事を言い、何故か殺伐とした空気になっている。
話の流れが、おかしな事になって、空気も妙に重く冷えて感じられ、思わずアレクの服をクイクイと引っ張っていた。

「カイ殿、どうかしたのか?」

此方への視線には、慈愛が溢れていて、冷気も幾分軽くなる。
これだけ、周りに影響を及している割に、不思議そうに見下ろされて、嘆息を零しそうになった。

「その、そろそろ席の方に戻りませんか?マック達も、待ちくたびれてしまいます」

服を引いたものの、取り分け言うことが浮かばず、この場とは無関係の話を振っていた。

「そうだな。迎えに来たのを失念していた。支配人、他に用がないなら席に戻るが?」

「此方も、長々とお引き留めし、申し訳ありません。当方は特に御座いませんが、ご来店の予定を、後日にでもお知らせ頂けますか?」

「それならば、明日の昼食をお願いして置こうか。一週間、通えばいいのだろう?」

「ご迷惑をお掛けします。では、そのように手配させて頂きます」

「私としても、連日カイ殿に会う口実ができた。一応は感謝している。よしなに頼む」

此方の予定を訊かずに、勝手に話を纏めた事には、苛立ちを覚えるが、内容自体には賛同でき、気分はどっちつかずで、何となくモヤモヤしていた。
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