ティラミス

静流

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「…ルイス?叔父上は何を考えているんだ」

お茶を堪能していると、横からアレクのげんなりした声がした。

「お気付きですか?丁度、大量に出来出したので、宣伝を兼ねて店にも少々寄贈したんです。暫くは、当店でも楽しめますよ」

営業的な笑顔で応じている。
だが、態と音量も多少大きくなった点からしても、店の宣伝が優先のようだ。
中々抜け目のない研修生だと、視線を支配人に向けたら、しっかり目が合う。

「お客様…、不躾とは思いますが、名をお呼びする許可を頂いても宜しいですか?」

口にしながら、一瞬口籠って了承を求めてきた。
確かに、こう何度も「お客様」と言われる機会も珍しい事態だ。

「構いません。そちらの「ルイス」さんも名で呼んで下さい」

名を口にして良いものか、迷ったところをアレクが言葉を被せてきたので、続けて話した。
名指しされたルイスは、困惑顔を支配人に向け、指示を仰いでいた。

「カイ様、許可いただきお礼申し上げます。ルイス、早くお礼を申し上げなさい」

「私もお呼びして本当に宜しいのですか?」

礼の前に、今一度と言うように確認をしてくる。
用心深くもあるが、気分を害するほどでもない問いだったのだが、アレクからは冷たい視線を向けられた。

「はい、構いません。その代わり、私もルイスさんとお呼びして良いですか?」

隣から、射殺すような視線を向けられているとは気付かず、穏やかに返したのだが、当のルイスは蒼白になって首を振っている。

「いえ、私に敬称は畏れ多いので、どうか呼び捨てでお願いします」

必死に言い募る姿に、目を疑い、まさかと横を盗み見た。
自分には向けられた事のない眼差しで、飛び退きたい衝動に駆られるが、自分を宥めすかし誤魔化す。

「…では、ルイスと呼ばせて頂きますね。アレクさん、茶葉がどうかしたのですか?」

円滑に進めるために、アレクに話題を振るが、一応先程から気になっていたので嘘でもない。

「ああ。この茶葉は、叔父上が栽培している物と同じだから確認しただけだよ」

此方に向ける視線や態度は、打って変わって甘い雰囲気まで伴っている。
先程との落差に、同一人物とは思えない程だ。

「?あの、確か元軍人だと言われてませんでしたか?」

「その通りだが…。ああ、今は楽隠居がてら趣味で茶葉を栽培しているのだ。紅茶好きの奥方の為に、必死で研究した結果だそうだ」

サラッと告げられたが、既にそれは趣味の域ではない気がするのは私だけか?
しかも、最高級品で店に卸せる出来栄えとは…。
次元が違うように感じて、何となく此処にいて良いのかと目を彷徨わせていた。

「カイ様。ですので、お気軽に今後当店で注文して下さい。気に入られたら当店に卸してくれる約束だったので、私としても非常に助かりました」

暗に、気兼ねする必要は一切ない、と保証しているような物言いだ。
ルイスに目を遣っても、和かに頷いて追認している。

「料理や好みの調査で、出向する代償がそれなのか?だとすれば、随分と吹っ掛けたな」

アレクは、呆れた視線を支配人に向けているが、口元は笑っている。
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